聖書・Bible(新共同 訳・聖書から)を読もう。  

    引用:聖書 新共同訳:(c)日本聖書協会 Japan Bible Society , Tokyo 1987,1988から


マルコによる福音書 1章

 
◆洗礼者ヨハネ、教えを宣べる
1:神の子イエス・キリストの福音の初め。
2:預言者イザヤの書にこう書いてある。「見よ、わたしはあなたより先に使者を遣わし、/あなたの道を準備させよう。
3:荒れ野で叫ぶ者の声がする。『主の道を整え、/その道筋をまっすぐにせよ。』」そのとおり、
4:洗礼者ヨハネが荒れ野に現れて、罪の赦しを得させるために悔い改めの洗礼を宣べ伝えた。
5:ユダヤの全地方とエルサレムの住民は皆、ヨハネのもとに来て、罪を告白し、ヨルダン川で彼から洗礼を受けた。
6:ヨハネはらくだの毛衣を着、腰に革の帯を締め、いなごと野蜜を食べていた。
7:彼はこう宣べ伝えた。「わたしよりも優れた方が、後から来られる。わたしは、かがんでその方の履物のひもを解く値打ちもない。
8:わたしは水であなたたちに洗礼を授けたが、その方は聖霊で洗礼をお授けになる。」
 
◆イエス、洗礼を受ける
9:そのころ、イエスはガリラヤのナザレから来て、ヨルダン川でヨハネから洗礼を受けられた。
10:水の中から上がるとすぐ、天が裂けて“霊”が鳩のように御自分に降って来るのを、御覧になった。
11:すると、「あなたはわたしの愛する子、わたしの心に適う者」という声が、天から聞こえた。
 
◆誘惑を受ける
12:それから、“霊”はイエスを荒れ野に送り出した。
13:イエスは四十日間そこにとどまり、サタンから誘惑を受けられた。その間、野獣と一緒におられたが、天使たちが仕えていた。
 
◆ガリラヤで伝道を始める
14:ヨハネが捕らえられた後、イエスはガリラヤへ行き、神の福音を宣べ伝えて、
15:「時は満ち、神の国は近づいた。悔い改めて福音を信じなさい」と言われた。
 
◆四人の漁師を弟子にする
16:イエスは、ガリラヤ湖のほとりを歩いておられたとき、シモンとシモンの兄弟アンデレが湖で網を打っているのを御覧になった。彼らは漁師 だった。
17:イエスは、「わたしについて来なさい。人間をとる漁師にしよう」と言われた。
18:二人はすぐに網を捨てて従った。
19:また、少し進んで、ゼベダイの子ヤコブとその兄弟ヨハネが、舟の中で網の手れをしているのを御覧になると、
20:すぐに彼らをお呼びになった。この二人も父ゼベダイを雇い人たちと一緒に舟残して、イエスの後について行った。
 
◆汚れた霊に取りつかれた男をいやす
21:一行はカファルナウムに着いた。イエスは、安息日に会堂に入って教え始めらた。
22:人々はその教えに非常に驚いた。律法学者のようにではなく、権威ある者としてお教えになったからである。
23:そのとき、この会堂に汚れた霊に取りつかれた男がいて叫んだ。
24:「ナザレのイエス、かまわないでくれ。我々を滅ぼしに来たのか。正体は分かっている。神の聖者だ。」
25:イエスが、「黙れ。この人から出て行け」とお叱りになると、
26:汚れた霊はその人にけいれんを起こさせ、大声をあげて出て行った。
27:人々は皆驚いて、論じ合った。「これはいったいどういうことなのだ。権威ある新しい教えだ。この人が汚れた霊に命じると、その言うこと を聴く。」
28:イエスの評判は、たちまちガリラヤ地方の隅々にまで広まった。
 
◆多くの病人をいやす
29:すぐに、一行は会堂を出て、シモンとアンデレの家に行った。ヤコブとヨハネも一緒であった。
30:シモンのしゅうとめが熱を出して寝ていたので、人々は早速、彼女のことをイエスに話した。
31:イエスがそばに行き、手を取って起こされると、熱は去り、彼女は一同をもてなした。
32:夕方になって日が沈むと、人々は、病人や悪霊に取りつかれた者を皆、イエスのもとに連れて来た。
33:町中の人が、戸口に集まった。
34:イエスは、いろいろな病気にかかっている大勢の人たちをいやし、また、多くの悪霊を追い出して、悪霊にものを言うことをお許しにならな かった。悪霊はイエスを知っていたからである。
 
◆巡回して宣教する
35:朝早くまだ暗いうちに、イエスは起きて、人里離れた所へ出て行き、そこで祈っておられた。
36:シモンとその仲間はイエスの後を追い、
37:見つけると、「みんなが捜しています」と言った。
38:イエスは言われた。「近くのほかの町や村へ行こう。そこでも、わたしは宣教する。そのためにわたしは出て来たのである。」
39:そして、ガリラヤ中の会堂に行き、宣教し、悪霊を追い出された。
 
◆重い皮膚病を患っている人をいやす
40:さて、重い皮膚病を患っている人が、イエスのところに来てひざまずいて願い、「御心ならば、わたしを清くすることがおできになります」 と言った。
41:イエスが深く憐れんで、手を差し伸べてその人に触れ、「よろしい。清くなれ」と言われると、
42:たちまち重い皮膚病は去り、その人は清くなった。
43:イエスはすぐにその人を立ち去らせようとし、厳しく注意して、
44:言われた。「だれにも、何も話さないように気をつけなさい。ただ、行って祭司に体を見せ、モーセが定めたものを清めのために献げて、人 々に証明しなさい。」
45:しかし、彼はそこを立ち去ると、大いにこの出来事を人々に告げ、言い広め始めた。それで、イエスはもはや公然と町に入ることができず、 町の外の人のいない所におられた。それでも、人々は四方からイエスのところに集まって来た。
 
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マルコによる福音書 2章

◆中風の人をいやす

1:数日後、イエスが再びカファルナウムに来られると、家におられることが知れ渡り、
2:大勢の人が集まったので、戸口の辺りまですきまもないほどになった。イエスが御言葉を語っておられると、
3:四人の男が中風の人を運んで来た。
4:しかし、群衆に阻まれて、イエスのもとに連れて行くことができなかったので、イエスがおられる辺りの屋根をはがして穴をあけ、病人の寝て いる床をつり降ろした。
5:イエスはその人たちの信仰を見て、中風の人に、「子よ、あなたの罪は赦される」と言われた。
6:ところが、そこに律法学者が数人座っていて、心の中であれこれと考えた。
7:「この人は、なぜこういうことを口にするのか。神を冒涜している。神おひとりのほかに、いったいだれが、罪を赦すことができるだろう か。」
8:イエスは、彼らが心の中で考えていることを、御自分の霊の力ですぐに知って言われた。「なぜ、そんな考えを心に抱くのか。
9:中風の人に『あなたの罪は赦される』と言うのと、『起きて、床を担いで歩け』と言うのと、どちらが易しいか。
10:人の子が地上で罪を赦す権威を持っていることを知らせよう。」そして、中風の人に言われた。
11:「わたしはあなたに言う。起き上がり、床を担いで家に帰りなさい。」
12:その人は起き上がり、すぐに床を担いで、皆の見ている前を出て行った。人々は皆驚き、「このようなことは、今まで見たことがない」と 言って、神を賛美した。
 
◆レビを弟子にする
13:イエスは、再び湖のほとりに出て行かれた。群衆が皆そばに集まって来たので、イエスは教えられた。
14:そして通りがかりに、アルファイの子レビが収税所に座っているのを見かけて、「わたしに従いなさい」と言われた。彼は立ち上がってイエ スに従った。
15:イエスがレビの家で食事の席に着いておられたときのことである。多くの徴税人や罪人もイエスや弟子たちと同席していた。実に大勢の人が いて、イエスに従っていたのである。
16:ファリサイ派の律法学者は、イエスが罪人や徴税人と一緒に食事をされるのを見て、弟子たちに、「どうして彼は徴税人や罪人と一緒に食事 をするのか」と言った。
17:イエスはこれを聞いて言われた。「医者を必要とするのは、丈夫な人ではなく病人である。わたしが来たのは、正しい人を招くためではな く、罪人を招くためである。」
 
◆断食についての問答
18:ヨハネの弟子たちとファリサイ派の人々は、断食していた。そこで、人々はイエスのところに来て言った。「ヨハネの弟子たちとファリサイ 派の弟子たちは断食しているのに、なぜ、あなたの弟子たちは断食しないのですか。」
19:イエスは言われた。「花婿が一緒にいるのに、婚礼の客は断食できるだろうか。花婿が一緒にいるかぎり、断食はできない。
20:しかし、花婿が奪い取られる時が来る。その日には、彼らは断食することになる。
21:だれも、織りたての布から布切れを取って、古い服に継ぎを当てたりはしない。そんなことをすれば、新しい布切れが古い服を引き裂き、破 れはいっそうひどくなる。
22:また、だれも、新しいぶどう酒を古い革袋に入れたりはしない。そんなことをすれば、ぶどう酒は革袋を破り、ぶどう酒も革袋もだめにな る。新しいぶどう酒は、新しい革袋に入れるものだ。」
 
◆安息日に麦の穂を摘む
23:ある安息日に、イエスが麦畑を通って行かれると、弟子たちは歩きながら麦の穂を摘み始めた。
24:ファリサイ派の人々がイエスに、「御覧なさい。なぜ、彼らは安息日にしてはならないことをするのか」と言った。
25:イエスは言われた。「ダビデが、自分も供の者たちも、食べ物がなくて空腹だったときに何をしたか、一度も読んだことがないのか。
26:アビアタルが大祭司であったとき、ダビデは神の家に入り、祭司のほかにはだれも食べてはならない供えのパンを食べ、一緒にいた者たちに も与えたではないか。」
27:そして更に言われた。「安息日は、人のために定められた。人が安息日のためにあるのではない。
28:だから、人の子は安息日の主でもある。」
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マルコによる福音書 3章
 
◆手の萎えた人をいやす
1:イエスはまた会堂にお入りになった。そこに片手の萎えた人がいた。
2:人々はイエスを訴えようと思って、安息日にこの人の病気をいやされるかどうか、注目していた。
3:イエスは手の萎えた人に、「真ん中に立ちなさい」と言われた。
4:そして人々にこう言われた。「安息日に律法で許されているのは、善を行うことか、悪を行うことか。命を救うことか、殺すことか。」彼らは 黙っていた。
5:そこで、イエスは怒って人々を見回し、彼らのかたくなな心を悲しみながら、その人に、「手を伸ばしなさい」と言われた。伸ばすと、手は元 どおりになった。
6:ファリサイ派の人々は出て行き、早速、ヘロデ派の人々と一緒に、どのようにしてイエスを殺そうかと相談し始めた。
 
◆湖の岸辺の群衆
7:イエスは弟子たちと共に湖の方へ立ち去られた。ガリラヤから来たおびただしい群衆が従った。また、ユダヤ、
8:エルサレム、イドマヤ、ヨルダン川の向こう側、ティルスやシドンの辺りからもおびただしい群衆が、イエスのしておられることを残らず聞い て、そばに集まって来た。
9:そこで、イエスは弟子たちに小舟を用意してほしいと言われた。群衆に押しつぶされないためである。
10:イエスが多くの病人をいやされたので、病気に悩む人たちが皆、イエスに触れようとして、そばに押し寄せたからであった。
11:汚れた霊どもは、イエスを見るとひれ伏して、「あなたは神の子だ」と叫んだ。
12:イエスは、自分のことを言いふらさないようにと霊どもを厳しく戒められた。
 
◆十二人を選ぶ
13:イエスが山に登って、これと思う人々を呼び寄せられると、彼らはそばに集まって来た。
14:そこで、十二人を任命し、使徒と名付けられた。彼らを自分のそばに置くため、また、派遣して宣教させ、
15:悪霊を追い出す権能を持たせるためであった。
16:こうして十二人を任命された。シモンにはペトロという名を付けられた。
17:ゼベダイの子ヤコブとヤコブの兄弟ヨハネ、この二人にはボアネルゲス、すなわち、「雷の子ら」という名を付けられた。
18:アンデレ、フィリポ、バルトロマイ、マタイ、トマス、アルファイの子ヤコブ、タダイ、熱心党のシモン、
19:それに、イスカリオテのユダ。このユダがイエスを裏切ったのである。
 
◆ベルゼブル論争
20:イエスが家に帰られると、群衆がまた集まって来て、一同は食事をする暇もないほどであった。
21:身内の人たちはイエスのことを聞いて取り押さえに来た。「あの男は気が変になっている」と言われていたからである。
22:エルサレムから下って来た律法学者たちも、「あの男はベルゼブルに取りつかれている」と言い、また、「悪霊の頭の力で悪霊を追い出して いる」と言っていた。
23:そこで、イエスは彼らを呼び寄せて、たとえを用いて語られた。「どうして、サタンがサタンを追い出せよう。
24:国が内輪で争えば、その国は成り立たない。
25:家が内輪で争えば、その家は成り立たない。
26:同じように、サタンが内輪もめして争えば、立ち行かず、滅びてしまう。
27:また、まず強い人を縛り上げなければ、だれも、その人の家に押し入って、家財道具を奪い取ることはできない。まず縛ってから、その家を 略奪するものだ。
28:はっきり言っておく。人の子らが犯す罪やどんな冒涜の言葉も、すべて赦される。
29:しかし、聖霊を冒涜する者は永遠に赦されず、永遠に罪の責めを負う。」
30:イエスがこう言われたのは、「彼は汚れた霊に取りつかれている」と人々が言っていたからである。
 
◆イエスの母、兄弟
31:イエスの母と兄弟たちが来て外に立ち、人をやってイエスを呼ばせた。
32:大勢の人が、イエスの周りに座っていた。「御覧なさい。母上と兄弟姉妹がたが外であなたを捜しておられます」と知らされると、
33:イエスは、「わたしの母、わたしの兄弟とはだれか」と答え、
34:周りに座っている人々を見回して言われた。「見なさい。ここにわたしの母、わたしの兄弟がいる。
35:神の御心を行う人こそ、わたしの兄弟、姉妹、また母なのだ。」

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マルコによる福音書 4章

◆「種を蒔く人」のたとえ
1:イエスは、再び湖のほとりで教え始められた。おびただしい群衆が、そばに集まって来た。そこで、イエスは舟に乗って腰を下ろし、湖の上に おられたが、群衆は皆、湖畔にいた。
2:イエスはたとえでいろいろと教えられ、その中で次のように言われた。
3:「よく聞きなさい。種を蒔く人が種蒔きに出て行った。
4:蒔いている間に、ある種は道端に落ち、鳥が来て食べてしまった。
5:ほかの種は、石だらけで土の少ない所に落ち、そこは土が浅いのですぐ芽を出した。
6:しかし、日が昇ると焼けて、根がないために枯れてしまった。
7:ほかの種は茨の中に落ちた。すると茨が伸びて覆いふさいだので、実を結ばなかった。
8:また、ほかの種は良い土地に落ち、芽生え、育って実を結び、あるものは三十倍、あるものは六十倍、あるものは百倍にもなった。」
9:そして、「聞く耳のある者は聞きなさい」と言われた。
 
◆たとえを用いて話す理由
10:イエスがひとりになられたとき、十二人と一緒にイエスの周りにいた人たちとがたとえについて尋ねた。
11:そこで、イエスは言われた。「あなたがたには神の国の秘密が打ち明けられているが、外の人々には、すべてがたとえで示される。
12:それは、/『彼らが見るには見るが、認めず、/聞くには聞くが、理解できず、/こうして、立ち帰って赦されることがない』/ようになる ためである。」
 
◆「種を蒔く人」のたとえの説明
13:また、イエスは言われた。「このたとえが分からないのか。では、どうしてほかのたとえが理解できるだろうか。
14:種を蒔く人は、神の言葉を蒔くのである。
15:道端のものとは、こういう人たちである。そこに御言葉が蒔かれ、それを聞いても、すぐにサタンが来て、彼らに蒔かれた御言葉を奪い去 る。
16:石だらけの所に蒔かれるものとは、こういう人たちである。御言葉を聞くとすぐ喜んで受け入れるが、
17:自分には根がないので、しばらくは続いても、後で御言葉のために艱難や迫害が起こると、すぐにつまずいてしまう。
18:また、ほかの人たちは茨の中に蒔かれるものである。この人たちは御言葉を聞くが、
19:この世の思い煩いや富の誘惑、その他いろいろな欲望が心に入り込み、御言葉を覆いふさいで実らない。
20:良い土地に蒔かれたものとは、御言葉を聞いて受け入れる人たちであり、ある者は三十倍、ある者は六十倍、ある者は百倍の実を結ぶのであ る。」
 
◆「ともし火」と「秤」のたとえ
21:また、イエスは言われた。「ともし火を持って来るのは、升の下や寝台の下に置くためだろうか。燭台の上に置くためではないか。
22:隠れているもので、あらわにならないものはなく、秘められたもので、公にならないものはない。
23:聞く耳のある者は聞きなさい。」
24:また、彼らに言われた。「何を聞いているかに注意しなさい。あなたがたは自分の量る秤で量り与えられ、更にたくさん与えられる。
25:持っている人は更に与えられ、持っていない人は持っているものまでも取り上げられる。」
 
◆「成長する種」のたとえ
26:また、イエスは言われた。「神の国は次のようなものである。人が土に種を蒔いて、
27:夜昼、寝起きしているうちに、種は芽を出して成長するが、どうしてそうなるのか、その人は知らない。
28:土はひとりでに実を結ばせるのであり、まず茎、次に穂、そしてその穂には豊かな実ができる。
29:実が熟すと、早速、鎌を入れる。収穫の時が来たからである。」
 
◆「からし種」のたとえ
30:更に、イエスは言われた。「神の国を何にたとえようか。どのようなたとえで示そうか。
31:それは、からし種のようなものである。土に蒔くときには、地上のどんな種よりも小さいが、
32:蒔くと、成長してどんな野菜よりも大きくなり、葉の陰に空の鳥が巣を作れるほど大きな枝を張る。」
 
◆たとえを用いて語る
33:イエスは、人々の聞く力に応じて、このように多くのたとえで御言葉を語られた。
34:たとえを用いずに語ることはなかったが、御自分の弟子たちにはひそかにすべてを説明された。
 
◆突風を静める
35:その日の夕方になって、イエスは、「向こう岸に渡ろう」と弟子たちに言われた。
36:そこで、弟子たちは群衆を後に残し、イエスを舟に乗せたまま漕ぎ出した。ほかの舟も一緒であった。
37:激しい突風が起こり、舟は波をかぶって、水浸しになるほどであった。
38:しかし、イエスは艫の方で枕をして眠っておられた。弟子たちはイ
エスを起こして、「先生、わたしたちがおぼれてもかまわないのですか」と言った。
39:イエスは起き上がって、風を叱り、湖に、「黙れ。静まれ」と言われた。すると、風はやみ、すっかり凪になった。
40:イエスは言われた。「なぜ怖がるのか。まだ信じないのか。」
41:弟子たちは非常に恐れて、「いったい、この方はどなたなのだろう。風や湖さえも従うではないか」と互いに言った
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マルコによる福音書 5章

◆悪霊に取りつかれたゲラサの人をいやす

1:一行は、湖の向こう岸にあるゲラサ人の地方に着いた。
2:イエスが舟から上がられるとすぐに、汚れた霊に取りつかれた人が墓場からやって来た。
3:この人は墓場を住まいとしており、もはやだれも、鎖を用いてさえつなぎとめておくことはできなかった。
4:これまでにも度々足枷や鎖で縛られたが、鎖は引きちぎり足枷は砕いてしまい、だれも彼を縛っておくことはできなかったのである。
5:彼は昼も夜も墓場や山で叫んだり、石で自分を打ちたたいたりしていた。
6:イエスを遠くから見ると、走り寄ってひれ伏し、
7:大声で叫んだ。「いと高き神の子イエス、かまわないでくれ。後生だから、苦しめないでほしい。」
8:イエスが、「汚れた霊、この人から出て行け」と言われたからである。
9:そこで、イエスが、「名は何というのか」とお尋ねになると、「名はレギオン。大勢だから」と言った。
10:そして、自分たちをこの地方から追い出さないようにと、イエスにしきりに願った。
11:ところで、その辺りの山で豚の大群がえさをあさっていた。
12:汚れた霊どもはイエスに、「豚の中に送り込み、乗り移らせてくれ」と願った。
13:イエスがお許しになったので、汚れた霊どもは出て、豚の中に入った。すると、二千匹ほどの豚の群れが崖を下って湖になだれ込み、湖の中 で次々とおぼれ死んだ。
14:豚飼いたちは逃げ出し、町や村にこのことを知らせた。人々は何が起こったのかと見に来た。
15:彼らはイエスのところに来ると、レギオンに取りつかれていた人が服を着、正気になって座っているのを見て、恐ろしくなった。
16:成り行きを見ていた人たちは、悪霊に取りつかれた人の身に起こったことと豚のことを人々に語った。
17:そこで、人々はイエスにその地方から出て行ってもらいたいと言いだした。
18:イエスが舟に乗られると、悪霊に取りつかれていた人が、一緒に行きたいと願った。
19:イエスはそれを許さないで、こう言われた。「自分の家に帰りなさい。そして身内の人に、主があなたを憐れみ、あなたにしてくださったこ とをことごとく知らせなさい。」
20:その人は立ち去り、イエスが自分にしてくださったことをことごとくデカポリス地方に言い広め始めた。人々は皆驚いた。
 
◆ヤイロの娘とイエスの服に触れる女
21:イエスが舟に乗って再び向こう岸に渡られると、大勢の群衆がそばに集まって来た。イエスは湖のほとりにおられた。
22:会堂長の一人でヤイロという名の人が来て、イエスを見ると足もとにひれ伏して、
23:しきりに願った。「わたしの幼い娘が死にそうです。どうか、おいでになっ手を置いてやってください。そうすれば、娘は助かり、生きるで しょう。」
24:そこで、イエスはヤイロと一緒に出かけて行かれた。大勢の群衆も、イエス従い、押し迫って来た。
25:さて、ここに十二年間も出血の止まらない女がいた。
26:多くの医者にかかって、ひどく苦しめられ、全財産を使い果たしても何の役も立たず、ますます悪くなるだけであった。
27:イエスのことを聞いて、群衆の中に紛れ込み、後ろからイエスの服に触れた。
28:「この方の服にでも触れればいやしていただける」と思ったからである。
29:すると、すぐ出血が全く止まって病気がいやされたことを体に感じた。
30:イエスは、自分の内から力が出て行ったことに気づいて、群衆の中で振り返り、「わたしの服に触れたのはだれか」と言われた。
31:そこで、弟子たちは言った。「群衆があなたに押し迫っているのがお分かりでしょう。それなのに、『だれがわたしに触れたのか』とおっ しゃるのですか。」
32:しかし、イエスは、触れた者を見つけようと、辺りを見回しておられた。
33:女は自分の身に起こったことを知って恐ろしくなり、震えながら進み出てひれ伏し、すべてをありのまま話した。
34:イエスは言われた。「娘よ、あなたの信仰があなたを救った。安心して行きなさい。もうその病気にかからず、元気に暮らしなさい。」
35:イエスがまだ話しておられるときに、会堂長の家から人々が来て言った。「お嬢さんは亡くなりました。もう、先生を煩わすには及ば
ないでしょう。」
36:イエスはその話をそばで聞いて、「恐れることはない。ただ信じなさい」と会堂長に言われた。
37:そして、ペトロ、ヤコブ、またヤコブの兄弟ヨハネのほかは、だれもついて来ることをお許しにならなかった。
38:一行は会堂長の家に着いた。イエスは人々が大声で泣きわめいて騒いでいるのを見て、
39:家の中に入り、人々に言われた。「なぜ、泣き騒ぐのか。子供は死んだのではない。眠っているのだ。」
40:人々はイエスをあざ笑った。しかし、イエスは皆を外に出し、子供の両親と三人の弟子だけを連れて、子供のいる所へ入って行かれた。
41:そして、子供の手を取って、「タリタ、クム」と言われた。これは、「少女よ、わたしはあなたに言う。起きなさい」という意味である。
42:少女はすぐに起き上がって、歩きだした。もう十二歳になっていたからである。それを見るや、人々は驚きのあまり我を忘れた。
43:イエスはこのことをだれにも知らせないようにと厳しく命じ、また、食べ物を少女に与えるようにと言われた。

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マルコによる福音書 6章

◆ナザレで受け入れられない
1:イエスはそこを去って故郷にお帰りになったが、弟子たちも従った。
2:安息日になったので、イエスは会堂で教え始められた。多くの人々はそれを聞いて、驚いて言った。「この人は、このようなことをどこから得 たのだろう。この人が授かった知恵と、その手で行われるこのような奇跡はいったい何か。
3:この人は、大工ではないか。マリアの息子で、ヤコブ、ヨセ、ユダ、シモンの兄弟ではないか。姉妹たちは、ここで我々と一緒に住んでいるで はないか。」このように、人々はイエスにつまずいた。
4:イエスは、「預言者が敬われないのは、自分の故郷、親戚や家族の間だけである」と言われた。
5:そこでは、ごくわずかの病人に手を置いていやされただけで、そのほかは何も奇跡を行うことがおできにならなかった。
6:そして、人々の不信仰に驚かれた。
 
◆十二人を派遣する
:それから、イエスは付近の村を巡り歩いてお教えになった。
7:そして、十二人を呼び寄せ、二人ずつ組にして遣わすことにされた。その際、汚れた霊に対する権能を授け、
8:旅には杖一本のほか何も持たず、パンも、袋も、また帯の中に金も持たず、
9:ただ履物は履くように、そして「下着は二枚着てはならない」と命じられた。
10:また、こうも言われた。「どこでも、ある家に入ったら、その土地から旅立つときまで、その家にとどまりなさい。
11:しかし、あなたがたを迎え入れず、あなたがたに耳を傾けようともしない所があったら、そこを出ていくとき、彼らへの証しとして足の裏の 埃を払い落としなさい。」
12:十二人は出かけて行って、悔い改めさせるために宣教した。
13:そして、多くの悪霊を追い出し、油を塗って多くの病人をいやした。
 
◆洗礼者ヨハネ、殺される
14:イエスの名が知れ渡ったので、ヘロデ王の耳にも入った。人々は言っていた。「洗礼者ヨハネが死者の中から生き返ったのだ。だから、奇跡 を行う力が彼に働いている。」
15:そのほかにも、「彼はエリヤだ」と言う人もいれば、「昔の預言者のような預言者だ」と言う人もいた。
16:ところが、ヘロデはこれを聞いて、「わたしが首をはねたあのヨハネが、生き返ったのだ」と言った。
17:実は、ヘロデは、自分の兄弟フィリポの妻ヘロディアと結婚しており、そのことで人をやってヨハネを捕らえさせ、牢につないでいた。
18:ヨハネが、「自分の兄弟の妻と結婚することは、律法で許されていない」とヘロデに言ったからである。
19:そこで、ヘロディアはヨハネを恨み、彼を殺そうと思っていたが、できないでいた。
20:なぜなら、ヘロデが、ヨハネは正しい聖なる人であることを知って、彼を恐れ、保/護し、また、その教えを聞いて非常に当惑しながらも、 なお喜んで耳を傾けていたからである。
21:ところが、良い機会が訪れた。ヘロデが、自分の誕生日の祝いに高官や将校、ガリラヤの有力者などを招いて宴会を催すと、
22:ヘロディアの娘が入って来て踊りをおどり、ヘロデとその客を喜ばせた。そこで、王は少女に、「欲しいものがあれば何でも言いなさい。お 前にやろう」と言い、
23:更に、「お前が願うなら、この国の半分でもやろう」と固く誓ったのである。
24:少女が座を外して、母親に、「何を願いましょうか」と言うと、母親は、「洗礼者ヨハネの首を」と言った。
25:早速、少女は大急ぎで王のところに行き、「今すぐに洗礼者ヨハネの首を盆に載せて、いただきとうございます」と願った。
26:王は非常に心を痛めたが、誓ったことではあるし、また客の手前、少女の願いを退けたくなかった。
27:そこで、王は衛兵を遣わし、ヨハネの首を持って来るようにと命じた。衛兵は出て行き、牢の中でヨハネの首をはね、
28:盆に載せて持って来て少女に渡し、少女はそれを母親に渡した。
29:ヨハネの弟子たちはこのことを聞き、やって来て、遺体を引き取り、墓に納めた。
 
◆五千人に食べ物を与える
30:さて、使徒たちはイエスのところに集まって来て、自分たちが行ったことや教えたことを残らず報告した。
31:イエスは、「さあ、あなたがただけで人里離れた所へ行って、しばらく休むがよい」と言われた。出入りする人が多くて、食事をする暇もな かったからである。
32:そこで、一同は舟に乗って、自分たちだけで人里離れた所へ行った。
33:ところが、多くの人々は彼らが出かけて行くのを見て、それと気づき、すべての町からそこへ一斉に駆けつけ、彼らより先に着いた。
34:イエスは舟から上がり、大勢の群衆を見て、飼い主のいない羊のような有様を深く憐れみ、いろいろと教え始められた。
35:そのうち、時もだいぶたったので、弟子たちがイエスのそばに来て言った。「ここは人里離れた所で、時間もだいぶたちました。
36:人々を解散させてください。そうすれば、自分で周りの里や村へ、何か食べ物を買いに行くでしょう。」
37:これに対してイエスは、「あなたがたが彼らに食べ物を与えなさい」とお答えになった。弟子たちは、「わたしたちが二百デナリオンものパ ンを買って来て、みんなに食べさせるのですか」と言った。
38:イエスは言われた。「パンは幾つあるのか。見て来なさい。」弟子たちは確かめて来て、言った。「五つあります。それに魚が二匹です。」
39:そこで、イエスは弟子たちに、皆を組に分けて、青草の上に座らせるようにお命じになった。
40:人々は、百人、五十人ずつまとまって腰を下ろした。
41:イエスは五つのパンと二匹の魚を取り、天を仰いで賛美の祈りを唱え、パンを裂いて、弟子たちに渡しては配らせ、二匹の魚も皆に分配され た。
42:すべての人が食べて満腹した。
43:そして、パンの屑と魚の残りを集めると、十二の籠にいっぱいになった。
44:パンを食べた人は男が五千人であった。
 
◆湖の上を歩く
45:それからすぐ、イエスは弟子たちを強いて舟に乗せ、向こう岸のベトサイダへ先に行かせ、その間に御自分は群衆を解散させられた。
46:群衆と別れてから、祈るために山へ行かれた。
47:夕方になると、舟は湖の真ん中に出ていたが、イエスだけは陸地におられた。
48:ところが、逆風のために弟子たちが漕ぎ悩んでいるのを見て、夜が明けるころ、湖の上を歩いて弟子たちのところに行き、そばを通り過ぎよ うとされた。
49:弟子たちは、イエスが湖上を歩いておられるのを見て、幽霊だと思い、大声で叫んだ。
50:皆はイエスを見ておびえたのである。しかし、イエスはすぐ彼らと話し始めて、「安心しなさい。わたしだ。恐れることはない」と言われ た。
51:イエスが舟に乗り込まれると、風は静まり、弟子たちは心の中で非常に驚いた。
52:パンの出来事を理解せず、心が鈍くなっていたからである。
 
◆ゲネサレトで病人をいやす
53:こうして、一行は湖を渡り、ゲネサレトという土地に着いて舟をつないだ。
54:一行が舟から上がると、すぐに人々はイエスと知って、
55:その地方をくまなく走り回り、どこでもイエスがおられると聞けば、そこへ病人を床に乗せて運び始めた。
56:村でも町でも里でも、イエスが入って行かれると、病人を広場に置き、せめてその服のすそにでも触れさせてほしいと願った。触れた者は皆 いやされた。
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マルコによる福音書 第7章
 
◆昔の人の言い伝え
1:ファリサイ派の人々と数人の律法学者たちが、エルサレムから来て、イエスのもとに集まった。
2:そして、イエスの弟子たちの中に汚れた手、つまり洗わない手で食事をする者がいるのを見た。
3:――ファリサイ派の人々をはじめユダヤ人は皆、昔の人の言い伝えを固く守って、念入りに手を洗ってからでないと食事をせず、
4:また、市場から帰ったときには、身を清めてからでないと食事をしない。そのほか、杯、鉢、銅の器や寝台を洗うことなど、昔から受け継いで 固く守っていることがたくさんある。――
5:そこで、ファリサイ派の人々と律法学者たちが尋ねた。「なぜ、あなたの弟子たちは昔の人の言い伝えに従って歩まず、汚れた手で食事をする のですか。」
6:イエスは言われた。「イザヤは、あなたたちのような偽善者のことを見事に預言したものだ。彼はこう書いている。『この民は口先ではわたし を敬うが、/その心はわたしから遠く離れている。
7:人間の戒めを教えとしておしえ、/むなしくわたしをあがめている。』
8:あなたたちは神の掟を捨てて、人間の言い伝えを固く守っている。」
9:更に、イエスは言われた。「あなたたちは自分の言い伝えを大事にして、よくも神の掟をないがしろにしたものである。
10:モーセは、『父と母を敬え』と言い、『父または母をののしる者は死刑に処せられるべきである』とも言っている。
11:それなのに、あなたたちは言っている。『もし、だれかが父または母に対して、「あなたに差し上げるべきものは、何でもコルバン、つまり 神への供え物です」と言えば、
12:その人はもはや父または母に対して何もしないで済むのだ』と。
13:こうして、あなたたちは、受け継いだ言い伝えで神の言葉を無にしている。また、これと同じようなことをたくさん行っている。」
14:それから、イエスは再び群衆を呼び寄せて言われた。「皆、わたしの言うことを聞いて悟りなさい。
15:外から人の体に入るもので人を汚すことができるものは何もなく、人の中から出て来るものが、人を汚すのである。」
16>:聞く耳のある者は聞きなさい。
  (底本に節が欠けている個所の異本による訳文)
17:イエスが群衆と別れて家に入られると、弟子たちはこのたとえについて尋ねた。
18:イエスは言われた。「あなたがたも、そんなに物分かりが悪いのか。
すべて外から人の体に入るものは、人を汚すことができないことが
分からないのか。
19:それは人の心の中に入るのではなく、腹の中に入り、そして外に出
される。こうして、すべての食べ物は清められる。」
20:更に、次のように言われた。「人から出て来るものこそ、人を汚す。
21:中から、つまり人間の心から、悪い思いが出て来るからである。み
だらな行い、盗み、殺意、
22:姦淫、貪欲、悪意、詐欺、好色、ねたみ、悪口、傲慢、無分別など、
23:これらの悪はみな中から出て来て、人を汚すのである。」
 
◆シリア・フェニキアの女の信仰
24:イエスはそこを立ち去って、ティルスの地方に行かれた。ある家に入り、だれにも知られたくないと思っておられたが、人々に気づかれてし まった。
25:汚れた霊に取りつかれた幼い娘を持つ女が、すぐにイエスのことを聞きつけ、来てその足もとにひれ伏した。
26:女はギリシア人でシリア・フェニキアの生まれであったが、娘から悪霊を追い出してくださいと頼んだ。
27:イエスは言われた。「まず、子供たちに十分食べさせなければならない。子供たちのパンを取って、小犬にやってはいけない。」
28:ところが、女は答えて言った。「主よ、しかし、食卓の下の小犬も、子供のパン屑はいただきます。」
29:そこで、イエスは言われた。「それほど言うなら、よろしい。家に帰りなさい。悪霊はあなたの娘からもう出てしまった。」
30:女が家に帰ってみると、その子は床の上に寝ており、悪霊は出てしまっていた。
 
◆耳が聞こえず舌の回らない人をいやす
31:それからまた、イエスはティルスの地方を去り、シドンを経てデカポリス地方を通り抜け、ガリラヤ湖へやって来られた。
32:人々は耳が聞こえず舌の回らない人を連れて来て、その上に手を置いてくださるようにと願った。
33:そこで、イエスはこの人だけを群衆の中から連れ出し、指をその両耳に差し入れ、それから唾をつけてその舌に触れられた。
34:そして、天を仰いで深く息をつき、その人に向かって、「エッファタ」と言われた。これは、「開け」という意味である。
35:すると、たちまち耳が開き、舌のもつれが解け、はっきり話すことができるようになった。
36:イエスは人々に、だれにもこのことを話してはいけない、と口止めをされた。しかし、イエスが口止めをされればされるほど、人々はかえっ てますます言い広めた。
37:そして、すっかり驚いて言った。「この方のなさったことはすべて、すばらしい。耳の聞こえない人を聞こえるようにし、口の利けない人を 話せるようにしてくださる。」

マルコによる福音書 第8章
 
◆四千人に食べ物を与える
1:そのころ、また群衆が大勢いて、何も食べる物がなかったので、イエスは弟子たちを呼び寄せて言われた。
2:「群衆がかわいそうだ。もう三日もわたしと一緒にいるのに、食べ物がない。
3:空腹のまま家に帰らせると、途中で疲れきってしまうだろう。中には遠くから来ている者もいる。」
4:弟子たちは答えた。「こんな人里離れた所で、いったいどこからパンを手に入れて、これだけの人に十分食べさせることができるでし
ょうか。」
5:イエスが「パンは幾つあるか」とお尋ねになると、弟子たちは、「七つあります」と言った。
6:そこで、イエスは地面に座るように群衆に命じ、七つのパンを取り、感謝の祈りを唱えてこれを裂き、人々に配るようにと弟子たちにお渡しに なった。弟子たちは群衆に配った。
7:また、小さい魚が少しあったので、賛美の祈りを唱えて、それも配るようにと言われた。
8:人々は食べて満腹したが、残ったパンの屑を集めると、七籠になった。
9:およそ四千人の人がいた。イエスは彼らを解散させられた。
10:それからすぐに、弟子たちと共に舟に乗って、ダルマヌタの地方に行かれた。
 
◆人々はしるしを欲しがる
11:ファリサイ派の人々が来て、イエスを試そうとして、天からのしるしを求め、議論をしかけた。
12:イエスは、心の中で深く嘆いて言われた。「どうして、今の時代の者たちはしるしを欲しがるのだろう。はっきり言っておく。今の時代の者 たちには、決してしるしは与えられない。」
13:そして、彼らをそのままにして、また舟に乗って向こう岸へ行かれた。
 
◆ファリサイ派の人々とヘロデのパン種
14:弟子たちはパンを持って来るのを忘れ、舟の中には一つのパンしか持ち合わせていなかった。
15:そのとき、イエスは、「ファリサイ派の人々のパン種とヘロデのパン種によく気をつけなさい」と戒められた。
16:弟子たちは、これは自分たちがパンを持っていないからなのだ、と論じ合っていた。
17:イエスはそれに気づいて言われた。「なぜ、パンを持っていないことで議論するのか。まだ、分からないのか。悟らないのか。心がかたくな になっているのか。
18:目があっても見えないのか。耳があっても聞こえないのか。覚えていないのか。
19:わたしが五千人に五つのパンを裂いたとき、集めたパンの屑でいっぱいになった籠は、幾つあったか。」弟子たちは、「十二です」と言っ た。
20:「七つのパンを四千人に裂いたときには、集めたパンの屑でいっぱいになった籠は、幾つあったか。」「七つです」と言うと、
21:イエスは、「まだ悟らないのか」と言われた。
 
◆ベトサイダで盲人をいやす
22:一行はベトサイダに着いた。人々が一人の盲人をイエスのところに連れて来て、触れていただきたいと願った。
23:イエスは盲人の手を取って、村の外に連れ出し、その目に唾をつけ、両手をその人の上に置いて、「何か見えるか」とお尋ねになった。
24:すると、盲人は見えるようになって、言った。「人が見えます。木のようですが、歩いているのが分かります。」
25:そこで、イエスがもう一度両手をその目に当てられると、よく見えてきていやされ、何でもはっきり見えるようになった。
26:イエスは、「この村に入ってはいけない」と言って、その人を家に帰された。
 
◆ペトロ、信仰を言い表す
27:イエスは、弟子たちとフィリポ・カイサリア地方の方々の村にお出かけになった。その途中、弟子たちに、「人々は、わたしのことを何者だ と言っているか」と言われた。
28:弟子たちは言った。「『洗礼者ヨハネだ』と言っています。ほかに、『エリヤだ』と言う人も、『預言者の一人だ』と言う人もいます。」
29:そこでイエスがお尋ねになった。「それでは、あなたがたはわたしを何者だと言うのか。」ペトロが答えた。「あなたは、メシアです。」
30:するとイエスは、御自分のことをだれにも話さないようにと弟子たちを戒められた。
 
◆イエス、死と復活を予告する
31:それからイエスは、人の子は必ず多くの苦しみを受け、長老、祭司長、律法学者たちから排斥されて殺され、三日の後に復活することになっ ている、と弟子たちに教え始められた。
32:しかも、そのことをはっきりとお話しになった。すると、ペトロはイエスをわきへお連れして、いさめ始めた。
33:イエスは振り返って、弟子たちを見ながら、ペトロを叱って言われた。「サタン、引き下がれ。あなたは神のことを思わず、人間のことを 思っている。」
34:それから、群衆を弟子たちと共に呼び寄せて言われた。「わたしの後に従いたい者は、自分を捨て、自分の十字架を背負って、わたしに従い なさい。
35:自分の命を救いたいと思う者は、それを失うが、わたしのため、また福音のために命を失う者は、それを救うのである。
36:人は、たとえ全世界を手に入れても、自分の命を失ったら、何の得があろうか。
37:自分の命を買い戻すのに、どんな代価を支払えようか。
38:神に背いたこの罪深い時代に、わたしとわたしの言葉を恥じる者は、人の子もまた、父の栄光に輝いて聖なる天使たちと共に来るときに、そ の者を恥じる。」

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マルコによる福音書 第9章
 
1:また、イエスは言われた。「はっきり言っておく。ここに一緒にいる人々の中には、神の国が力にあふれて現れるのを見るまでは、決して死な ない者がいる。」
◆イエスの姿が変わる
2:六日の後、イエスは、ただペトロ、ヤコブ、ヨハネだけを連れて、高い山に登られた。イエスの姿が彼らの目の前で変わり、
3:服は真っ白に輝き、この世のどんなさらし職人の腕も及ばぬほど白くなった。
4:エリヤがモーセと共に現れて、イエスと語り合っていた。
5:ペトロが口をはさんでイエスに言った。「先生、わたしたちがここにいるのは、すばらしいことです。仮小屋を三つ建てましょう。一つはあな たのため、一つはモーセのため、もう一つはエリヤのためです。」
6:ペトロは、どう言えばよいのか、分からなかった。弟子たちは非常に恐れていたのである。
7:すると、雲が現れて彼らを覆い、雲の中から声がした。「これはわたしの愛する子。これに聞け。」
8:弟子たちは急いで辺りを見回したが、もはやだれも見えず、ただイエスだけが彼らと一緒におられた。
9:一同が山を下りるとき、イエスは、「人の子が死者の中から復活するまでは、今見たことをだれにも話してはいけない」と弟子たちに命じられ た。
10:彼らはこの言葉を心に留めて、死者の中から復活するとはどういうことかと論じ合った。
11:そして、イエスに、「なぜ、律法学者は、まずエリヤが来るはずだと言っているのでしょうか」と尋ねた。
12:イエスは言われた。「確かに、まずエリヤが来て、すべてを元どおりにする。それなら、人の子は苦しみを重ね、辱めを受けると聖書に書い てあるのはなぜか。
13:しかし、言っておく。エリヤは来たが、彼について聖書に書いてあるように、人々は好きなようにあしらったのである。」
 
◆汚れた霊に取りつかれた子をいやす
14:一同がほかの弟子たちのところに来てみると、彼らは大勢の群衆に取り囲まれて、律法学者たちと議論していた。
15:群衆は皆、イエスを見つけて非常に驚き、駆け寄って来て挨拶した。
16:イエスが、「何を議論しているのか」とお尋ねになると、
17:群衆の中のある者が答えた。「先生、息子をおそばに連れて参りました。この子は霊に取りつかれて、ものが言えません。
18:霊がこの子に取りつくと、所かまわず地面に引き倒すのです。すると、この子は口から泡を出し、歯ぎしりして体をこわばらせてしまいま す。この霊を追い出してくださるようにお弟子たちに申しましたが、できませんでした。」
19:イエスはお答えになった。「なんと信仰のない時代なのか。いつまでわたしはあなたがたと共にいられようか。いつまで、あなたがたに我慢 しなければならないのか。その子をわたしのところに連れて来なさい。」
20:人々は息子をイエスのところに連れて来た。霊は、イエスを見ると、すぐにその子を引きつけさせた。その子は地面に倒れ、転び回って泡を 吹いた。
21:イエスは父親に、「このようになったのは、いつごろからか」とお尋ねになった。父親は言った。「幼い時からです。
22:霊は息子を殺そうとして、もう何度も火の中や水の中に投げ込みました。おできになるなら、わたしどもを憐れんでお助けください。」
23:イエスは言われた。「『できれば』と言うか。信じる者には何でもできる。」
24:その子の父親はすぐに叫んだ。「信じます。信仰のないわたしをお助けください。」
25:イエスは、群衆が走り寄って来るのを見ると、汚れた霊をお叱りになった。「ものも言わせず、耳も聞こえさせない霊、わたしの命令だ。こ の子から出て行け。二度とこの子の中に入るな。」
26:すると、霊は叫び声をあげ、ひどく引きつけさせて出て行った。その子は死んだようになったので、多くの者が、「死んでしまった」と言っ た。
27:しかし、イエスが手を取って起こされると、立ち上がった。
28:イエスが家の中に入られると、弟子たちはひそかに、「なぜ、わたしたちはあの霊を追い出せなかったのでしょうか」と尋ねた。
29:イエスは、「この種のものは、祈りによらなければ決して追い出すことはできないのだ」と言われた。
 
◆再び自分の死と復活を予告する
30:一行はそこを去って、ガリラヤを通って行った。しかし、イエスは人に気づかれるのを好まれなかった。
31:それは弟子たちに、「人の子は、人々の手に引き渡され、殺される。殺されて三日の後に復活する」と言っておられたからである。
32:弟子たちはこの言葉が分からなかったが、怖くて尋ねられなかった。
 
◆いちばん偉い者
33:一行はカファルナウムに来た。家に着いてから、イエスは弟子たちに、「途中で何を議論していたのか」とお尋ねになった。
34:彼らは黙っていた。途中でだれがいちばん偉いかと議論し合っていたからである。
35:イエスが座り、十二人を呼び寄せて言われた。「いちばん先になりたい者は、すべての人の後になり、すべての人に仕える者になりなさ い。」
36:そして、一人の子供の手を取って彼らの真ん中に立たせ、抱き上げ
て言われた。
37:「わたしの名のためにこのような子供の一人を受け入れる者は、わたしを受け入れるのである。わたしを受け入れる者は、わたしではなく て、わたしをお遣わしになった方を受け入れるのである。」
 
◆逆らわない者は味方
38:ヨハネがイエスに言った。「先生、お名前を使って悪霊を追い出している者を見ましたが、わたしたちに従わないので、やめさせようとしま した。」
39:イエスは言われた。「やめさせてはならない。わたしの名を使って奇跡を行い、そのすぐ後で、わたしの悪口は言えまい。
40:わたしたちに逆らわない者は、わたしたちの味方なのである。
41:はっきり言っておく。キリストの弟子だという理由で、あなたがたに一杯の水を飲ませてくれる者は、必ずその報いを受ける。」
 
◆罪への誘惑
42:「わたしを信じるこれらの小さな者の一人をつまずかせる者は、大きな石臼を首に懸けられて、海に投げ込まれてしまう方がはるかによい。
43:もし片方の手があなたをつまずかせるなら、切り捨ててしまいなさい。両手がそろったまま地獄の消えない火の中に落ちるよりは、片手に なっても命にあずかる方がよい。
44>:地獄では蛆が尽きることも、火が消えることもない。
  (底本に節が欠けている個所の異本による訳文)
45:もし片方の足があなたをつまずかせるなら、切り捨ててしまいなさい。両足がそろったままで地獄に投げ込まれるよりは、片足になっても命 にあずかる方がよい。
46>:地獄では蛆が尽きることも、火が消えることもない。
  (底本に節が欠けている個所の異本による訳文)
47:もし片方の目があなたをつまずかせるなら、えぐり出しなさい。両方の目がそろったまま地獄に投げ込まれるよりは、一つの目になっても神 の国に入る方がよい。
48:地獄では蛆が尽きることも、火が消えることもない。
49:人は皆、火で塩味を付けられる。
50:塩は良いものである。だが、塩に塩気がなくなれば、あなたがたは何によって塩に味を付けるのか。自分自身の内に塩を持ちなさい。そし て、互いに平和に過ごしなさい。」

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マルコによる福音書 第10章
 
◆離縁について教える
1:イエスはそこを立ち去って、ユダヤ地方とヨルダン川の向こう側に行かれた。群衆がまた集まって来たので、イエスは再びいつものように教え ておられた。
2:ファリサイ派の人々が近寄って、「夫が妻を離縁することは、律法に適っているでしょうか」と尋ねた。イエスを試そうとしたのである。
3:イエスは、「モーセはあなたたちに何と命じたか」と問い返された。
4:彼らは、「モーセは、離縁状を書いて離縁することを許しました」と言った。
5:イエスは言われた。「あなたたちの心が頑固なので、このような掟をモーセは書いたのだ。
6:しかし、天地創造の初めから、神は人を男と女とにお造りになった。
7:それゆえ、人は父母を離れてその妻と結ばれ、
8:二人は一体となる。だから二人はもはや別々ではなく、一体である。
9:従って、神が結び合わせてくださったものを、人は離してはならない。」
10:家に戻ってから、弟子たちがまたこのことについて尋ねた。
11:イエスは言われた。「妻を離縁して他の女を妻にする者は、妻に対して姦通の罪を犯すことになる。
12:夫を離縁して他の男を夫にする者も、姦通の罪を犯すことになる。」
 
◆子供を祝福する
13:イエスに触れていただくために、人々が子供たちを連れて来た。弟子たちはこの人々を叱った。
14:しかし、イエスはこれを見て憤り、弟子たちに言われた。「子供たちをわたしのところに来させなさい。妨げてはならない。神の国はこのよ うな者たちのものである。
15:はっきり言っておく。子供のように神の国を受け入れる人でなければ、決してそこに入ることはできない。」
16:そして、子供たちを抱き上げ、手を置いて祝福された。
 
◆金持ちの男
17:イエスが旅に出ようとされると、ある人が走り寄って、ひざまずいて尋ねた。「善い先生、永遠の命を受け継ぐには、何をすればよいでしょ うか。」
18:イエスは言われた。「なぜ、わたしを『善い』と言うのか。神おひとりのほかに、善い者はだれもいない。
19:『殺すな、姦淫するな、盗むな、偽証するな、奪い取るな、父母を敬え』という掟をあなたは知っているはずだ。」
20:すると彼は、「先生、そういうことはみな、子供の時から守ってきました」と言った。
21:イエスは彼を見つめ、慈しんで言われた。「あなたに欠けているものが一つある。行って持っている物を売り払い、貧しい人々に施しなさ い。そうすれば、天に富を積むことになる。それから、わたしに従いなさい。」
22:その人はこの言葉に気を落とし、悲しみながら立ち去った。たくさんの財産を持っていたからである。
23:イエスは弟子たちを見回して言われた。「財産のある者が神の国に入るのは、なんと難しいことか。」
24:弟子たちはこの言葉を聞いて驚いた。イエスは更に言葉を続けられた。「子たちよ、神の国に入るのは、なんと難しいことか。
25:金持ちが神の国に入るよりも、らくだが針の穴を通る方がまだ易しい。」
26:弟子たちはますます驚いて、「それでは、だれが救われるのだろう
か」と互いに言った。
27:イエスは彼らを見つめて言われた。「人間にできることではないが、神にはできる。神は何でもできるからだ。」
28:ペトロがイエスに、「このとおり、わたしたちは何もかも捨ててあなたに従って参りました」と言いだした。
29:イエスは言われた。「はっきり言っておく。わたしのためまた福音のために、家、兄弟、姉妹、母、父、子供、畑を捨てた者はだれでも、
30:今この世で、迫害も受けるが、家、兄弟、姉妹、母、子供、畑も百倍受け、後の世では永遠の命を受ける。
31:しかし、先にいる多くの者が後になり、後にいる多くの者が先になる。」
 
◆イエス、三度自分の死と復活を予告する
32:一行がエルサレムへ上って行く途中、イエスは先頭に立って進んで行かれた。それを見て、弟子たちは驚き、従う者たちは恐れた。イエスは 再び十二人を呼び寄せて、自分の身に起ころうとしていることを話し始められた。
33:「今、わたしたちはエルサレムへ上って行く。人の子は祭司長たちや律法学者たちに引き渡される。彼らは死刑を宣告して異邦人に引き渡 す。
34:異邦人は人の子を侮辱し、唾をかけ、鞭打ったうえで殺す。そして、人の子は三日の後に復活する。」
 
◆ヤコブとヨハネの願い
35:ゼベダイの子ヤコブとヨハネが進み出て、イエスに言った。「先生、お願いすることをかなえていただきたいのですが。」
36:イエスが、「何をしてほしいのか」と言われると、
37:二人は言った。「栄光をお受けになるとき、わたしどもの一人をあなたの右に、もう一人を左に座らせてください。」
38:イエスは言われた。「あなたがたは、自分が何を願っているか、分かっていない。このわたしが飲む杯を飲み、このわたしが受ける洗礼を受 けることができるか。」
39:彼らが、「できます」と言うと、イエスは言われた。「確かに、あなたがたはわたしが飲む杯を飲み、わたしが受ける洗礼を受けることにな る。
40:しかし、わたしの右や左にだれが座るかは、わたしの決めることではない。それは、定められた人々に許されるのだ。」
41:ほかの十人の者はこれを聞いて、ヤコブとヨハネのことで腹を立て始めた。
42:そこで、イエスは一同を呼び寄せて言われた。「あなたがたも知っているように、異邦人の間では、支配者と見なされている人々が民を支配 し、偉い人たちが権力を振るっている。
43:しかし、あなたがたの間では、そうではない。あなたがたの中で偉くなりたい者は、皆に仕える者になり、
44:いちばん上になりたい者は、すべての人の僕になりなさい。
45:人の子は仕えられるためではなく仕えるために、また、多くの人の身代金として自分の命を献げるために来たのである。」
 
◆盲人バルティマイをいやす
46:一行はエリコの町に着いた。イエスが弟子たちや大勢の群衆と一緒に、エリコを出て行こうとされたとき、ティマイの子で、バルティマイと いう盲人の物乞いが道端に座っていた。
47:ナザレのイエスだと聞くと、叫んで、「ダビデの子イエスよ、わたしを憐れんでください」と言い始めた。
48:多くの人々が叱りつけて黙らせようとしたが、彼はますます、「ダビデの子よ、わたしを憐れんでください」と叫び続けた。
49:イエスは立ち止まって、「あの男を呼んで来なさい」と言われた。人々は盲人を呼んで言った。「安心しなさい。立ちなさい。お呼びだ。」
50:盲人は上着を脱ぎ捨て、躍り上がってイエスのところに来た。
51:イエスは、「何をしてほしいのか」と言われた。盲人は、「先生、目が見えるようになりたいのです」と言った。
52:そこで、イエスは言われた。「行きなさい。あなたの信仰があなたを救った。」盲人は、すぐ見えるようになり、なお道を進まれるイエスに 従った。

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マルコによる福音書 第11章
◆エルサレムに迎えられる
1:一行がエルサレムに近づいて、オリーブ山のふもとにあるベトファゲとベタニアにさしかかったとき、イエスは二人の弟子を使いに出そうとし て、
2:言われた。「向こうの村へ行きなさい。村に入るとすぐ、まだだれも乗ったことのない子ろばのつないであるのが見つかる。それをほどいて、 連れて来なさい。
3:もし、だれかが、『なぜ、そんなことをするのか』と言ったら、『主がお入り用なのです。すぐここにお返しになります』と言いなさい。」
4:二人は、出かけて行くと、表通りの戸口に子ろばのつないであるのを見つけたので、それをほどいた。
5:すると、そこに居合わせたある人々が、「その子ろばをほどいてどうするのか」と言った。
6:二人が、イエスの言われたとおり話すと、許してくれた。
7:二人が子ろばを連れてイエスのところに戻って来て、その上に自分の服をかけると、イエスはそれにお乗りになった。
8:多くの人が自分の服を道に敷き、また、ほかの人々は野原から葉の付いた枝を切って来て道に敷いた。
9:そして、前を行く者も後に従う者も叫んだ。「ホサナ。主の名によって来られる方に、/祝福があるように。
10:我らの父ダビデの来るべき国に、/祝福があるように。いと高きところにホサナ。」
11:こうして、イエスはエルサレムに着いて、神殿の境内に入り、辺りの様子を見て回った後、もはや夕方になったので、十二人を連れてベタニ アへ出て行かれた。
 
◆いちじくの木を呪う
12:翌日、一行がベタニアを出るとき、イエスは空腹を覚えられた。
13:そこで、葉の茂ったいちじくの木を遠くから見て、実がなってはいないかと近寄られたが、葉のほかは何もなかった。いちじくの季節ではな かったからである。
14:イエスはその木に向かって、「今から後いつまでも、お前から実を食べる者がないように」と言われた。弟子たちはこれを聞いていた。
 
◆神殿から商人を追い出す
15:それから、一行はエルサレムに来た。イエスは神殿の境内に入り、そこで売り買いしていた人々を追い出し始め、両替人の台や鳩を売る者の 腰掛けをひっくり返された。
16:また、境内を通って物を運ぶこともお許しにならなかった。
17:そして、人々に教えて言われた。「こう書いてあるではないか。『わたしの家は、すべての国の人の/祈りの家と呼ばれるべきである。』/ ところが、あなたたちは/それを強盗の巣にしてしまった。」
18:祭司長たちや律法学者たちはこれを聞いて、イエスをどのようにして殺そうかと謀った。群衆が皆その教えに打たれていたので、彼らはイエ スを恐れたからである。
19:夕方になると、イエスは弟子たちと都の外に出て行かれた。
 
◆枯れたいちじくの木の教訓
20:翌朝早く、一行は通りがかりに、あのいちじくの木が根元から枯れているのを見た。
21:そこで、ペトロは思い出してイエスに言った。「先生、御覧ください。あなたが呪われたいちじくの木が、枯れています。」
22:そこで、イエスは言われた。「神を信じなさい。
23:はっきり言っておく。だれでもこの山に向かい、『立ち上がって、海に飛び込め』と言い、少しも疑わず、自分の言うとおりになると信じる ならば、そのとおりになる。
24:だから、言っておく。祈り求めるものはすべて既に得られたと信じなさい。そうすれば、そのとおりになる。
25:また、立って祈るとき、だれかに対して何か恨みに思うことがあれば、赦してあげなさい。そうすれば、あなたがたの天の父も、あなたがた の過ちを赦してくださる。」
26>:もし赦さないなら、あなたがたの天の父も、あなたがたの過ちをお赦しにならない。
  (底本に節が欠けている個所の異本による訳文)
 
◆権威についての問答
27:一行はまたエルサレムに来た。イエスが神殿の境内を歩いておられると、祭司長、律法学者、長老たちがやって来て、
28:言った。「何の権威で、このようなことをしているのか。だれが、そうする権威を与えたのか。」
29:イエスは言われた。「では、一つ尋ねるから、それに答えなさい。そうしたら、何の権威でこのようなことをするのか、あなたたちに言お う。
30:ヨハネの洗礼は天からのものだったか、それとも、人からのものだったか。答えなさい。」
31:彼らは論じ合った。「『天からのものだ』と言えば、『では、なぜヨハネを信じなかったのか』と言うだろう。
32:しかし、『人からのものだ』と言えば……。」彼らは群衆が怖かった。皆が、ヨハネは本当に預言者だと思っていたからである。
33:そこで、彼らはイエスに、「分からない」と答えた。すると、イエスは言われた。「それなら、何の権威でこのようなことをするのか、わた しも言うまい。」

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マルコによる福音書 第12章

◆「ぶどう園と農夫」のたとえ
1:イエスは、たとえで彼らに話し始められた。「ある人がぶどう園を作り、垣を巡らし、搾り場を掘り、見張りのやぐらを立て、これを農夫たち に貸して旅に出た。
2:収穫の時になったので、ぶどう園の収穫を受け取るために、僕を農夫たちのところへ送った。
3:だが、農夫たちは、この僕を捕まえて袋だたきにし、何も持たせないで帰した。
4:そこでまた、他の僕を送ったが、農夫たちはその頭を殴り、侮辱した。
5:更に、もう一人を送ったが、今度は殺した。そのほかに多くの僕を送ったが、ある者は殴られ、ある者は殺された。
6:まだ一人、愛する息子がいた。『わたしの息子なら敬ってくれるだろう』と言って、最後に息子を送った。
7:農夫たちは話し合った。『これは跡取りだ。さあ、殺してしまおう。そうすれば、相続財産は我々のものになる。』
8:そして、息子を捕まえて殺し、ぶどう園の外にほうり出してしまった。
9:さて、このぶどう園の主人は、どうするだろうか。戻って来て農夫たちを殺し、ぶどう園をほかの人たちに与えるにちがいない。
10:聖書にこう書いてあるのを読んだことがないのか。『家を建てる者の捨てた石、/これが隅の親石となった。
11:これは、主がなさったことで、/わたしたちの目には不思議に見える。』」
12:彼らは、イエスが自分たちに当てつけてこのたとえを話されたと気づいたので、イエスを捕らえようとしたが、群衆を恐れた。それで、イエ スをその場に残して立ち去った。
 
◆皇帝への税金
13:さて、人々は、イエスの言葉じりをとらえて陥れようとして、ファリサイ派やヘロデ派の人を数人イエスのところに遣わした。
14:彼らは来て、イエスに言った。「先生、わたしたちは、あなたが真実な方で、だれをもはばからない方であることを知っています。人々を分 け隔てせず、真理に基づいて神の道を教えておられるからです。ところで、皇帝に税金を納めるのは、律法に適っているでしょうか、適っていないでしょうか。 納めるべきでしょうか、納めてはならないのでしょうか。」
15:イエスは、彼らの下心を見抜いて言われた。「なぜ、わたしを試そうとするのか。デナリオン銀貨を持って来て見せなさい。」
16:彼らがそれを持って来ると、イエスは、「これは、だれの肖像と銘か」と言われた。彼らが、「皇帝のものです」と言うと、
17:イエスは言われた。「皇帝のものは皇帝に、神のものは神に返しなさい。」彼らは、イエスの答えに驚き入った。
 
◆復活についての問答
18:復活はないと言っているサドカイ派の人々が、イエスのところへ来
て尋ねた。
19:「先生、モーセはわたしたちのために書いています。『ある人の兄が死に、妻を後に残して子がない場合、その弟は兄嫁と結婚して、兄の跡 継ぎをもうけねばならない』と。
20:ところで、七人の兄弟がいました。長男が妻を迎えましたが、跡継ぎを残さないで死にました。
21:次男がその女を妻にしましたが、跡継ぎを残さないで死に、三男も同様でした。
22:こうして、七人とも跡継ぎを残しませんでした。最後にその女も死にました。
23:復活の時、彼らが復活すると、その女はだれの妻になるのでしょうか。七人ともその女を妻にしたのです。」
24:イエスは言われた。「あなたたちは聖書も神の力も知らないから、そんな思い違いをしているのではないか。
25:死者の中から復活するときには、めとることも嫁ぐこともなく、天使のようになるのだ。
26:死者が復活することについては、モーセの書の『柴』の個所で、神がモーセにどう言われたか、読んだことがないのか。『わたしはアブラハ ムの神、イサクの神、ヤコブの神である』とあるではないか。
27:神は死んだ者の神ではなく、生きている者の神なのだ。あなたたちは大変な思い違いをしている。」
 
◆最も重要な掟
28:彼らの議論を聞いていた一人の律法学者が進み出、イエスが立派にお答えになったのを見て、尋ねた。「あらゆる掟のうちで、どれが第一で しょうか。」
29:イエスはお答えになった。「第一の掟は、これである。『イスラエルよ、聞け、わたしたちの神である主は、唯一の主である。
30:心を尽くし、精神を尽くし、思いを尽くし、力を尽くして、あなたの神である主を愛しなさい。』
31:第二の掟は、これである。『隣人を自分のように愛しなさい。』この二つにまさる掟はほかにない。」
32:律法学者はイエスに言った。「先生、おっしゃるとおりです。『神は唯一である。ほかに神はない』とおっしゃったのは、本当です。
33:そして、『心を尽くし、知恵を尽くし、力を尽くして神を愛し、また隣人を自分のように愛する』ということは、どんな焼き尽くす献げ物や いけにえよりも優れています。」
34:イエスは律法学者が適切な答えをしたのを見て、「あなたは、神の国から遠くない」と言われた。もはや、あえて質問する者はなかった。
 
◆ダビデの子についての問答
35:イエスは神殿の境内で教えていたとき、こう言われた。「どうして律法学者たちは、『メシアはダビデの子だ』と言うのか。
36:ダビデ自身が聖霊を受けて言っている。『主は、わたしの主にお告げになった。「わたしの右の座に着きなさい。わたしがあなたの敵を/あ なたの足もとに屈服させるときまで」と。』
37:このようにダビデ自身がメシアを主と呼んでいるのに、どうしてメシアがダビデの子なのか。」大勢の群衆は、イエスの教えに喜んで耳を傾 けた。
 
◆律法学者を非難する
38:イエスは教えの中でこう言われた。「律法学者に気をつけなさい。彼らは、長い衣をまとって歩き回ることや、広場で挨拶されること、
39:会堂では上席、宴会では上座に座ることを望み、
40:また、やもめの家を食い物にし、見せかけの長い祈りをする。このような者たちは、人一倍厳しい裁きを受けることになる。」
 
◆やもめの献金
41:イエスは賽銭箱の向かいに座って、群衆がそれに金を入れる様子を見ておられた。大勢の金持ちがたくさん入れていた。
42:ところが、一人の貧しいやもめが来て、レプトン銅貨二枚、すなわち一クァドランスを入れた。
43:イエスは、弟子たちを呼び寄せて言われた。「はっきり言っておく。この貧しいやもめは、賽銭箱に入れている人の中で、だれよりもたくさ ん入れた。
44:皆は有り余る中から入れたが、この人は、乏しい中から自分の持っている物をすべて、生活費を全部入れたからである。」

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マルコによる福音書 第13章

 
◆神殿の崩壊を予告する
1:イエスが神殿の境内を出て行かれるとき、弟子の一人が言った。
「先生、御覧ください。なんとすばらしい石、なんとすばらしい建物でしょう。」
2:イエスは言われた。「これらの大きな建物を見ているのか。一つの石もここで崩されずに他の石の上に残ることはない。」
 
◆終末の徴
3:イエスがオリーブ山で神殿の方を向いて座っておられると、ペトロ、ヤコブ、ヨハネ、アンデレが、ひそかに尋ねた。
4:「おっしゃってください。そのことはいつ起こるのですか。また、そのことがすべて実現するときには、どんな徴があるのですか。」
5:イエスは話し始められた。「人に惑わされないように気をつけなさい。
6:わたしの名を名乗る者が大勢現れ、『わたしがそれだ』と言って、多くの人を惑わすだろう。
7:戦争の騒ぎや戦争のうわさを聞いても、慌ててはいけない。そういうことは起こるに決まっているが、まだ世の終わりではない。
8:民は民に、国は国に敵対して立ち上がり、方々に地震があり、飢饉が起こる。これらは産みの苦しみの始まりである。
9:あなたがたは自分のことに気をつけていなさい。あなたがたは地方法院に引き渡され、会堂で打ちたたかれる。また、わたしのために総督や王 の前に立たされて、証しをすることになる。
10:しかし、まず、福音があらゆる民に宣べ伝えられねばならない。
11:引き渡され、連れて行かれるとき、何を言おうかと取り越し苦労をしてはならない。そのときには、教えられることを話せばよい。実は、話 すのはあなたがたではなく、聖霊なのだ。
12:兄弟は兄弟を、父は子を死に追いやり、子は親に反抗して殺すだろう。
13:また、わたしの名のために、あなたがたはすべての人に憎まれる。しかし、最後まで耐え忍ぶ者は救われる。」
 
◆大きな苦難を予告する
14:「憎むべき破壊者が立ってはならない所に立つのを見たら――読者は悟れ――、そのとき、ユダヤにいる人々は山に逃げなさい。
15:屋上にいる者は下に降りてはならない。家にある物を何か取り出そうとして中に入ってはならない。
16:畑にいる者は、上着を取りに帰ってはならない。
17:それらの日には、身重の女と乳飲み子を持つ女は不幸だ。
18:このことが冬に起こらないように、祈りなさい。
19:それらの日には、神が天地を造られた創造の初めから今までなく、今後も決してないほどの苦難が来るからである。
20:主がその期間を縮めてくださらなければ、だれ一人救われない。しかし、主は御自分のものとして選んだ人たちのために、その期間を
縮めてくださったのである。
21:そのとき、『見よ、ここにメシアがいる』『見よ、あそこだ』と言う者がいても、信じてはならない。
22:偽メシアや偽預言者が現れて、しるしや不思議な業を行い、できれば、選ばれた人たちを惑わそうとするからである。
23:だから、あなたがたは気をつけていなさい。一切の事を前もって言っておく。」
◆人の子が来る
24:「それらの日には、このような苦難の後、/太陽は暗くなり、/月は光を放たず、
25:星は空から落ち、/天体は揺り動かされる。
26:そのとき、人の子が大いなる力と栄光を帯びて雲に乗って来るのを、人々は見る。
27:そのとき、人の子は天使たちを遣わし、地の果てから天の果てまで、彼によって選ばれた人たちを四方から呼び集める。」
 
◆いちじくの木の教え
28:「いちじくの木から教えを学びなさい。枝が柔らかくなり、葉が伸びると、夏の近づいたことが分かる。
29:それと同じように、あなたがたは、これらのことが起こるのを見たら、人の子が戸口に近づいていると悟りなさい。
30:はっきり言っておく。これらのことがみな起こるまでは、この時代は決して滅びない。
31:天地は滅びるが、わたしの言葉は決して滅びない。」
 
◆目を覚ましていなさい
32:「その日、その時は、だれも知らない。天使たちも子も知らない。父だけがご存じである。
33:気をつけて、目を覚ましていなさい。その時がいつなのか、あなたがたには分からないからである。
34:それは、ちょうど、家を後に旅に出る人が、僕たちに仕事を割り当てて責任を持たせ、門番には目を覚ましているようにと、言いつけておく ようなものだ。
35:だから、目を覚ましていなさい。いつ家の主人が帰って来るのか、夕方か、夜中か、鶏の鳴くころか、明け方か、あなたがたには分からない からである。
36:主人が突然帰って来て、あなたがたが眠っているのを見つけるかもしれない。
37:あなたがたに言うことは、すべての人に言うのだ。目を覚ましていなさい。」

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マルコによる福音書 第14章

◆イエスを殺す計略
1:さて、過越祭と除酵祭の二日前になった。祭司長たちや律法学者たちは、なんとか計略を用いてイエスを捕らえて殺そうと考えていた。
2:彼らは、「民衆が騒ぎだすといけないから、祭りの間はやめておこう」と言っていた。
 
◆ベタニアで香油を注がれる
3:イエスがベタニアで重い皮膚病の人シモンの家にいて、食事の席に着いておられたとき、一人の女が、純粋で非常に高価なナルドの香油の入っ た石膏の壺を持って来て、それを壊し、香油をイエスの頭に注ぎかけた。
4:そこにいた人の何人かが、憤慨して互いに言った。「なぜ、こんなに香油を無駄使いしたのか。
5:この香油は三百デナリオン以上に売って、貧しい人々に施すことができたのに。」そして、彼女を厳しくとがめた。
6:イエスは言われた。「するままにさせておきなさい。なぜ、この人を困らせるのか。わたしに良いことをしてくれたのだ。
7:貧しい人々はいつもあなたがたと一緒にいるから、したいときに良いことをしてやれる。しかし、わたしはいつも一緒にいるわけではない。
8:この人はできるかぎりのことをした。つまり、前もってわたしの体に香油を注ぎ、埋葬の準備をしてくれた。
9:はっきり言っておく。世界中どこでも、福音が宣べ伝えられる所では、この人のしたことも記念として語り伝えられるだろう。」
 
◆ユダ、裏切りを企てる
10:十二人の一人イスカリオテのユダは、イエスを引き渡そうとして、
祭司長たちのところへ出かけて行った。
11:彼らはそれを聞いて喜び、金を与える約束をした。そこでユダは、どうすれば折よくイエスを引き渡せるかとねらっていた。
 
◆過越の食事をする
12:除酵祭の第一日、すなわち過越の小羊を屠る日、弟子たちがイエスに、「過越の食事をなさるのに、どこへ行って用意いたしましょうか」と 言った。
13:そこで、イエスは次のように言って、二人の弟子を使いに出された。「都へ行きなさい。すると、水がめを運んでいる男に出会う。その人に ついて行きなさい。
14:その人が入って行く家の主人にはこう言いなさい。『先生が、「弟子たちと一緒に過越の食事をするわたしの部屋はどこか」と言っていま す。』
15:すると、席が整って用意のできた二階の広間を見せてくれるから、そこにわたしたちのために準備をしておきなさい。」
16:弟子たちは出かけて都に行ってみると、イエスが言われたとおりだったので、過越の食事を準備した。
17:夕方になると、イエスは十二人と一緒にそこへ行かれた。
18:一同が席に着いて食事をしているとき、イエスは言われた。「はっきり言っおくが、あなたがたのうちの一人で、わたしと一緒に食事をして いる者が、わたしを裏切ろうとしている。」
19:弟子たちは心を痛めて、「まさかわたしのことでは」と代わる代わる言い始めた。
20:イエスは言われた。「十二人のうちの一人で、わたしと一緒に鉢に食べ物を浸している者がそれだ。
21:人の子は、聖書に書いてあるとおりに、去って行く。だが、人の子を裏切るその者は不幸だ。生まれなかった方が、その者のためによかっ た。」
 
◆主の晩餐
22:一同が食事をしているとき、イエスはパンを取り、賛美の祈りを唱えて、それを裂き、弟子たちに与えて言われた。「取りなさい。これはわ たしの体である。」
23:また、杯を取り、感謝の祈りを唱えて、彼らにお渡しになった。彼らは皆その杯から飲んだ。
24:そして、イエスは言われた。「これは、多くの人のために流されるわたしの血、契約の血である。
25:はっきり言っておく。神の国で新たに飲むその日まで、ぶどうの実から作ったものを飲むことはもう決してあるまい。」
26:一同は賛美の歌をうたってから、オリーブ山へ出かけた。
 
◆ペトロの離反を予告する
27:イエスは弟子たちに言われた。「あなたがたは皆わたしにつまずく。『わたしは羊飼いを打つ。すると、羊は散ってしまう』/と書いてある からだ。
28:しかし、わたしは復活した後、あなたがたより先にガリラヤへ行く。」
29:するとペトロが、「たとえ、みんながつまずいても、わたしはつまずきません」と言った。
30:イエスは言われた。「はっきり言っておくが、あなたは、今日、今夜、鶏が二度鳴く前に、三度わたしのことを知らないと言うだろう。」
31:ペトロは力を込めて言い張った。「たとえ、御一緒に死なねばならなくなっても、あなたのことを知らないなどとは決して申しません。」皆 の者も同じように言った。
 
◆ゲツセマネで祈る
32:一同がゲツセマネという所に来ると、イエスは弟子たちに、「わたしが祈っている間、ここに座っていなさい」と言われた。
33:そして、ペトロ、ヤコブ、ヨハネを伴われたが、イエスはひどく恐れてもだえ始め、
34:彼らに言われた。「わたしは死ぬばかりに悲しい。ここを離れず、目を覚ましていなさい。」
35:少し進んで行って地面にひれ伏し、できることなら、この苦しみの時が自分から過ぎ去るようにと祈り、
36:こう言われた。「アッバ、父よ、あなたは何でもおできになります。この杯をわたしから取りのけてください。しかし、わたしが願うことで はなく、御心に適うことが行われますように。」
37:それから、戻って御覧になると、弟子たちは眠っていたので、ペトロに言われた。「シモン、眠っているのか。わずか一時も目を覚ましてい られなかったのか。
38:誘惑に陥らぬよう、目を覚まして祈っていなさい。心は燃えても、肉体は弱い。」
39:更に、向こうへ行って、同じ言葉で祈られた。
40:再び戻って御覧になると、弟子たちは眠っていた。ひどく眠かったのである。彼らは、イエスにどう言えばよいのか、分からなかった。
41:イエスは三度目に戻って来て言われた。「あなたがたはまだ眠っている。休んでいる。もうこれでいい。時が来た。人の子は罪人たちの手に 引き渡される。
42:立て、行こう。見よ、わたしを裏切る者が来た。」
 
◆裏切られ、逮捕される
43:さて、イエスがまだ話しておられると、十二人の一人であるユダが進み寄って来た。祭司長、律法学者、長老たちの遣わした群衆も、剣や棒 を持って一緒に来た。
44:イエスを裏切ろうとしていたユダは、「わたしが接吻するのが、その人だ。捕まえて、逃がさないように連れて行け」と、前もって合図を決 めていた。
45:ユダはやって来るとすぐに、イエスに近寄り、「先生」と言って接吻した。
46:人々は、イエスに手をかけて捕らえた。
47:居合わせた人々のうちのある者が、剣を抜いて大祭司の手下に打ってかかり、片方の耳を切り落とした。
48:そこで、イエスは彼らに言われた。「まるで強盗にでも向かうように、剣や棒を持って捕らえに来たのか。
49:わたしは毎日、神殿の境内で一緒にいて教えていたのに、あなたたちはわたしを捕らえなかった。しかし、これは聖書の言葉が実現するため である。」
50:弟子たちは皆、イエスを見捨てて逃げてしまった。
 
◆一人の若者、逃げる
51:一人の若者が、素肌に亜麻布をまとってイエスについて来ていた。人々が捕らえようとすると、
52:亜麻布を捨てて裸で逃げてしまった。
 
◆最高法院で裁判を受ける
53:人々は、イエスを大祭司のところへ連れて行った。祭司長、長老、律法学者たちが皆、集まって来た。
54:ペトロは遠く離れてイエスに従い、大祭司の屋敷の中庭まで入って、下役たちと一緒に座って、火にあたっていた。
55:祭司長たちと最高法院の全員は、死刑にするためイエスにとって不利な証言を求めたが、得られなかった。
56:多くの者がイエスに不利な偽証をしたが、その証言は食い違っていたからである。
57:すると、数人の者が立ち上がって、イエスに不利な偽証をした。
58:「この男が、『わたしは人間の手で造ったこの神殿を打ち倒し、三日あれば、手で造らない別の神殿を建ててみせる』と言うのを、わたした ちは聞きました。」
59:しかし、この場合も、彼らの証言は食い違った。
60:そこで、大祭司は立ち上がり、真ん中に進み出て、イエスに尋ねた。「何も答えないのか、この者たちがお前に不利な証言をしているが、ど うなのか。」
61:しかし、イエスは黙り続け何もお答えにならなかった。そこで、重ねて大祭司は尋ね、「お前はほむべき方の子、メシアなのか」と言った。
62:イエスは言われた。「そうです。あなたたちは、人の子が全能の神の右に座り、/天の雲に囲まれて来るのを見る。」
63:大祭司は、衣を引き裂きながら言った。「これでもまだ証人が必要だろうか。
64:諸君は冒涜の言葉を聞いた。どう考えるか。」一同は、死刑にすべきだと決議した。
65:それから、ある者はイエスに唾を吐きかけ、目隠しをしてこぶしで殴りつけ、「言い当ててみろ」と言い始めた。また、下役たちは、イエス を平手で打った。
 
◆ペトロ、イエスを知らないと言う
66:ペトロが下の中庭にいたとき、大祭司に仕える女中の一人が来て、
67:ペトロが火にあたっているのを目にすると、じっと見つめて言った。「あなたも、あのナザレのイエスと一緒にいた。」
68:しかし、ペトロは打ち消して、「あなたが何のことを言っているのか、わたしには分からないし、見当もつかない」と言った。そして、出口 の方へ出て行くと、鶏が鳴いた。
69:女中はペトロを見て、周りの人々に、「この人は、あの人たちの仲間です」とまた言いだした。
70:ペトロは、再び打ち消した。しばらくして、今度は、居合わせた人々がペトに言った。「確かに、お前はあの連中の仲間だ。ガリラヤの者だ から。」
71:すると、ペトロは呪いの言葉さえ口にしながら、「あなたがたの言っているそんな人は知らない」と誓い始めた。
72:するとすぐ、鶏が再び鳴いた。ペトロは、「鶏が二度鳴く前に、あなたは三度わたしを知らないと言うだろう」とイエスが言われた言葉を思 い出して、いきなり泣きだした。

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マルコによる福音書 第15章

 
◆ピラトから尋問される
1:夜が明けるとすぐ、祭司長たちは、長老や律法学者たちと共に、つまり最高法院全体で相談した後、イエスを縛って引いて行き、ピラトに渡し た。
2:ピラトがイエスに、「お前がユダヤ人の王なのか」と尋問すると、イエスは、「それは、あなたが言っていることです」と答えられた。
3:そこで祭司長たちが、いろいろとイエスを訴えた。
4:ピラトが再び尋問した。「何も答えないのか。彼らがあのようにお前を訴えているのに。」
5:しかし、イエスがもはや何もお答えにならなかったので、ピラトは不思議に思った。
 
◆死刑の判決を受ける
6:ところで、祭りの度ごとに、ピラトは人々が願い出る囚人を一人釈放していた。
7:さて、暴動のとき人殺しをして投獄されていた暴徒たちの中に、バラバという男がいた。
8:群衆が押しかけて来て、いつものようにしてほしいと要求し始めた。
9:そこで、ピラトは、「あのユダヤ人の王を釈放してほしいのか」と言った。
10:祭司長たちがイエスを引き渡したのは、ねたみのためだと分かっていたからである。
11:祭司長たちは、バラバの方を釈放してもらうように群衆を扇動した。
12:そこで、ピラトは改めて、「それでは、ユダヤ人の王とお前たちが言っているあの者は、どうしてほしいのか」と言った。
13:群衆はまた叫んだ。「十字架につけろ。」
14:ピラトは言った。「いったいどんな悪事を働いたというのか。」群衆はますます激しく、「十字架につけろ」と叫び立てた。
15:ピラトは群衆を満足させようと思って、バラバを釈放した。そして、イエスを鞭打ってから、十字架につけるために引き渡した。
 
◆兵士から侮辱される
16:兵士たちは、官邸、すなわち総督官邸の中に、イエスを引いて行き、部隊の全員を呼び集めた。
17:そして、イエスに紫の服を着せ、茨の冠を編んでかぶらせ、
18:「ユダヤ人の王、万歳」と言って敬礼し始めた。
19:また何度も、葦の棒で頭をたたき、唾を吐きかけ、ひざまずいて拝んだりした。
20:このようにイエスを侮辱したあげく、紫の服を脱がせて元の服を着せた。そして、十字架につけるために外へ引き出した。
 
◆十字架につけられる
21:そこへ、アレクサンドロとルフォスとの父でシモンというキレネ人が、田舎から出て来て通りかかったので、兵士たちはイエスの十字架を無 理に担がせた。
22:そして、イエスをゴルゴタという所――その意味は「されこうべの場所」――に連れて行った。
23:没薬を混ぜたぶどう酒を飲ませようとしたが、イエスはお受けにならなかった。
24:それから、兵士たちはイエスを十字架につけて、/その服を分け合った、/だれが何を取るかをくじ引きで決めてから。
25:イエスを十字架につけたのは、午前九時であった。
26:罪状書きには、「ユダヤ人の王」と書いてあった。
27:また、イエスと一緒に二人の強盗を、一人は右にもう一人は左に、十字架につけた。
28>:こうして、「その人は犯罪人の一人に数えられた」という聖書の言葉が実現した。
  (底本に節が欠けている個所の異本による訳文)
29:そこを通りかかった人々は、頭を振りながらイエスをののしって言った。「おやおや、神殿を打ち倒し、三日で建てる者、
30:十字架から降りて自分を救ってみろ。」
31:同じように、祭司長たちも律法学者たちと一緒になって、代わる代わるイエスを侮辱して言った。「他人は救ったのに、自分は救えない。
32:メシア、イスラエルの王、今すぐ十字架から降りるがいい。それを見たら、信じてやろう。」一緒に十字架につけられた者たちも、イエスを ののしった。
 
◆イエスの死
33:昼の十二時になると、全地は暗くなり、それが三時まで続いた。
34:三時にイエスは大声で叫ばれた。「エロイ、エロイ、レマ、サバクタニ。」これは、「わが神、わが神、なぜわたしをお見捨てになったので すか」という意味である。
35:そばに居合わせた人々のうちには、これを聞いて、「そら、エリヤを呼んでいる」と言う者がいた。
36:ある者が走り寄り、海綿に酸いぶどう酒を含ませて葦の棒に付け、「待て、エリヤが彼を降ろしに来るかどうか、見ていよう」と言いなが ら、イエスに飲ませようとした。
37:しかし、イエスは大声を出して息を引き取られた。
38:すると、神殿の垂れ幕が上から下まで真っ二つに裂けた。
39:百人隊長がイエスの方を向いて、そばに立っていた。そして、イエスがこのように息を引き取られたのを見て、「本当に、この人は神の子 だった」と言った。
40:また、婦人たちも遠くから見守っていた。その中には、マグダラのマリア、小ヤコブとヨセの母マリア、そしてサロメがいた。
41:この婦人たちは、イエスがガリラヤにおられたとき、イエスに従って来て世話をしていた人々である。なおそのほかにも、イエスと共にエル サレムへ上って来た婦人たちが大勢いた。
 
◆墓に葬られる
42:既に夕方になった。その日は準備の日、すなわち安息日の前日であったので、
43:アリマタヤ出身で身分の高い議員ヨセフが来て、勇気を出してピラトのところへ行き、イエスの遺体を渡してくれるようにと願い出た。この 人も神の国を待ち望んでいたのである。
44:ピラトは、イエスがもう死んでしまったのかと不思議に思い、百人隊長を呼び寄せて、既に死んだかどうかを尋ねた。
45:そして、百人隊長に確かめたうえ、遺体をヨセフに下げ渡した。
46:ヨセフは亜麻布を買い、イエスを十字架から降ろしてその布で巻き、岩を掘って作った墓の中に納め、墓の入り口には石を転がしておいた。
47:マグダラのマリアとヨセの母マリアとは、イエスの遺体を納めた場所を見つめていた。
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マルコによる福音書 第16章

◆復活する
1:安息日が終わると、マグダラのマリア、ヤコブの母マリア、サロメは、イエスに油を塗りに行くために香料を買った。
2:そして、週の初めの日の朝ごく早く、日が出るとすぐ墓に行った。
3:彼女たちは、「だれが墓の入り口からあの石を転がしてくれるでしょうか」と話し合っていた。
4:ところが、目を上げて見ると、石は既にわきへ転がしてあった。石は非常に大きかったのである。
5:墓の中に入ると、白い長い衣を着た若者が右手に座っているのが見えたので、婦人たちはひどく驚いた。
6:若者は言った。「驚くことはない。あなたがたは十字架につけられたナザレのイエスを捜しているが、あの方は復活なさって、ここにはおられ ない。御覧なさい。お納めした場所である。
7:さあ、行って、弟子たちとペトロに告げなさい。『あの方は、あなたがたより先にガリラヤへ行かれる。かねて言われたとおり、そこでお目に かかれる』と。」
8:婦人たちは墓を出て逃げ去った。震え上がり、正気を失っていた。そして、だれにも何も言わなかった。恐ろしかったからである。
 
■結び 一
◆マグダラのマリアに現れる
9:〔イエスは週の初めの日の朝早く、復活して、まずマグダラのマリアに御自身を現された。このマリアは、以前イエスに七つの悪霊を追い出し ていただいた婦人である。
10:マリアは、イエスと一緒にいた人々が泣き悲しんでいるところへ行って、このことを知らせた。
11:しかし彼らは、イエスが生きておられること、そしてマリアがそのイエスを見たことを聞いても、信じなかった。
 
◆二人の弟子に現れる
12:その後、彼らのうちの二人が田舎の方へ歩いて行く途中、イエスが別の姿で御自身を現された。
13:この二人も行って残りの人たちに知らせたが、彼らは二人の言うことも信じなかった。
 
◆弟子たちを派遣する
14:その後、十一人が食事をしているとき、イエスが現れ、その不信仰とかたくなな心をおとがめになった。復活されたイエスを見た人々の言う ことを、信じなかったからである。
15:それから、イエスは言われた。「全世界に行って、すべての造られたものに福音を宣べ伝えなさい。
16:信じて洗礼を受ける者は救われるが、信じない者は滅びの宣告を受ける。
17:信じる者には次のようなしるしが伴う。彼らはわたしの名によって悪霊を追い出し、新しい言葉を語る。
18:手で蛇をつかみ、また、毒を飲んでも決して害を受けず、病人に手を置けば治る。」
 
◆天に上げられる
19:主イエスは、弟子たちに話した後、天に上げられ、神の右の座に着かれた。
20:一方、弟子たちは出かけて行って、至るところで宣教した。主は彼らと共に働き、彼らの語る言葉が真実であることを、それに伴うしるしに よってはっきりとお示しになった。〕
 
■結び 二
:〔婦人たちは、命じられたことをすべてペトロとその仲間たちに手 短に伝えた。その後、イエス御自身も、東から西まで、彼らを通して、永遠の救いに関する聖なる朽ちることのない福音を広められた。 アーメン。〕
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使徒言行録  第1章
 
◆はしがき
1‐2:テオフィロさま、わたしは先に第一巻を著して、イエスが行い、また教え始めてから、お選びになった使徒たちに聖霊を通して指図 を与え、天に上げられた日までのすべてのことについて書き記しました。
 
◆約束の聖霊
3:イエスは苦難を受けた後、御自分が生きていることを、数多くの証 拠をもって使徒たちに示し、四十日にわたって彼らに現れ、神の国について話された。
4:そして、彼らと食事を共にしていたとき、こう命じられた。「エルサレムを離れず、前にわたしから聞いた、父の約束されたものを待ちなさ い。
5:ヨハネは水で洗礼を授けたが、あなたがたは間もなく聖霊による洗礼を授けられるからである。」
 
◆イエス、天に上げられる
6:さて、使徒たちは集まって、「主よ、イスラエルのために国を建て直してくださるのは、この時ですか」と尋ねた。
7:イエスは言われた。「父が御自分の権威をもってお定めになった時や時期は、あなたがたの知るところではない。
8:あなたがたの上に聖霊が降ると、あなたがたは力を受ける。そして、エルサレムばかりでなく、ユダヤとサマリアの全土で、また、地の果てに 至るまで、わたしの証人となる。」
9:こう話し終わると、イエスは彼らが見ているうちに天に上げられたが、雲に覆われて彼らの目から見えなくなった。
10:イエスが離れ去って行かれるとき、彼らは天を見つめていた。すると、白い服を着た二人の人がそばに立って、
11:言った。「ガリラヤの人たち、なぜ天を見上げて立っているのか。あなたがたから離れて天に上げられたイエスは、天に行かれるのをあなた がたが見たのと同じ有様で、またおいでになる。」
 
◆マティアの選出
12:使徒たちは、「オリーブ畑」と呼ばれる山からエルサレムに戻って来た。この山はエルサレムに近く、安息日にも歩くことが許される距離の 所にある。
13:彼らは都に入ると、泊まっていた家の上の部屋に上がった。それは、ペトロ、ヨハネ、ヤコブ、アンデレ、フィリポ、トマス、バルトロマ イ、マタイ、アルファイの子ヤコブ、熱心党のシモン、ヤコブの子ユダであった。
14:彼らは皆、婦人たちやイエスの母マリア、またイエスの兄弟たちと心を合わせて熱心に祈っていた。
15:そのころ、ペトロは兄弟たちの中に立って言った。百二十人ほどの人々が一つになっていた。
16:「兄弟たち、イエスを捕らえた者たちの手引きをしたあのユダについては、聖霊がダビデの口を通して預言しています。この聖書の言葉は、 実現しなければならなかったのです。
17:ユダはわたしたちの仲間の一人であり、同じ任務を割り当てられていました。
18:ところで、このユダは不正を働いて得た報酬で土地を買ったのですが、その地面にまっさかさまに落ちて、体が真ん中から裂け、はらわたが みな出てしまいました。
19:このことはエルサレムに住むすべての人に知れ渡り、その土地は彼らの言葉で『アケルダマ』、つまり、『血の土地』と呼ばれるようになり ました。
20:詩編にはこう書いてあります。『その住まいは荒れ果てよ、/そこに住む者はいなくなれ。』/また、/『その務めは、ほかの人が引き受け るがよい。』
21‐22:そこで、主イエスがわたしたちと共に生活されていた間、つまり、ヨハネの洗礼のときから始まって、わたしたちを離れて天に上げら れた日まで、いつも一緒にいた者の中からだれか一人が、わたしたちに加わって、主の復活の証人になるべきです。」
23:そこで人々は、バルサバと呼ばれ、ユストともいうヨセフと、マティアの二人を立てて、
24:次のように祈った。「すべての人の心をご存じである主よ、この二人のうちのどちらをお選びになったかを、お示しください。
25:ユダが自分の行くべき所に行くために離れてしまった、使徒としてのこの任務を継がせるためです。」
26:二人のことでくじを引くと、マティアに当たったので、この人が十一人の使徒の仲間に加えられることになった。
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使徒言行録  第2章
 
◆聖霊が降る
1:五旬祭の日が来て、一同が一つになって集まっていると、
2:突然、激しい風が吹いて来るような音が天から聞こえ、彼らが座っ ていた家中に響いた。
3:そして、炎のような舌が分かれ分かれに現れ、一人一人の上にとどまった。
4:すると、一同は聖霊に満たされ、“霊”が語らせるままに、ほかの国々の言葉で話しだした。
5:さて、エルサレムには天下のあらゆる国から帰って来た、信心深いユダヤ人が住んでいたが、
6:この物音に大勢の人が集まって来た。そして、だれもかれも、自分の故郷の言葉が話されているのを聞いて、あっけにとられてしまった。
7:人々は驚き怪しんで言った。「話をしているこの人たちは、皆ガリラヤの人ではないか。
8:どうしてわたしたちは、めいめいが生まれた故郷の言葉を聞くのだろうか。
9:わたしたちの中には、パルティア、メディア、エラムからの者がおり、また、メソポタミア、ユダヤ、カパドキア、ポントス、アジア、
10:フリギア、パンフィリア、エジプト、キレネに接するリビア地方などに住む者もいる。また、ローマから来て滞在中の者、
11:ユダヤ人もいれば、ユダヤ教への改宗者もおり、クレタ、アラビアから来た者もいるのに、彼らがわたしたちの言葉で神の偉大な業を語って いるのを聞こうとは。」
12:人々は皆驚き、とまどい、「いったい、これはどういうことなのか」と互いに言った。
13:しかし、「あの人たちは、新しいぶどう酒に酔っているのだ」と言って、あざける者もいた。
 
◆ペトロの説教
14:すると、ペトロは十一人と共に立って、声を張り上げ、話し始めた。「ユダヤの方々、またエルサレムに住むすべての人たち、知っていただ きたいことがあります。わたしの言葉に耳を傾けてください。
15:今は朝の九時ですから、この人たちは、あなたがたが考えているように、酒に酔っているのではありません。
16:そうではなく、これこそ預言者ヨエルを通して言われていたことなのです。
17:『神は言われる。終わりの時に、/わたしの霊をすべての人に注ぐ。すると、あなたたちの息子と娘は預言し、/若者は幻を見、老人は夢を 見る。
18:わたしの僕やはしためにも、/そのときには、わたしの霊を注ぐ。すると、彼らは預言する。
19:上では、天に不思議な業を、/下では、地に徴を示そう。血と火と立ちこめる煙が、それだ。
20:主の偉大な輝かしい日が来る前に、/太陽は暗くなり、/月は血のように赤くなる。
21:主の名を呼び求める者は皆、救われる。』
22:イスラエルの人たち、これから話すことを聞いてください。ナザレの人イエスこそ、神から遣わされた方です。神は、イエスを通してあなた がたの間で行われた奇跡と、不思議な業と、しるしとによって、そのことをあなたがたに証明なさいました。あなたがた自身が 既に知っているとおりです。
23:このイエスを神は、お定めになった計画により、あらかじめご存じのうえで、あなたがたに引き渡されたのですが、あなたがたは律法を知ら ない者たちの手を借りて、十字架につけて殺してしまったのです。
24:しかし、神はこのイエスを死の苦しみから解放して、復活させられました。イエスが死に支配されたままでおられるなどということは、あり えなかったからです。
25:ダビデは、イエスについてこう言っています。『わたしは、いつも目の前に主を見ていた。主がわたしの右におられるので、/わたしは決し て動揺しない。
26:だから、わたしの心は楽しみ、/舌は喜びたたえる。体も希望のうちに生きるであろう。
27:あなたは、わたしの魂を陰府に捨てておかず、/あなたの聖なる者を/朽ち果てるままにしておかれない。
28:あなたは、命に至る道をわたしに示し、/御前にいるわたしを喜びで満たしてくださる。』
29:兄弟たち、先祖ダビデについては、彼は死んで葬られ、その墓は今でもわたしたちのところにあると、はっきり言えます。
30:ダビデは預言者だったので、彼から生まれる子孫の一人をその王座に着かせると、神がはっきり誓ってくださったことを知っていました。
31:そして、キリストの復活について前もって知り、/『彼は陰府に捨てておかれず、/その体は朽ち果てることがない』/と語りました。
32:神はこのイエスを復活させられたのです。わたしたちは皆、そのことの証人です。
33:それで、イエスは神の右に上げられ、約束された聖霊を御父から受けて注いでくださいました。あなたがたは、今このことを見聞きしている のです。
34:ダビデは天に昇りませんでしたが、彼自身こう言っています。『主は、わたしの主にお告げになった。「わたしの右の座に着け。
35:わたしがあなたの敵を/あなたの足台とするときまで。」』
36:だから、イスラエルの全家は、はっきり知らなくてはなりません。あなたがたが十字架につけて殺したイエスを、神は主とし、またメシアと なさったのです。」
37:人々はこれを聞いて大いに心を打たれ、ペトロとほかの使徒たちに、「兄弟たち、わたしたちはどうしたらよいのですか」と言った。
38:すると、ペトロは彼らに言った。「悔い改めなさい。めいめい、イエス・キリストの名によって洗礼を受け、罪を赦していただきなさい。そ うすれば、賜物として聖霊を受けます。
39:この約束は、あなたがたにも、あなたがたの子供にも、遠くにいるすべての人にも、つまり、わたしたちの神である主が招いてくださる者な らだれにでも、与えられているものなのです。」
40:ペトロは、このほかにもいろいろ話をして、力強く証しをし、「邪悪なこの時代から救われなさい」と勧めていた。
41:ペトロの言葉を受け入れた人々は洗礼を受け、その日に三千人ほどが仲間に加わった。
42:彼らは、使徒の教え、相互の交わり、パンを裂くこと、祈ることに熱心であった。
 
◆信者の生活
43:すべての人に恐れが生じた。使徒たちによって多くの不思議な業としるしが行われていたのである。
44:信者たちは皆一つになって、すべての物を共有にし、
45:財産や持ち物を売り、おのおのの必要に応じて、皆がそれを分け合った。
46:そして、毎日ひたすら心を一つにして神殿に参り、家ごとに集まってパンを裂き、喜びと真心をもって一緒に食事をし、
47:神を賛美していたので、民衆全体から好意を寄せられた。こうして、主は救われる人々を日々仲間に加え一つにされたのである。

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使徒言行録 第3章

◆ペトロ、足の不自由な男をいやす
1:ペトロとヨハネが、午後三時の祈りの時に神殿に上って行った。
2:すると、生まれながら足の不自由な男が運ばれて来た。神殿の境内に入る人に施しを乞うため、毎日「美しい門」という神殿の門のそばに置い てもらっていたのである。
3:彼はペトロとヨハネが境内に入ろうとするのを見て、施しを乞うた。
4:ペトロはヨハネと一緒に彼をじっと見て、「わたしたちを見なさい」と言った。
5:その男が、何かもらえると思って二人を見つめていると、
6:ペトロは言った。「わたしには金や銀はないが、持っているものをあげよう。ナザレの人イエス・キリストの名によって立ち上がり、歩きなさ い。」
7:そして、右手を取って彼を立ち上がらせた。すると、たちまち、その男は足やくるぶしがしっかりして、
8:躍り上がって立ち、歩きだした。そして、歩き回ったり躍ったりして神を賛美し、二人と一緒に境内に入って行った。
9:民衆は皆、彼が歩き回り、神を賛美しているのを見た。
10:彼らは、それが神殿の「美しい門」のそばに座って施しを乞うていた者だと気づき、その身に起こったことに我を忘れるほど驚いた。
 
◆ペトロ、神殿で説教する
11:さて、その男がペトロとヨハネに付きまとっていると、民衆は皆非常に驚いて、「ソロモンの回廊」と呼ばれる所にいる彼らの方へ、一斉に 集まって来た。
12:これを見たペトロは、民衆に言った。「イスラエルの人たち、なぜこのことに驚くのですか。また、わたしたちがまるで自分の力や信心に よって、この人を歩かせたかのように、なぜ、わたしたちを見つめるのですか。
13:アブラハムの神、イサクの神、ヤコブの神、わたしたちの先祖の神は、その僕イエスに栄光をお与えになりました。ところが、あなたがたは このイエスを引き渡し、ピラトが釈放しようと決めていたのに、その面前でこの方を拒みました。
14:聖なる正しい方を拒んで、人殺しの男を赦すように要求したのです。
15:あなたがたは、命への導き手である方を殺してしまいましたが、神はこの方を死者の中から復活させてくださいました。わたしたちは、この ことの証人です。
16:あなたがたの見て知っているこの人を、イエスの名が強くしました。それは、その名を信じる信仰によるものです。イエスによる信仰が、あ なたがた一同の前でこの人を完全にいやしたのです。
17:ところで、兄弟たち、あなたがたがあんなことをしてしまったのは、指導者たちと同様に無知のためであったと、わたしには分かっていま す。
18:しかし、神はすべての預言者の口を通して予告しておられたメシアの苦しみを、この/ようにして実現なさったのです。
19:だから、自分の罪が消し去られるように、悔い改めて立ち帰りなさい。
20:こうして、主のもとから慰めの時が訪れ、主はあなたがたのために前もって決めておられた、メシアであるイエスを遣わしてくださるので す。
21:このイエスは、神が聖なる預言者たちの口を通して昔から語られた、万物が新しくなるその時まで、必ず天にとどまることになっています。
22:モーセは言いました。『あなたがたの神である主は、あなたがたの同胞の中から、わたしのような預言者をあなたがたのために立てられる。 彼が語りかけることには、何でも聞き従え。
23:この預言者に耳を傾けない者は皆、民の中から滅ぼし絶やされる。』
24:預言者は皆、サムエルをはじめその後に預言した者も、今の時について告げています。
25:あなたがたは預言者の子孫であり、神があなたがたの先祖と結ばれた契約の子です。『地上のすべての民族は、あなたから生まれる者によっ て祝福を受ける』と、神はアブラハムに言われました。
26:それで、神は御自分の僕を立て、まず、あなたがたのもとに遣わしてくださったのです。それは、あなたがた一人一人を悪から離れさせ、そ の祝福にあずからせるためでした。」
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使徒言行録  第4章
 
◆ペトロとヨハネ、議会で取り調べを受ける
1:ペトロとヨハネが民衆に話をしていると、祭司たち、神殿守衛長、サドカイ派の人々が近づいて来た。
2:二人が民衆に教え、イエスに起こった死者の中からの復活を宣べ伝えているので、彼らはいらだち、
3:二人を捕らえて翌日まで牢に入れた。既に日暮れだったからである。
4:しかし、二人の語った言葉を聞いて信じた人は多く、男の数が五千人ほどになった。
5:次の日、議員、長老、律法学者たちがエルサレムに集まった。
6:大祭司アンナスとカイアファとヨハネとアレクサンドロと大祭司一族が集まった。
7:そして、使徒たちを真ん中に立たせて、「お前たちは何の権威によって、だれの名によってああいうことをしたのか」と尋問した。
8:そのとき、ペトロは聖霊に満たされて言った。「民の議員、また長老の方々、
9:今日わたしたちが取り調べを受けているのは、病人に対する善い行いと、その人が何によっていやされたかということについてであるならば、
10:あなたがたもイスラエルの民全体も知っていただきたい。この人が良くなって、皆さんの前に立っているのは、あなたがたが十字架につけて 殺し、神が死者の中から復活させられたあのナザレの人、イエス・キリストの名によるものです。
11:この方こそ、/『あなたがた家を建てる者に捨てられたが、/隅の親石となった石』/です。
12:ほかのだれによっても、救いは得られません。わたしたちが救われるべき名は、天下にこの名のほか、人間には与えられていないのです。」
13:議員や他の者たちは、ペトロとヨハネの大胆な態度を見、しかも二人が無学な普通の人であることを知って驚き、また、イエスと一緒にいた 者であるということも分かった。
14:しかし、足をいやしていただいた人がそばに立っているのを見ては、ひと言も言い返せなかった。
15:そこで、二人に議場を去るように命じてから、相談して、
16:言った。「あの者たちをどうしたらよいだろう。彼らが行った目覚ましいしるしは、エルサレムに住むすべての人に知れ渡っており、それを 否定することはできない。
17:しかし、このことがこれ以上民衆の間に広まらないように、今後あの名によってだれにも話すなと脅しておこう。」
18:そして、二人を呼び戻し、決してイエスの名によって話したり、教えたりしないようにと命令した。
19:しかし、ペトロとヨハネは答えた。「神に従わないであなたがたに従うことが、神の前に正しいかどうか、考えてください。
20:わたしたちは、見たことや聞いたことを話さないではいられないのです。」
21:議員や他の者たちは、二人を更に脅してから釈放した。皆の者がこの出来事について神を賛美していたので、民衆を恐れて、どう処罰してよ いか分からなかったからである。
22:このしるしによっていやしていただいた人は、四十歳を過ぎていた。
 
◆信者たちの祈り
23:さて二人は、釈放されると仲間のところへ行き、祭司長たちや長老たちの言ったことを残らず話した。
24:これを聞いた人たちは心を一つにし、神に向かって声をあげて言った。「主よ、あなたは天と地と海と、そして、そこにあるすべてのものを 造られた方です。
25:あなたの僕であり、また、わたしたちの父であるダビデの口を通し、あなたは聖霊によってこうお告げになりました。『なぜ、異邦人は騒ぎ 立ち、/諸国の民はむなしいことを企てるのか。
26:地上の王たちはこぞって立ち上がり、/指導者たちは団結して、/主とそのメシアに逆らう。』
27:事実、この都でヘロデとポンティオ・ピラトは、異邦人やイスラエルの民と一緒になって、あなたが油を注がれた聖なる僕イエスに逆らいま した。
28:そして、実現するようにと御手と御心によってあらかじめ定められていたことを、すべて行ったのです。
29:主よ、今こそ彼らの脅しに目を留め、あなたの僕たちが、思い切って大胆に御言葉を語ることができるようにしてください。
30:どうか、御手を伸ばし聖なる僕イエスの名によって、病気がいやされ、しるしと不思議な業が行われるようにしてください。」
31:祈りが終わると、一同の集まっていた場所が揺れ動き、皆、聖霊に満たされて、大胆に神の言葉を語りだした。
 
◆持ち物を共有する
32:信じた人々の群れは心も思いも一つにし、一人として持ち物を自分のものだと言う者はなく、すべてを共有していた。
33:使徒たちは、大いなる力をもって主イエスの復活を証しし、皆、人々から非常に好意を持たれていた。
34:信者の中には、一人も貧しい人がいなかった。土地や家を持っている人が皆、それを売っては代金を持ち寄り、
35:使徒たちの足もとに置き、その金は必要に応じて、おのおのに分配されたからである。
36:たとえば、レビ族の人で、使徒たちからバルナバ――「慰めの子」という意味――と呼ばれていた、キプロス島生まれのヨセフも、
37:持っていた畑を売り、その代金を持って来て使徒たちの足もとに置いた。

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使徒言行録 第5章

◆アナニアとサフィラ
1:ところが、アナニアという男は、妻のサフィラと相談して土地を売り、
2:妻も承知のうえで、代金をごまかし、その一部を持って来て使徒たちの足もとに置いた。
3:すると、ペトロは言った。「アナニア、なぜ、あなたはサタンに心を奪われ、聖霊を欺いて、土地の代金をごまかしたのか。
4:売らないでおけば、あなたのものだったし、また、売っても、その代金は自分の思いどおりになったのではないか。どうして、こんなことをす る気になったのか。あなたは人間を欺いたのではなく、神を欺いたのだ。」
5:この言葉を聞くと、アナニアは倒れて息が絶えた。そのことを耳にした人々は皆、非常に恐れた。
6:若者たちが立ち上がって死体を包み、運び出して葬った。
7:それから三時間ほどたって、アナニアの妻がこの出来事を知らずに入って来た。
8:ペトロは彼女に話しかけた。「あなたたちは、あの土地をこれこれの値段で売ったのか。言いなさい。」彼女は、「はい、その値段です」と 言った。
9:ペトロは言った。「二人で示し合わせて、主の霊を試すとは、何としたことか。見なさい。あなたの夫を葬りに行った人たちが、もう入り口ま で来ている。今度はあなたを担ぎ出すだろう。」
10:すると、彼女はたちまちペトロの足もとに倒れ、息が絶えた。青年たちは入って来て、彼女の死んでいるのを見ると、運び出し、夫のそばに 葬った。
11:教会全体とこれを聞いた人は皆、非常に恐れた。
 
◆使徒たち、多くの奇跡を行う
12:使徒たちの手によって、多くのしるしと不思議な業とが民衆の間で行われた。一同は心を一つにしてソロモンの回廊に集まっていたが、
13:ほかの者はだれ一人、あえて仲間に加わろうとはしなかった。しかし、民衆は彼らを称賛していた。
14:そして、多くの男女が主を信じ、その数はますます増えていった。
15:人々は病人を大通りに運び出し、担架や床に寝かせた。ペトロが通りかかるとき、せめてその影だけでも病人のだれかにかかるようにした。
16:また、エルサレム付近の町からも、群衆が病人や汚れた霊に悩まされている人々を連れて集まって来たが、一人残らずいやしてもらった。
 
◆使徒たちに対する迫害
17:そこで、大祭司とその仲間のサドカイ派の人々は皆立ち上がり、ねたみに燃えて、
18:使徒たちを捕らえて公の牢に入れた。
19:ところが、夜中に主の天使が牢の戸を開け、彼らを外に連れ出し、
20:「行って神殿の境内に立ち、この命の言葉を残らず民衆に告げなさい」と言った。
21:これを聞いた使徒たちは、夜明けごろ境内に入って教え始めた。一方、大祭司とその仲間が集まり、最高法院、すなわちイスラエルの子らの 長老会全体を召集し、使徒たちを引き出すために、人を牢に差し向けた。
22:下役たちが行ってみると、使徒たちは牢にいなかった。彼らは戻って来て報告した。
23:「牢にはしっかり鍵がかかっていたうえに、戸の前には番兵が立っていました。ところが、開けてみると、中にはだれもいませんでした。」
24:この報告を聞いた神殿守衛長と祭司長たちは、どうなることかと、使徒たちのことで思い惑った。
25:そのとき、人が来て、「御覧ください。あなたがたが牢に入れた者たちが、境内にいて民衆に教えています」と告げた。
26:そこで、守衛長は下役を率いて出て行き、使徒たちを引き立てて来た。しかし、民衆に石を投げつけられるのを恐れて、手荒なことはしな かった。
27:彼らが使徒たちを引いて来て最高法院の中に立たせると、大祭司が尋問した。
28:「あの名によって教えてはならないと、厳しく命じておいたではないか。それなのに、お前たちはエルサレム中に自分の教えを広め、あの男 の血を流した責任を我々に負わせようとしている。」
29:ペトロとほかの使徒たちは答えた。「人間に従うよりも、神に従わなくてはなりません。
30:わたしたちの先祖の神は、あなたがたが木につけて殺したイエスを復活させられました。
31:神はイスラエルを悔い改めさせ、その罪を赦すために、この方を導き手とし、救い主として、御自分の右に上げられました。
32:わたしたちはこの事実の証人であり、また、神が御自分に従う人々にお与えになった聖霊も、このことを証ししておられます。」
33:これを聞いた者たちは激しく怒り、使徒たちを殺そうと考えた。
34:ところが、民衆全体から尊敬されている律法の教師で、ファリサイ派に属するガマリエルという人が、議場に立って、使徒たちをしばらく外 に出すように命じ、
35:それから、議員たちにこう言った。「イスラエルの人たち、あの者たちの取り扱いは慎重にしなさい。
36:以前にもテウダが、自分を何か偉い者のように言って立ち上がり、その数四百人くらいの男が彼に従ったことがあった。彼は殺され、従って いた者は皆散らされて、跡形もなくなった。
37:その後、住民登録の時、ガリラヤのユダが立ち上がり、民衆を率いて反乱を起こしたが、彼も滅び、つき従った者も皆、ちりぢりにさせられ た。
38:そこで今、申し上げたい。あの者たちから手を引きなさい。ほうっておくがよい。あの計画や行動が人間から出たものなら、自滅するだろう し、
39:神から出たものであれば、彼らを滅ぼすことはできない。もしかしたら、諸君は神に逆らう者となるかもしれないのだ。」一同はこの意見に 従い、
40:使徒たちを呼び入れて鞭で打ち、イエスの名によって話してはならないと命じたうえ、釈放した。
41:それで使徒たちは、イエスの名のために辱めを受けるほどの者にされたことを喜び、最高法院から出て行き、
42:毎日、神殿の境内や家々で絶えず教え、メシア・イエスについて福音を告げ知らせていた。
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使徒言行録 第6章
 
◆ステファノたち七人の選出
1:そのころ、弟子の数が増えてきて、ギリシア語を話すユダヤ人から、ヘブライ語を話すユダヤ人に対して苦情が出た。それは、日々の分配のことで、仲間のやもめたちが軽んじられていたからである。
2:そこで、十二人は弟子をすべて呼び集めて言った。「わたしたちが、神の言葉をないがしろにして、食事の世話をするのは好ましくない。
3:それで、兄弟たち、あなたがたの中から、“霊”と知恵に満ちた評判の良い人を七人選びなさい。彼らにその仕事を任せよう。
4:わたしたちは、祈りと御言葉の奉仕に専念することにします。」
5:一同はこの提案に賛成し、信仰と聖霊に満ちている人ステファノと、ほかにフィリポ、プロコロ、ニカノル、ティモン、パルメナ、アンティオキア出身の改宗者ニコラオを選んで、
6:使徒たちの前に立たせた。使徒たちは、祈って彼らの上に手を置いた。
7:こうして、神の言葉はますます広まり、弟子の数はエルサレムで非常に増えていき、祭司も大勢この信仰に入った。
 
◆ステファノの逮捕
8:さて、ステファノは恵みと力に満ち、すばらしい不思議な業としるしを民衆の間で行っていた。
9:ところが、キレネとアレクサンドリアの出身者で、いわゆる「解放された奴隷の会堂」に属する人々、またキリキア州とアジア州出身の人々などのある者たちが立ち上がり、ステファノと議論した。
10:しかし、彼が知恵と“霊”とによって語るので、歯が立たなかった。
11:そこで、彼らは人々を唆して、「わたしたちは、あの男がモーセと神を冒涜する言葉を吐くのを聞いた」と言わせた。
12:また、民衆、長老たち、律法学者たちを扇動して、ステファノを襲って捕らえ、最高法院に引いて行った。
13:そして、偽証人を立てて、次のように訴えさせた。「この男は、この聖なる場所と律法をけなして、一向にやめようとしません。
14:わたしたちは、彼がこう言っているのを聞いています。『あのナザレの人イエスは、この場所を破壊し、モーセが我々に伝えた慣習を変えるだろう。』」
15:最高法院の席に着いていた者は皆、ステファノに注目したが、その顔はさながら天使の顔のように見えた。
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使徒言行録 第7章

◆ステファノの説教

1:大祭司が、「訴えのとおりか」と尋ねた。
2:そこで、ステファノは言った。「兄弟であり父である皆さん、聞いてください。わたしたちの父アブラハムがメソポタミアにいて、まだハランに住んでいなかったとき、栄光の神が現れ、
3:『あなたの土地と親族を離れ、わたしが示す土地に行け』と言われました。
4:それで、アブラハムはカルデア人の土地を出て、ハランに住みました。神はアブラハムを、彼の父が死んだ後、ハランから今あなたがたの住んでいる土地にお移しになりましたが、
5:そこでは財産を何もお与えになりませんでした、一歩の幅の土地さえも。しかし、そのとき、まだ子供のいなかったアブラハムに対して、『いつかその土地を所有地として与え、死後には子孫たちに相続させる』と約束なさったのです。
6:神はこう言われました。『彼の子孫は、外国に移住し、四百年の間、奴隷にされて虐げられる。』
7:更に、神は言われました。『彼らを奴隷にする国民は、わたしが裁く。その後、彼らはその国から脱出し、この場所でわたしを礼拝する。』
8:そして、神はアブラハムと割礼による契約を結ばれました。こうして、アブラハムはイサクをもうけて八日目に割礼を施し、イサクはヤコブを、ヤコブは十二人の族長をもうけて、それぞれ割礼を施したのです。
9:この族長たちはヨセフをねたんで、エジプトへ売ってしまいました。しかし、神はヨセフを離れず、
10:あらゆる苦難から助け出して、エジプト王ファラオのもとで恵みと知恵をお授けになりました。そしてファラオは、彼をエジプトと王の家全体とをつかさどる大臣に任命したのです。
11:ところが、エジプトとカナンの全土に飢饉が起こり、大きな苦難が襲い、わたしたちの先祖は食糧を手に入れることができなくなりました。
12:ヤコブはエジプトに穀物があると聞いて、まずわたしたちの先祖をそこへ行かせました。
13:二度目のとき、ヨセフは兄弟たちに自分の身の上を明かし、ファラオもヨセフの一族のことを知りました。
14:そこで、ヨセフは人を遣わして、父ヤコブと七十五人の親族一同を呼び寄せました。
15:ヤコブはエジプトに下って行き、やがて彼もわたしたちの先祖も死んで、
16:シケムに移され、かつてアブラハムがシケムでハモルの子らから、幾らかの金で買っておいた墓に葬られました。
17:神がアブラハムになさった約束の実現する時が近づくにつれ、民は増え、エジプト中に広がりました。
18:それは、ヨセフのことを知らない別の王が、エジプトの支配者となるまでのことでした。
19:この王は、わたしたちの同胞を欺き、先祖を虐待して乳飲み子を捨てさせ、生かしておかないようにしました。
20:このときに、モーセが生まれたのです。神の目に適った美しい子で、三か月の間、父の家で育てられ、
21:その後、捨てられたのをファラオの王女が拾い上げ、自分の子として育てたのです。
22:そして、モーセはエジプト人のあらゆる教育を受け、すばらしい話や行いをする者になりました。
23:四十歳になったとき、モーセは兄弟であるイスラエルの子らを助けようと思い立ちました。
24:それで、彼らの一人が虐待されているのを見て助け、相手のエジプト人を打ち殺し、ひどい目に遭っていた人のあだを討ったのです。
25:モーセは、自分の手を通して神が兄弟たちを救おうとしておられることを、彼らが理解してくれると思いました。しかし、理解してくれませんでした。
26:次の日、モーセはイスラエル人が互いに争っているところに来合わせたので、仲直りをさせようとして言いました。『君たち、兄弟どうしではないか。なぜ、傷つけ合うのだ。』
27:すると、仲間を痛めつけていた男は、モーセを突き飛ばして言いました。『だれが、お前を我々の指導者や裁判官にしたのか。
28:きのうエジプト人を殺したように、わたしを殺そうとするのか。』
29:モーセはこの言葉を聞いて、逃げ出し、そして、ミディアン地方に身を寄せている間に、二人の男の子をもうけました。
30:四十年たったとき、シナイ山に近い荒れ野において、柴の燃える炎の中で、天使がモーセの前に現れました。
31:モーセは、この光景を見て驚きました。もっとよく見ようとして近づくと、主の声が聞こえました。
32:『わたしは、あなたの先祖の神、アブラハム、イサク、ヤコブの神である』と。モーセは恐れおののいて、それ以上見ようとはしませんでした。
33:そのとき、主はこう仰せになりました。『履物を脱げ。あなたの立っている所は聖なる土地である。
34:わたしは、エジプトにいるわたしの民の不幸を確かに見届け、また、その嘆きを聞いたので、彼らを救うために降って来た。さあ、今あなたをエジプトに遣わそう。』
35:人々が、『だれが、お前を指導者や裁判官にしたのか』と言って拒んだこのモーセを、神は柴の中に現れた天使の手を通して、指導者また解放者としてお遣わしになったのです。
36:この人がエジプトの地でも紅海でも、また四十年の間、荒れ野でも、不思議な業としるしを行って人々を導き出しました。
37:このモーセがまた、イスラエルの子らにこう言いました。『神は、あなたがたの兄弟の中から、わたしのような預言者をあなたがたのために立てられる。』
38:この人が荒れ野の集会において、シナイ山で彼に語りかけた天使とわたしたちの先祖との間に立って、命の言葉を受け、わたしたちに伝えてくれたのです。
39:けれども、先祖たちはこの人に従おうとせず、彼を退け、エジプトをなつかしく思い、
40:アロンに言いました。『わたしたちの先に立って導いてくれる神々を造ってください。エジプトの地から導き出してくれたあのモーセの身の上に、何が起こったのか分からないからです。』
41:彼らが若い雄牛の像を造ったのはそのころで、この偶像にいけにえを献げ、自分たちの手で造ったものをまつって楽しんでいました。
42:そこで神は顔を背け、彼らが天の星を拝むままにしておかれました。それは預言者の書にこう書いてあるとおりです。『イスラエルの家よ、/お前たちは荒れ野にいた四十年の間、/わたしにいけにえと供え物を/献げたことがあったか。
43:お前たちは拝むために造った偶像、/モレクの御輿やお前たちの神ライファンの星を/担ぎ回ったのだ。だから、わたしはお前たちを/バビロンのかなたへ移住させる。』
44:わたしたちの先祖には、荒れ野に証しの幕屋がありました。これは、見たままの形に造るようにとモーセに言われた方のお命じになったとおりのものでした。
45:この幕屋は、それを受け継いだ先祖たちが、ヨシュアに導かれ、目の前から神が追い払ってくださった異邦人の土地を占領するとき、運び込んだもので、ダビデの時代までそこにありました。
46:ダビデは神の御心に適い、ヤコブの家のために神の住まいが欲しいと願っていましたが、
47:神のために家を建てたのはソロモンでした。
48:けれども、いと高き方は人の手で造ったようなものにはお住みになりません。これは、預言者も言っているとおりです。
49:『主は言われる。「天はわたしの王座、/地はわたしの足台。お前たちは、わたしに/どんな家を建ててくれると言うのか。わたしの憩う場所はどこにあるのか。
50:これらはすべて、/わたしの手が造ったものではないか。」』
51:かたくなで、心と耳に割礼を受けていない人たち、あなたがたは、いつも聖霊に逆らっています。あなたがたの先祖が逆らったように、あなたがたもそうしているのです。
52:いったい、あなたがたの先祖が迫害しなかった預言者が、一人でもいたでしょうか。彼らは、正しい方が来られることを預言した人々を殺しました。そして今や、あなたがたがその方を裏切る者、殺す者となった。
53:天使たちを通して律法を受けた者なのに、それを守りませんでした。」
◆ステファノの殉教
54:人々はこれを聞いて激しく怒り、ステファノに向かって歯ぎしりした。
55:ステファノは聖霊に満たされ、天を見つめ、神の栄光と神の右に立っておられるイエスとを見て、
56:「天が開いて、人の子が神の右に立っておられるのが見える」と言った。
57:人々は大声で叫びながら耳を手でふさぎ、ステファノ目がけて一斉に襲いかかり、
58:都の外に引きずり出して石を投げ始めた。証人たちは、自分の着ている物をサウロという若者の足もとに置いた。
59:人々が石を投げつけている間、ステファノは主に呼びかけて、「主イエスよ、わたしの霊をお受けください」と言った。
60:それから、ひざまずいて、「主よ、この罪を彼らに負わせないでください」と大声で叫んだ。ステファノはこう言って、眠りについた。
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使徒言行録 第8章
 
1:サウロは、ステファノの殺害に賛成していた。
 
◆エルサレムの教会に対する迫害:その日、エルサレムの教会に対して大迫害が起こり、使徒たちのほかは皆、ユダヤとサマリアの地方に散って行った。
2:しかし、信仰深い人々がステファノを葬り、彼のことを思って大変悲しんだ。
3:一方、サウロは家から家へと押し入って教会を荒らし、男女を問わず引き出して牢に送っていた。
 
◆サマリアで福音が告げ知らされる
4:さて、散って行った人々は、福音を告げ知らせながら巡り歩いた。
5:フィリポはサマリアの町に下って、人々にキリストを宣べ伝えた。
6:群衆は、フィリポの行うしるしを見聞きしていたので、こぞってその話に聞き入った。
7:実際、汚れた霊に取りつかれた多くの人たちからは、その霊が大声で叫びながら出て行き、多くの中風患者や足の不自由な人もいやしてもらった。
8:町の人々は大変喜んだ。
9:ところで、この町に以前からシモンという人がいて、魔術を使ってサマリアの人々を驚かせ、偉大な人物と自称していた。
10:それで、小さな者から大きな者に至るまで皆、「この人こそ偉大なものといわれる神の力だ」と言って注目していた。
11:人々が彼に注目したのは、長い間その魔術に心を奪われていたからである。
12:しかし、フィリポが神の国とイエス・キリストの名について福音を告げ知らせるのを人々は信じ、男も女も洗礼を受けた。
13:シモン自身も信じて洗礼を受け、いつもフィリポにつき従い、すばらしいしるしと奇跡が行われるのを見て驚いていた。
14:エルサレムにいた使徒たちは、サマリアの人々が神の言葉を受け入れたと聞き、ペトロとヨハネをそこへ行かせた。
15:二人はサマリアに下って行き、聖霊を受けるようにとその人々のために祈った。
16:人々は主イエスの名によって洗礼を受けていただけで、聖霊はまだだれの上にも降っていなかったからである。
17:ペトロとヨハネが人々の上に手を置くと、彼らは聖霊を受けた。
18:シモンは、使徒たちが手を置くことで、“霊”が与えられるのを見、金を持って来て、
19:言った。「わたしが手を置けば、だれでも聖霊が受けられるように、わたしにもその力を授けてください。」
20:すると、ペトロは言った。「この金は、お前と一緒に滅びてしまうがよい。神の賜物を金で手に入れられると思っているからだ。
21:お前はこのことに何のかかわりもなければ、権利もない。お前の心が神の前に正しくないからだ。
22:この悪事を悔い改め、主に祈れ。そのような心の思いでも、赦していただけるかもしれないからだ。
23:お前は腹黒い者であり、悪の縄目に縛られていることが、わたしには分かっている。」
24:シモンは答えた。「おっしゃったことが何一つわたしの身に起こらないように、主に祈ってください。」
25:このように、ペトロとヨハネは、主の言葉を力強く証しして語った後、サマリアの多くの村で福音を告げ知らせて、エルサレムに帰って行った。
 
◆フィリポとエチオピアの高官
26:さて、主の天使はフィリポに、「ここをたって南に向かい、エルサレムからガザへ下る道に行け」と言った。そこは寂しい道である。
27:フィリポはすぐ出かけて行った。折から、エチオピアの女王カンダケの高官で、女王の全財産の管理をしていたエチオピア人の宦官が、エルサレムに礼拝に来て、
28:帰る途中であった。彼は、馬車に乗って預言者イザヤの書を朗読していた。
29:すると、“霊”がフィリポに、「追いかけて、あの馬車と一緒に行け」と言った。
30:フィリポが走り寄ると、預言者イザヤの書を朗読しているのが聞こえたので、「読んでいることがお分かりになりますか」と言った。
31:宦官は、「手引きしてくれる人がなければ、どうして分かりましょう」と言い、馬車に乗ってそばに座るようにフィリポに頼んだ。
32:彼が朗読していた聖書の個所はこれである。「彼は、羊のように屠り場に引かれて行った。毛を刈る者の前で黙している小羊のように、/口を開かない。
33:卑しめられて、その裁きも行われなかった。だれが、その子孫について語れるだろう。彼の命は地上から取り去られるからだ。」
34:宦官はフィリポに言った。「どうぞ教えてください。預言者は、だれについてこう言っているのでしょうか。自分についてですか。だれかほかの人についてですか。」
35:そこで、フィリポは口を開き、聖書のこの個所から説きおこして、イエスについて福音を告げ知らせた。
36:道を進んで行くうちに、彼らは水のある所に来た。宦官は言った。「ここに水があります。洗礼を受けるのに、何か妨げがあるでしょうか。」
37>:フィリポが、「真心から信じておられるなら、差し支えありません」と言うと、宦官は、「イエス・キリストは神の子であると信じます」と答えた。  (底本に節が欠けている個所の異本による訳文)
38:そして、車を止めさせた。フィリポと宦官は二人とも水の中に入って行き、フィリポは宦官に洗礼を授けた。
39:彼らが水の中から上がると、主の霊がフィリポを連れ去った。宦官はもはやフィリポの姿を見なかったが、喜びにあふれて旅を続けた。
40:フィリポはアゾトに姿を現した。そして、すべての町を巡りながら福音を告げ知らせ、カイサリアまで行った。 

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使徒言行録 第9章
 
◆サウロの回心
1:さて、サウロはなおも主の弟子たちを脅迫し、殺そうと意気込んで、大祭司のところへ行き、
2:ダマスコの諸会堂あての手紙を求めた。それは、この道に従う者を見つけ出したら、男女を問わず縛り上げ、エルサレムに連行するためであった。
3:ところが、サウロが旅をしてダマスコに近づいたとき、突然、天からの光が彼の周りを照らした。
4:サウロは地に倒れ、「サウル、サウル、なぜ、わたしを迫害するのか」と呼びかける声を聞いた。
5:「主よ、あなたはどなたですか」と言うと、答えがあった。「わたしは、あなたが迫害しているイエスである。
6:起きて町に入れ。そうすれば、あなたのなすべきことが知らされる。」
7:同行していた人たちは、声は聞こえても、だれの姿も見えないので、ものも言えず立っていた。
8:サウロは地面から起き上がって、目を開けたが、何も見えなかった。人々は彼の手を引いてダマスコに連れて行った。
9:サウロは三日間、目が見えず、食べも飲みもしなかった。
10:ところで、ダマスコにアナニアという弟子がいた。幻の中で主が、「アナニア」と呼びかけると、アナニアは、「主よ、ここにおります」と言った。
11:すると、主は言われた。「立って、『直線通り』と呼ばれる通りへ行き、ユダの家にいるサウロという名の、タルソス出身の者を訪ねよ。今、彼は祈っている。
12:アナニアという人が入って来て自分の上に手を置き、元どおり目が見えるようにしてくれるのを、幻で見たのだ。」
13:しかし、アナニアは答えた。「主よ、わたしは、その人がエルサレムで、あなたの聖なる者たちに対してどんな悪事を働いたか、大勢の人から聞きました。
14:ここでも、御名を呼び求める人をすべて捕らえるため、祭司長たちから権限を受けています。」
15:すると、主は言われた。「行け。あの者は、異邦人や王たち、またイスラエルの子らにわたしの名を伝えるために、わたしが選んだ器である。
16:わたしの名のためにどんなに苦しまなくてはならないかを、わたしは彼に示そう。」
17:そこで、アナニアは出かけて行ってユダの家に入り、サウロの上に手を置いて言った。「兄弟サウル、あなたがここへ来る途中に現れてくださった主イエスは、あなたが元どおり目が見えるようになり、また、聖霊で満たされるようにと、わたしをお遣わしになったのです。」
18:すると、たちまち目からうろこのようなものが落ち、サウロは元どおり見えるようになった。そこで、身を起こして洗礼を受け、
19:食事をして元気を取り戻した。
 
◆サウロ、ダマスコで福音を告げ知らせる
:サウロは数日の間、ダマスコの弟子たちと一緒にいて、
20:すぐあちこちの会堂で、「この人こそ神の子である」と、イエスのことを宣べ伝えた。
21:これを聞いた人々は皆、非常に驚いて言った。「あれは、エルサレムでこの名を呼び求める者たちを滅ぼしていた男ではないか。また、ここへやって来たのも、彼らを縛り上げ、祭司長たちのところへ連行するためではなかったか。」
22:しかし、サウロはますます力を得て、イエスがメシアであることを論証し、ダマスコに住んでいるユダヤ人をうろたえさせた。
 
◆サウロ、命をねらう者たちの手から逃れる
23:かなりの日数がたって、ユダヤ人はサウロを殺そうとたくらんだが、
24:この陰謀はサウロの知るところとなった。しかし、ユダヤ人は彼を殺そうと、昼も夜も町の門で見張っていた。
25:そこで、サウロの弟子たちは、夜の間に彼を連れ出し、籠に乗せて町の城壁づたいにつり降ろした。
 
◆サウロ、エルサレムで使徒たちと会う
26:サウロはエルサレムに着き、弟子の仲間に加わろうとしたが、皆は彼を弟子だとは信じないで恐れた。
27:しかしバルナバは、サウロを連れて使徒たちのところへ案内し、サウロが旅の途中で主に出会い、主に語りかけられ、ダマスコでイエスの名によって大胆に宣教した次第を説明した。
28:それで、サウロはエルサレムで使徒たちと自由に行き来し、主の名によって恐れずに教えるようになった。
29:また、ギリシア語を話すユダヤ人と語り、議論もしたが、彼らはサウロを殺そうとねらっていた。
30:それを知った兄弟たちは、サウロを連れてカイサリアに下り、そこからタルソスへ出発させた。
31:こうして、教会はユダヤ、ガリラヤ、サマリアの全地方で平和を保ち、主を畏れ、聖霊の慰めを受け、基礎が固まって発展し、信者の数が増えていった。
 
◆ペトロ、アイネアをいやす
32:ペトロは方々を巡り歩き、リダに住んでいる聖なる者たちのところへも下って行った。
33:そしてそこで、中風で八年前から床についていたアイネアという人に会った。
34:ペトロが、「アイネア、イエス・キリストがいやしてくださる。起きなさい。自分で床を整えなさい」と言うと、アイネアはすぐ起き上がった。
35:リダとシャロンに住む人は皆アイネアを見て、主に立ち帰った。
 
◆ペトロ、タビタを生き返らせる
36:ヤッファにタビタ――訳して言えばドルカス、すなわち「かもしか」――と呼ばれる婦人の弟子がいた。彼女はたくさんの善い行いや施しをしていた。
37:ところが、そのころ病気になって死んだので、人々は遺体を清めて階上の部屋に安置した。
38:リダはヤッファに近かったので、弟子たちはペトロがリダにいると聞いて、二人の人を送り、「急いでわたしたちのところへ来てください」と頼んだ。
39:ペトロはそこをたって、その二人と一緒に出かけた。人々はペトロが到着すると、階上の部屋に案内した。やもめたちは皆そばに寄って来て、泣きながら、ドルカスが一緒にいたときに作ってくれた数々の下着や上着を見せた。
40:ペトロが皆を外に出し、ひざまずいて祈り、遺体に向かって、「タビタ、起きなさい」と言うと、彼女は目を開き、ペトロを見て起き上がった。
41:ペトロは彼女に手を貸して立たせた。そして、聖なる者たちとやもめたちを呼び、生き返ったタビタを見せた。
42:このことはヤッファ中に知れ渡り、多くの人が主を信じた。
43:ペトロはしばらくの間、ヤッファで革なめし職人のシモンという人の家に滞在した。

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使徒言行録 第10章

◆コルネリウス、カイサリアで幻を見る
1:さて、カイサリアにコルネリウスという人がいた。「イタリア隊」と呼ばれる部隊の百人隊長で、
2:信仰心あつく、一家そろって神を畏れ、民に多くの施しをし、絶えず神に祈っていた。
3:ある日の午後三時ごろ、コルネリウスは、神の天使が入って来て「コルネリウス」と呼びかけるのを、幻ではっきりと見た。
4:彼は天使を見つめていたが、怖くなって、「主よ、何でしょうか」と言った。すると、天使は言った。「あなたの祈りと施しは、神の前に届き、覚えられた。
5:今、ヤッファへ人を送って、ペトロと呼ばれるシモンを招きなさい。
6:その人は、革なめし職人シモンという人の客になっている。シモンの家は海岸にある。」
7:天使がこう話して立ち去ると、コルネリウスは二人の召し使いと、側近の部下で信仰心のあつい一人の兵士とを呼び、
8:すべてのことを話してヤッファに送った。
 
◆ペトロ、ヤッファで幻を見る
9:翌日、この三人が旅をしてヤッファの町に近づいたころ、ペトロは祈るため屋上に上がった。昼の十二時ごろである。
10:彼は空腹を覚え、何か食べたいと思った。人々が食事の準備をしているうちに、ペトロは我を忘れたようになり、
11:天が開き、大きな布のような入れ物が、四隅でつるされて、地上に下りて来るのを見た。
12:その中には、あらゆる獣、地を這うもの、空の鳥が入っていた。
13:そして、「ペトロよ、身を起こし、屠って食べなさい」と言う声がした。
14:しかし、ペトロは言った。「主よ、とんでもないことです。清くない物、汚れた物は何一つ食べたことがありません。」
15:すると、また声が聞こえてきた。「神が清めた物を、清くないなどと、あなたは言ってはならない。」
16:こういうことが三度あり、その入れ物は急に天に引き上げられた。
17:ペトロが、今見た幻はいったい何だろうかと、ひとりで思案に暮れていると、コルネリウスから差し向けられた人々が、シモンの家を探し当てて門口に立ち、
18:声をかけて、「ペトロと呼ばれるシモンという方が、ここに泊まっておられますか」と尋ねた。
19:ペトロがなおも幻について考え込んでいると、“霊”がこう言った。「三人の者があなたを探しに来ている。
20:立って下に行き、ためらわないで一緒に出発しなさい。わたしがあの者たちをよこしたのだ。」
21:ペトロは、その人々のところへ降りて行って、「あなたがたが探しているのは、このわたしです。どうして、ここへ来られたのですか」と言った。
22:すると、彼らは言った。「百人隊長のコルネリウスは、正しい人で神を畏れ、すべてのユダヤ人に評判の良い人ですが、あなたを家に招いて話を聞くようにと、聖なる天使からお告げを受けたのです。」
23:それで、ペトロはその人たちを迎え入れ、泊まらせた。翌日、ペトロはそこをたち、彼らと出かけた。ヤッファの兄弟も何人か一緒に行った。
24:次の日、一行はカイサリアに到着した。コルネリウスは親類や親しい友人を呼び集めて待っていた。
25:ペトロが来ると、コルネリウスは迎えに出て、足もとにひれ伏して拝んだ。
26:ペトロは彼を起こして言った。「お立ちください。わたしもただの人間です。」
27:そして、話しながら家に入ってみると、大勢の人が集まっていたので、
28:彼らに言った。「あなたがたもご存じのとおり、ユダヤ人が外国人と交際したり、外国人を訪問したりすることは、律法で禁じられています。けれども、神はわたしに、どんな人をも清くない者とか、汚れている者とか言ってはならないと、お示しになりました。
29:それで、お招きを受けたとき、すぐ来たのです。お尋ねしますが、なぜ招いてくださったのですか。」
30:すると、コルネリウスが言った。「四日前の今ごろのことです。わたしが家で午後三時の祈りをしていますと、輝く服を着た人がわたしの前に立って、
31:言うのです。『コルネリウス、あなたの祈りは聞き入れられ、あなたの施しは神の前で覚えられた。
32:ヤッファに人を送って、ペトロと呼ばれるシモンを招きなさい。その人は、海岸にある革なめし職人シモンの家に泊まっている。』
33:それで、早速あなたのところに人を送ったのです。よくおいでくださいました。今わたしたちは皆、主があなたにお命じになったことを残らず聞こうとして、神の前にいるのです。」
 
◆ペトロ、コルネリウスの家で福音を告げる
34:そこで、ペトロは口を開きこう言った。「神は人を分け隔てなさらないことが、よく分かりました。
35:どんな国の人でも、神を畏れて正しいことを行う人は、神に受け入れられるのです。
36:神がイエス・キリストによって――この方こそ、すべての人の主です――平和を告げ知らせて、イスラエルの子らに送ってくださった御言葉を、
37:あなたがたはご存じでしょう。ヨハネが洗礼を宣べ伝えた後に、ガリラヤから始まってユダヤ全土に起きた出来事です。
38:つまり、ナザレのイエスのことです。神は、聖霊と力によってこの方を油注がれた者となさいました。イエスは、方々を巡り歩いて人々を助け、悪魔に苦しめられている人たちをすべていやされたのですが、それは、神が御一緒だったからです。
39:わたしたちは、イエスがユダヤ人の住む地方、特にエルサレムでなさったことすべての証人です。人々はイエスを木にかけて殺してしまいましたが、
40:神はこのイエスを三日目に復活させ、人々の前に現してくださいました。
41:しかし、それは民全体に対してではなく、前もって神に選ばれた証人、つまり、イエスが死者の中から復活した後、御一緒に食事をしたわたしたちに対してです。
42:そしてイエスは、御自分が生きている者と死んだ者との審判者として神から定められた者であることを、民に宣べ伝え、力強く証しするようにと、わたしたちにお命じになりました。
43:また預言者も皆、イエスについて、この方を信じる者はだれでもその名によって罪の赦しが受けられる、と証ししています。」
 
◆異邦人も聖霊を受ける
44:ペトロがこれらのことをなおも話し続けていると、御言葉を聞いている一同の上に聖霊が降った。
45:割礼を受けている信者で、ペトロと一緒に来た人は皆、聖霊の賜物が異邦人の上にも注がれるのを見て、大いに驚いた。
46:異邦人が異言を話し、また神を賛美しているのを、聞いたからである。そこでペトロは、
47:「わたしたちと同様に聖霊を受けたこの人たちが、水で洗礼を受けるのを、いったいだれが妨げることができますか」と言った。
48:そして、イエス・キリストの名によって洗礼を受けるようにと、その人たちに命じた。それから、コルネリウスたちは、ペトロになお数日滞在するようにと願った。

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使徒言行録 第11章

◆ペトロ、エルサレムの教会に報告する
1:さて、使徒たちとユダヤにいる兄弟たちは、異邦人も神の言葉を受 け入れたことを耳にした。
2:ペトロがエルサレムに上って来たとき、割礼を受けている者たちは 彼を非難して、
3:「あなたは割礼を受けていない者たちのところへ行き、一緒に食事 をした」と言った。
4:そこで、ペトロは事の次第を順序正しく説明し始めた。
5:「わたしがヤッファの町にいて祈っていると、我を忘れたようにな って幻を見ました。大きな布のような入れ物が、四隅でつるされて、 天からわたしのところまで下りて来たのです。
6:その中をよく見ると、地上の獣、野獣、這うもの、空の鳥などが入 っていました。
7:そして、『ペトロよ、身を起こし、屠って食べなさい』と言う声を 聞きましたが、
8:わたしは言いました。『主よ、とんでもないことです。清くない物、 汚れた物は口にしたことがありません。』
9:すると、『神が清めた物を、清くないなどと、あなたは言ってはな らない』と、再び天から声が返って来ました。
10:こういうことが三度あって、また全部の物が天に引き上げられてし まいました。
11:そのとき、カイサリアからわたしのところに差し向けられた/三人 の人が、わたしたちのいた家に到着しました。
12:すると、“霊”がわたしに、『ためらわないで一緒に行きなさい』 と言われました。ここにいる六人の兄弟も一緒に来て、わたしたち はその人の家に入ったのです。
13:彼は、自分の家に天使が立っているのを見たこと、また、その天使 が、こう告げたことを話してくれました。『ヤッファに人を送って、 ペトロと呼ばれるシモンを招きなさい。
14:あなたと家族の者すべてを救う言葉をあなたに話してくれる。』
15:わたしが話しだすと、聖霊が最初わたしたちの上に降ったように、 彼らの上にも降ったのです。
16:そのとき、わたしは、『ヨハネは水で洗礼を授けたが、あなたがた は聖霊によって洗礼を受ける』と言っておられた主の言葉を思い出 しました。
17:こうして、主イエス・キリストを信じるようになったわたしたちに 与えてくださったのと同じ賜物を、神が彼らにもお与えになったの なら、わたしのような者が、神がそうなさるのをどうして妨げるこ とができたでしょうか。」
18:この言葉を聞いて人々は静まり、「それでは、神は異邦人をも悔い 改めさせ、命を与えてくださったのだ」と言って、神を賛美した。
 
◆アンティオキアの教会
19:ステファノの事件をきっかけにして起こった迫害のために散らされ た人々は、フェニキア、キプロス、アンティオキアまで行ったが、 ユダヤ人以外のだれにも御言葉を語らなかった。
20:しかし、彼らの中にキプロス島やキレネから来た者がいて、アンテ ィオキアへ行き、ギリシア語を話す人々にも語りかけ、主イエスに ついて福音を告げ知らせた。
21:主がこの人々を助けられたので、信じて主に立ち帰った者の数は多 かった。
22:このうわさがエルサレムにある教会にも聞こえてきたので、教会は バルナバをアンティオキアへ行くように派遣した。
23:バルナバはそこに到着すると、神の恵みが与えられた有様を見て喜 び、そして、固い決意をもって主から離れることのないようにと、 皆に勧めた。
24:バルナバは立派な人物で、聖霊と信仰とに満ちていたからである。 こうして、多くの人が主へと導かれた。
25:それから、バルナバはサウロを捜しにタルソスへ行き、
26:見つけ出してアンティオキアに連れ帰った。二人は、丸一年の間そ この教会に一緒にいて多くの人を教えた。このアンティオキアで、 弟子たちが初めてキリスト者と呼ばれるようになったのである。
27:そのころ、預言する人々がエルサレムからアンティオキアに下って 来た。
28:その中の一人のアガボという者が立って、大飢饉が世界中に起こる と“霊”によって予告したが、果たしてそれはクラウディウス帝の 時に起こった。
29:そこで、弟子たちはそれぞれの力に応じて、ユダヤに住む兄弟たち に援助の品を送ることに決めた。
30:そして、それを実行し、バルナバとサウロに託して長老たちに届け た。

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使徒言行録 第12章

◆ヤコブの殺害とペトロの投獄
1:そのころ、ヘロデ王は教会のある人々に迫害の手を伸ばし、
2:ヨハネの兄弟ヤコブを剣で殺した。
3:そして、それがユダヤ人に喜ばれるのを見て、更にペトロをも捕らえようとした。それは、除酵祭の時期であった。
4:ヘロデはペトロを捕らえて牢に入れ、四人一組の兵士四組に引き渡して監視させた。過越祭の後で民衆の前に引き出すつもりであった。
5:こうして、ペトロは牢に入れられていた。教会では彼のために熱心な祈りが神にささげられていた。
 
◆ペトロ、牢から救い出される
6:ヘロデがペトロを引き出そうとしていた日の前夜、ペトロは二本の鎖でつながれ、二人の兵士の間で眠っていた。番兵たちは戸口で牢を見張っていた。
7:すると、主の天使がそばに立ち、光が牢の中を照らした。天使はペトロのわき腹をつついて起こし、「急いで起き上がりなさい」と言った。すると、鎖が彼の手から外れ落ちた。
8:天使が、「帯を締め、履物を履きなさい」と言ったので、ペトロはそのとおりにした。また天使は、「上着を着て、ついて来なさい」と言った。
9:それで、ペトロは外に出てついて行ったが、天使のしていることが現実のこととは思われなかった。幻を見ているのだと思った。
10:第一、第二の衛兵所を過ぎ、町に通じる鉄の門の所まで来ると、門がひとりでに開いたので、そこを出て、ある通りを進んで行くと、急に天使は離れ去った。
11:ペトロは我に返って言った。「今、初めて本当のことが分かった。主が天使を遣わして、ヘロデの手から、またユダヤ民衆のあらゆるもくろみから、わたしを救い出してくださったのだ。」
12:こう分かるとペトロは、マルコと呼ばれていたヨハネの母マリアの家に行った。そこには、大勢の人が集まって祈っていた。
13:門の戸をたたくと、ロデという女中が取り次ぎに出て来た。
14:ペトロの声だと分かると、喜びのあまり門を開けもしないで家に駆け込み、ペトロが門の前に立っていると告げた。
15:人々は、「あなたは気が変になっているのだ」と言ったが、ロデは、本当だと言い張った。彼らは、「それはペトロを守る天使だろう」と言い出した。
16:しかし、ペトロは戸をたたき続けた。彼らが開けてみると、そこにペトロがいたので非常に驚いた。
17:ペトロは手で制して彼らを静かにさせ、主が牢から連れ出してくださった次第を説明し、「このことをヤコブと兄弟たちに伝えなさい」と言った。そして、そこを出てほかの所へ行った。
18:夜が明けると、兵士たちの間で、ペトロはいったいどうなったのだろうと、大騒ぎになった。
19:ヘロデはペトロを捜しても見つからないので、番兵たちを取り調べたうえで死刑にするように命じ、ユダヤからカイサリアに下って、そこに滞在していた。
 
◆ヘロデ王の急死
20:ヘロデ王は、ティルスとシドンの住民にひどく腹を立てていた。そこで、住民たちはそろって王を訪ね、その侍従ブラストに取り入って和解を願い出た。彼らの地方が、王の国から食糧を得ていたからである。
21:定められた日に、ヘロデが王の服を着けて座に着き、演説をすると、
22:集まった人々は、「神の声だ。人間の声ではない」と叫び続けた。
23:するとたちまち、主の天使がヘロデを撃ち倒した。神に栄光を帰さなかったからである。ヘロデは、蛆に食い荒らされて息絶えた。
24:神の言葉はますます栄え、広がって行った。
25:バルナバとサウロはエルサレムのための任務を果たし、マルコと呼ばれるヨハネを連れて帰って行った。

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使徒言行録 第13章

◆バルナバとサウロ、宣教旅行に出発する
1:アンティオキアでは、そこの教会にバルナバ、ニゲルと呼ばれるシメオン、キレネ人のルキオ、領主ヘロデと一緒に育ったマナエン、サウロなど、預言する者や教師たちがいた。
2:彼らが主を礼拝し、断食していると、聖霊が告げた。「さあ、バルナバとサウロをわたしのために選び出しなさい。わたしが前もって二人に決めておいた仕事に当たらせるために。」
3:そこで、彼らは断食して祈り、二人の上に手を置いて出発させた。
 
◆キプロス宣教
4:聖霊によって送り出されたバルナバとサウロは、セレウキアに下り、そこからキプロス島に向け船出し、
5:サラミスに着くと、ユダヤ人の諸会堂で神の言葉を告げ知らせた。二人は、ヨハネを助手として連れていた。
6:島全体を巡ってパフォスまで行くと、ユダヤ人の魔術師で、バルイエスという一人の偽預言者に出会った。
7:この男は、地方総督セルギウス・パウルスという賢明な人物と交際していた。総督はバルナバとサウロを招いて、神の言葉を聞こうとした。
8:魔術師エリマ――彼の名前は魔術師という意味である――は二人に対抗して、地方総督をこの信仰から遠ざけようとした。
9:パウロとも呼ばれていたサウロは、聖霊に満たされ、魔術師をにらみつけて、
10:言った。「ああ、あらゆる偽りと欺きに満ちた者、悪魔の子、すべての正義の敵、お前は主のまっすぐな道をどうしてもゆがめようとするのか。
11:今こそ、主の御手はお前の上に下る。お前は目が見えなくなって、時が来るまで日の光を見ないだろう。」するとたちまち、魔術師は目がかすんできて、すっかり見えなくなり、歩き回りながら、だれか手を引いてくれる人を探した。
12:総督はこの出来事を見て、主の教えに非常に驚き、信仰に入った。
 
◆ピシディア州のアンティオキアで
13:パウロとその一行は、パフォスから船出してパンフィリア州のペルゲに来たが、ヨハネは一行と別れてエルサレムに帰ってしまった。
14:パウロとバルナバはペルゲから進んで、ピシディア州のアンティオキアに到着した。そして、安息日に会堂に入って席に着いた。
15:律法と預言者の書が朗読された後、会堂長たちが人をよこして、「兄弟たち、何か会衆のために励ましのお言葉があれば、話してください」と言わせた。
16:そこで、パウロは立ち上がり、手で人々を制して言った。「イスラエルの人たち、ならびに神を畏れる方々、聞いてください。
17:この民イスラエルの神は、わたしたちの先祖を選び出し、民がエジプトの地に住んでいる間に、これを強大なものとし、高く上げた御腕をもってそこから導き出してくださいました。
18:神はおよそ四十年の間、荒れ野で彼らの行いを耐え忍び、
19:カナンの地では七つの民族を滅ぼし、その土地を彼らに相続させてくださったのです。
20:これは、約四百五十年にわたることでした。その後、神は預言者サムエルの時代まで、裁く者たちを任命なさいました。
21:後に人々が王を求めたので、神は四十年の間、ベニヤミン族の者で、キシュの子サウルをお与えになり、
22:それからまた、サウルを退けてダビデを王の位につけ、彼について次のように宣言なさいました。『わたしは、エッサイの子でわたしの心に適う者、ダビデを見いだした。彼はわたしの思うところをすべて行う。』
23:神は約束に従って、このダビデの子孫からイスラエルに救い主イエスを送ってくださったのです。
24:ヨハネは、イエスがおいでになる前に、イスラエルの民全体に悔い改めの洗礼を宣べ伝えました。
25:その生涯を終えようとするとき、ヨハネはこう言いました。『わたしを何者だと思っているのか。わたしは、あなたたちが期待しているような者ではない。その方はわたしの後から来られるが、わたしはその足の履物をお脱がせする値打ちもない。』
26:兄弟たち、アブラハムの子孫の方々、ならびにあなたがたの中にいて神を畏れる人たち、この救いの言葉はわたしたちに送られました。
27:エルサレムに住む人々やその指導者たちは、イエスを認めず、また、安息日ごとに読まれる預言者の言葉を理解せず、イエスを罪に定めることによって、その言葉を実現させたのです。
28:そして、死に当たる理由は何も見いだせなかったのに、イエスを死刑にするようにとピラトに求めました。
29:こうして、イエスについて書かれていることがすべて実現した後、人々はイエスを木から降ろし、墓に葬りました。
30:しかし、神はイエスを死者の中から復活させてくださったのです。
31:このイエスは、御自分と一緒にガリラヤからエルサレムに上った人々に、幾日にもわたって姿を現されました。その人たちは、今、民に対してイエスの証人となっています。
32:わたしたちも、先祖に与えられた約束について、あなたがたに福音を告げ知らせています。
33:つまり、神はイエスを復活させて、わたしたち子孫のためにその約束を果たしてくださったのです。それは詩編の第二編にも、/『あなたはわたしの子、/わたしは今日あなたを産んだ』/と書いてあるとおりです。
34:また、イエスを死者の中から復活させ、もはや朽ち果てることがないようになさったことについては、/『わたしは、ダビデに約束した/聖なる、確かな祝福をあなたたちに与える』/と言っておられます。
35:ですから、ほかの個所にも、/『あなたは、あなたの聖なる者を/朽ち果てるままにしてはおかれない』/と言われています。
36:ダビデは、彼の時代に神の計画に仕えた後、眠りについて、祖先の列に加えられ、朽ち果てました。
37:しかし、神が復活させたこの方は、朽ち果てることがなかったのです。
38:だから、兄弟たち、知っていただきたい。この方による罪の赦しが告げ知らされ、また、あなたがたがモーセの律法では義とされえなかったのに、
39:信じる者は皆、この方によって義とされるのです。
40:それで、預言者の書に言われていることが起こらないように、警戒しなさい。
41:『見よ、侮る者よ、驚け。滅び去れ。わたしは、お前たちの時代に一つの事を行う。人が詳しく説明しても、/お前たちにはとうてい信じられない事を。』」
42:パウロとバルナバが会堂を出るとき、人々は次の安息日にも同じことを話してくれるようにと頼んだ。
43:集会が終わってからも、多くのユダヤ人と神をあがめる改宗者とがついて来たので、二人は彼らと語り合い、神の恵みの下に生き続けるように勧めた。
44:次の安息日になると、ほとんど町中の人が主の言葉を聞こうとして集まって来た。
45:しかし、ユダヤ人はこの群衆を見てひどくねたみ、口汚くののしって、パウロの話すことに反対した。
46:そこで、パウロとバルナバは勇敢に語った。「神の言葉は、まずあなたがたに語られるはずでした。だがあなたがたはそれを拒み、自分自身を永遠の命を得るに値しない者にしている。見なさい、わたしたちは異邦人の方に行く。
47:主はわたしたちにこう命じておられるからです。『わたしは、あなたを異邦人の光と定めた、/あなたが、地の果てにまでも/救いをもたらすために。』」
48:異邦人たちはこれを聞いて喜び、主の言葉を賛美した。そして、永遠の命を得るように定められている人は皆、信仰に入った。
49:こうして、主の言葉はその地方全体に広まった。
50:ところが、ユダヤ人は、神をあがめる貴婦人たちや町のおもだった人々を扇動して、パウロとバルナバを迫害させ、その地方から二人を追い出した。
51:それで、二人は彼らに対して足の塵を払い落とし、イコニオンに行った。
52:他方、弟子たちは喜びと聖霊に満たされていた。

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旧約聖書

ダニエル書 第1章

 
◆バビロンの宮廷でのダニエル
1:ユダの王ヨヤキムが即位して三年目のことであった。バビロンの王ネブカドネツァルが攻めて来て、エルサレムを包囲した。
2:主は、ユダの王ヨヤキムと、エルサレム神殿の祭具の一部を彼の手中に落とされた。ネブカドネツァルはそれらをシンアルに引いて行き、祭具 類は自分の神々の宝物倉に納めた。
3:さて、ネブカドネツァル王は侍従長アシュペナズに命じて、イスラエル人の王族と貴族の中から、
4:体に難点がなく、容姿が美しく、何事にも才能と知恵があり、知識と理解力に富み、宮廷に仕える能力のある少年を何人か連れて来させ、カル デア人の言葉と文書を学ばせた。
5:王は、宮廷の肉類と酒を毎日彼らに与えるように定め、三年間養成してから自分に仕えさせることにした。
6:この少年たちの中に、ユダ族出身のダニエル、ハナンヤ、ミシャエル、アザルヤの四人がいた。
7:侍従長は彼らの名前を変えて、ダニエルをベルテシャツァル、ハナンヤをシャドラク、ミシャエルをメシャク、アザルヤをアベド・ネゴと呼ん だ。
8:ダニエルは宮廷の肉類と酒で自分を汚すまいと決心し、自分を汚すようなことはさせないでほしいと侍従長に願い出た。
9:神の御計らいによって、侍従長はダニエルに好意を示し、親切にした。
10:侍従長はダニエルに言った。「わたしは王様が恐ろしい。王様御自身がお前たちの食べ物と飲み物をお定めになったのだから。同じ年ごろの 少年に比べてお前たちの顔色が悪くなったら、お前たちのためにわたしの首が危うくなるではないか。」
11:ダニエルは、侍従長が自分たち四人の世話係に定めた人に言った。
12:「どうかわたしたちを十日間試してください。その間、食べる物は野菜だけ、飲む物は水だけにさせてください。
13:その後、わたしたちの顔色と、宮廷の肉類をいただいた少年の顔色をよくお比べになり、その上でお考えどおりにしてください。」
14:世話係はこの願いを聞き入れ、十日間彼らを試した。
15:十日たってみると、彼らの顔色と健康は宮廷の食べ物を受けているどの少年よりも良かった。
16:それ以来、世話係は彼らに支給される肉類と酒を除いて、野菜だけ与えることにした。
17:この四人の少年は、知識と才能を神から恵まれ、文書や知恵についてもすべて優れていて、特にダニエルはどのような幻も夢も解くことがで きた。
18:ネブカドネツァル王の定めた年数がたつと、侍従長は少年たちを王の前に連れて行った。
19:王は彼らと語り合ったが、このダニエル、ハナンヤ、ミシャエル、アザルヤと並ぶ者はほかにだれもいなかったので、この四人は王のそばに 仕えることになった。
20:王は知恵と理解力を要する事柄があれば彼らに意見を求めたが、彼らは常に国中のどの占い師、祈祷師よりも十倍も優れていた。
21:ダニエルはキュロス王の元年まで仕えた。
 
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ダニエル書  第2章
 
◆巨大な像の夢
1:ネブカドネツァル王が即位して二年目のことであった。王は何度か夢を見て不安になり、眠れなくなった。
2:王は命令を出して、占い師、祈祷師、まじない師、賢者を呼び出し、自分の夢を説明させようとした。彼らが王の前に進み出ると、
3:王は言った。「夢を見たのだが、その夢の意味を知りたくて心が落ち着かない。」
4:賢者たちは王にアラム語で答えた。「王様がとこしえまでも生き永らえられますように。どうぞ僕らにその夢をお話しください。解釈を申し上 げます。」
5:王は賢者たちに答えた。「いいか、わたしの命令は絶対だ。もしお前たちがわたしの見た夢を言い当て、その解釈をしてくれなければ、お前た ちの体を八つ裂きにし、お前たちの家も打ち壊す。
6:しかし、もしわたしの見た夢を言い当て、正しく解釈してくれれば、ほうびとして贈り物と大いなる名誉を授けよう。だから、その夢を言い当 て、解釈してみよ。」
7:彼らは繰り返し答えた。「王様、どうぞその夢をお聞かせください。僕らはその解釈をいたしましょう。」
8:王は言った。「思ったとおりだ。わたしの命令が必ず実行されることを知っているので、時間を稼ごうとしているのだ。
9:その夢を話して聞かせることができなければ、お前たちに下される判決は今言ったとおりだ。だから、わたしの前でうそをついたり、いいかげ んなことを述べ立てたりして、わたしの考えが変わるまで時を稼ごうとしているにちがいない。さあ、夢を話してみよ。そうすれば、解釈できるかどうかも分か るだろう。」
10:賢者たちは王に答えた。「王様のお求めに応じることのできる者は、この地上にはおりません。大王や支配者の中のだれも、そのようなこと を占い師、祈祷師、賢者に求めたことはございません。
11:王様のお求めになることは難しく、これに応じることのできるのは、人間と住まいを共になさらぬ神々だけでございましょう。」
12:王は激しく怒り、憤慨し、バビロンの知者を皆殺しにするよう命令した。
13:知者を処刑する定めが出されたので、人々はダニエルとその同僚をも殺そうとして探した。
14:バビロンの知者を殺そうと出て来た侍従長アルヨクにダニエルは思慮深く賢明に応対し、
15:この王の高官アルヨクに尋ねた。「どうして王様はこのような厳しい命令を出されたのですか。」アルヨクはダニエルに事情を説明した。
16:ダニエルは王のもとに行って、願った。「しばらくの時をいただけますなら、解釈いたします。」
17:ダニエルは家に帰り、仲間のハナンヤ、ミシャエル、アザルヤに事情を説明した。
18:そして、他のバビロンの賢者と共に殺されることのないよう、天の神に憐れみを願い、その夢の秘密を求めて祈った。
19:すると、夜の幻によってその秘密がダニエルに明かされた。ダニエルは天の神をたたえ、
20:こう祈った。「神の御名をたたえよ、世々とこしえに。知恵と力は神のもの。
21:神は時を移し、季節を変え/王を退け、王を立て/知者に知恵を、識者に知識を与えられる。
22:奥義と秘義を現し/闇にひそむものを知り/光は御もとに宿る。
23:わたしの父祖の神よ、感謝と賛美をささげます。知恵と力をわたしに授け/今、願いをかなえ/王の望むことを知らせてくださいました。」
24:それから、ダニエルはバビロンの知者皆殺しの命を受けていたアルヨクのもとに行って、こう言った。「バビロンの知者を殺さないでくださ い。わたしを王様のもとに連れて行ってくだされば、王様に解釈を申し上げます。」
25:そこで、アルヨクはおそるおそるダニエルを王のもとに連れて出て、こう言った。「ユダの捕囚の中に、一人の男が見つかりました。王様に 解釈を申し上げると言っております。」
26:王はベルテシャツァルの名を持つダニエルに尋ねた。「わたしの見た夢を言い当て、それを解釈してくれると言うのか。」
27:ダニエルは王に答えた。「王様がお求めになっている秘密の説明は、知者、祈祷師、占い師、星占い師にはできません。
28:だが、秘密を明かす天の神がおられ、この神が将来何事が起こるのかをネブカドネツァル王に知らせてくださったのです。王様の夢、お眠り になっていて頭に浮かんだ幻を申し上げましょう。
29:お休みになって先々のことを思いめぐらしておられた王様に、神は秘密を明かし、将来起こるべきことを知らせようとなさったのです。
30:その秘密がわたしに明かされたのは、命あるものすべてにまさる知恵がわたしにあるからではなく、ただ王様にその解釈を申し上げ、王様が 心にある思いをよく理解なさるようお助けするためだったのです。
31:王様、あなたは一つの像を御覧になりました。それは巨大で、異常に輝き、あなたの前に立ち、見るも恐ろしいものでした。
32:それは頭が純金、胸と腕が銀、腹と腿が青銅、
33:すねが鉄、足は一部が鉄、一部が陶土でできていました。
34:見ておられると、一つの石が人手によらずに切り出され、その像の鉄と陶土の足を打ち砕きました。
35:鉄も陶土も、青銅も銀も金も共に砕け、夏の打穀場のもみ殻のようになり、風に吹き払われ、跡形もなくなりました。その像を打った石は大 きな山となり、全地に広がったのです。
36:これが王様の御覧になった夢です。さて、その解釈をいたしましょう。
37:王様、あなたはすべての王の王です。天の神はあなたに、国と権威と威力と威光を授け、
38:人間も野の獣も空の鳥も、どこに住んでいようとみなあなたの手にゆだね、このすべてを治めさせられました。すなわち、あなたがその金の 頭なのです。
39:あなたのあとに他の国が興りますが、これはあなたに劣るもの。その次に興る第三の国は青銅で、全地を支配します。
40:第四の国は鉄のように強い。鉄はすべてを打ち砕きますが、あらゆるものを破壊する鉄のように、この国は破壊を重ねます。
41:足と足指は一部が陶工の用いる陶土、一部が鉄であるのを御覧になりましたが、そのようにこの国は分裂しています。鉄が柔らかい陶土と混 じっているのを御覧になったように、この国には鉄の強さもあります。
42:足指は一部が鉄、一部が陶土です。すなわち、この国には強い部分もあれば、もろい部分もあるのです。
43:また、鉄が柔らかい陶土と混じり合っているのを御覧になったように、人々は婚姻によって混じり合います。しかし、鉄が陶土と溶け合うこ とがないように、ひとつになることはありません。
44:この王たちの時代に、天の神は一つの国を興されます。この国は永遠に滅びることなく、その主権は他の民の手に渡ることなく、すべての国 を打ち滅ぼし、永遠に続きます。
45:山から人手によらず切り出された石が、鉄、青銅、陶土、銀、金を打つのを御覧になりましたが、それによって、偉大な神は引き続き起こる ことを王様にお知らせになったのです。この夢は確かであり、解釈もまちがいございません。」
46:これを聞いたネブカドネツァルはひれ伏してダニエルを拝し、献げ物と香を彼に供えさせた。
47:王はダニエルに言った。「あなたがこの秘密を明かすことができたからには、あなたたちの神はまことに神々の神、すべての王の主、秘密を 明かす方にちがいない。」
48:王はダニエルを高い位につけ、多くのすばらしい贈り物を与え、バビロン全州を治めさせ、バビロンの知者すべての上に長官として立てた。
49:ダニエルは王に願って、シャドラク、メシャク、アベド・ネゴをバビロン州の行政官に任命してもらった。ダニエル自身は王宮にとどまっ た。
 
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ダニエル書  第3章
 
◆燃え盛る炉に投げ込まれた三人
1:ネブカドネツァル王は一つの金の像を造った。高さは六十アンマ、幅は六アンマで、これをバビロン州のドラという平野に建てた。
2:ネブカドネツァル王は人を遣わして、総督、執政官、地方長官、参議官、財務官、司法官、保安官、その他諸州の高官たちを集め、自分の建て た像の除幕式に参列させることにした。
3:総督、執政官、地方長官、参議官、財務官、司法官、保安官、その他諸州の高官たちはその王の建てた像の除幕式に集まり、像の前に立ち並ん だ。
4:伝令は力を込めて叫んだ。「諸国、諸族、諸言語の人々よ、あなたたちに告げる。
5:角笛、横笛、六絃琴、竪琴、十三絃琴、風琴などあらゆる楽器による音楽が聞こえたなら、ネブカドネツァル王の建てられた金の像の前にひれ 伏して拝め。
6:ひれ伏して拝まない者は、直ちに燃え盛る炉に投げ込まれる。」
7:それで、角笛、横笛、六絃琴、竪琴、十三絃琴の音楽が聞こえてくると、諸国、諸族、諸言語の人々は皆ひれ伏し、ネブカドネツァル王の建て た金の像を拝んだ。
8:さてこのとき、何人かのカルデア人がユダヤ人を中傷しようと進み出て、
9:ネブカドネツァル王にこう言った。「王様がとこしえまでも生き永らえられますように。
10:御命令によりますと、角笛、横笛、六絃琴、竪琴、十三絃琴、風琴などあらゆる楽器の音楽が聞こえたなら、だれでも金の像にひれ伏して拝 め、ということでした。
11:そうしなければ、燃え盛る炉に投げ込まれるはずです。
12:バビロン州には、その行政をお任せになっているユダヤ人シャドラク、メシャク、アベド・ネゴの三人がおりますが、この人々は御命令を無 視して、王様の神に仕えず、お建てになった金の像を拝もうとしません。」
13:これを聞いたネブカドネツァル王は怒りに燃え、シャドラク、メシャク、アベド・ネゴを連れて来るよう命じ、この三人は王の前に引き出さ れた。
14:王は彼らに言った。「シャドラク、メシャク、アベド・ネゴ、お前たちがわたしの神に仕えず、わたしの建てた金の像を拝まないというのは 本当か。
15:今、角笛、横笛、六絃琴、竪琴、十三絃琴、風琴などあらゆる楽器の音楽が聞こえると同時にひれ伏し、わたしの建てた金の像を拝むつもり でいるなら、それでよい。もしも拝まないなら、直ちに燃え 盛る炉に投げ込ませる。お前たちをわたしの手から救い出す神があろうか。」
16:シャドラク、メシャク、アベド・ネゴはネブカドネツァル王に答えた。「このお定めにつきまして、お答えする必要はございません。
17:わたしたちのお仕えする神は、その燃え盛る炉や王様の手からわたしたちを救うことができますし、必ず救ってくださいます。
18:そうでなくとも、御承知ください。わたしたちは王様の神々に仕えることも、お建てになった金の像を拝むことも、決していたしません。」
19:ネブカドネツァル王はシャドラク、メシャク、アベド・ネゴに対して血相を変えて怒り、炉をいつもの七倍も熱く燃やすように命じた。
20:そして兵士の中でも特に強い者に命じて、シャドラク、メシャク、アベド・ネゴを縛り上げ、燃え盛る炉に投げ込ませた。
21:彼らは上着、下着、帽子、その他の衣服を着けたまま縛られ、燃え盛る炉に投げ込まれた。
22:王の命令は厳しく、炉は激しく燃え上がっていたので、噴き出る炎はシャドラク、メシャク、アベド・ネゴを引いて行った男たちをさえ焼き 殺した。
23:シャドラク、メシャク、アベド・ネゴの三人は縛られたまま燃え盛る炉の中に落ち込んで行った。
24:間もなく王は驚きの色を見せ、急に立ち上がり、側近たちに尋ねた。
「あの三人の男は、縛ったまま炉に投げ込んだはずではなかったか。」彼らは答えた。「王様、そのとおりでございます。」
25:王は言った。「だが、わたしには四人の者が火の中を自由に歩いているのが見える。そして何の害も受けていない。それに四人目の者は神の 子のような姿をしている。」
26:ネブカドネツァル王は燃え盛る炉の口に近づいて呼びかけた。「シャドラク、メシャク、アベド・ネゴ、いと高き神に仕える人々よ、出て来 なさい。」すると、シャドラク、メシャク、アベド・ネゴは炉の中から出て来た。
27:総督、執政官、地方長官、王の側近たちは集まって三人を調べたが、火はその体を損なわず、髪の毛も焦げてはおらず、上着も元のままで火 のにおいすらなかった。
28:ネブカドネツァル王は言った。「シャドラク、メシャク、アベド・ネゴの神をたたえよ。彼らは王の命令に背き、体を犠牲にしても自分の神 に依り頼み、自分の神以外にはいかなる神にも仕えず、拝もうともしなかったので、この僕たちを、神は御使いを送って救われた。
29:わたしは命令する。いかなる国、民族、言語に属する者も、シャドラク、メシャク、アベド・ネゴの神をののしる者があれば、その体は八つ 裂きにされ、その家は破壊される。まことに人間をこのように救うことのできる神はほかにはない。」
30:こうして王は、シャドラク、メシャク、アベド・ネゴをバビロン州で高い位につけた。
 
◆大きな木の夢
31:ネブカドネツァル王は、全世界の諸国、諸族、諸言語の住民に、いっそうの繁栄を願って、挨拶を送る。
32:さて、わたしはいと高き神がわたしになさったしるしと不思議な御業を知らせる。
33:この神のしるしは、いかに偉大であり/不思議な御業は、いかに力あることか。その御国は永遠の御国であり、支配は代々に及ぶ。
 
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ダニエル書  第4章
 
1:わたしネブカドネツァルは、健康に恵まれ、王宮で心安らかに過ごしていた。
2:一夜、わたしは夢を見た。眠りの中に恐ろしい光景が現れ、わたしは頭に浮かんだ幻に悩まされた。
3:わたしは命令を下してバビロンの知者を全員召集し、夢の解釈をさせようとした。
4:占い師、祈祷師、賢者、星占い師らが来たので、わたしは夢の話をしたが、だれひとり解釈ができなかった。
5:最後にダニエルが来た。これはわたしの神にちなんでベルテシャツァルという名を与えた者で、彼には聖なる神の霊が宿っていた。わたしは彼 に夢の話をして、こう言った。
6:「占い師の長ベルテシャツァルよ、お前には聖なる神の霊が宿っていて、どんな秘密でも解き明かせると聞いている。わたしの見た夢はこう だ。解釈をしてほしい。
7:眠っていると、このような幻が頭に浮かんだのだ。大地の真ん中に、一本の木が生えていた。大きな木であった。
8:その木は成長してたくましくなり/天に届くほどの高さになり/地の果てからも見えるまでになった。
9:葉は美しく茂り、実は豊かに実って/すべてを養うに足るほどであった。その木陰に野の獣は宿り/その枝に空の鳥は巣を作り/生き物はみ な、この木によって食べ物を得た。
10:更に、眠っていると、頭に浮かんだ幻の中で、聖なる見張りの天使が天から降って来るのが見えた。
11:天使は大声に呼ばわって、こう言った。『この木を切り倒し、枝を払い/葉を散らし、実を落とせ。その木陰から獣を、その枝から鳥を追い 払え。
12:ただし、切り株と根は地中に残し/鉄と青銅の鎖をかけて、野の草の中に置け。天の露にぬれるにまかせ/獣と共に野の草を食らわせよ。
13:その心は変わって、人の心を失い/獣の心が与えられる。こうして、七つの時が過ぎるであろう。
14:この宣告は見張りの天使らの決定により/この命令は聖なる者らの決議によるものである。すなわち、人間の王国を支配するのは、いと高き 神であり、この神は御旨のままにそれをだれにでも与え、また、最も卑しい人をその上に立てることもできるということを、人間に知らせるためである。』
15:これが、わたしネブカドネツァル王の見た夢だ。さて、ベルテシャツァル、その解釈を聞かせてほしい。この王国中の知者はだれひとり解き 明かせなかったのだが、聖なる神の霊が宿っているというお前ならできるであろう。」
16:しかし、ベルテシャツァルと呼ばれるダニエルは驚いた様子で、しばらくの間思い悩んでいた。王は彼に、「ベルテシャツァル、この夢とそ の解釈を恐れずに言うがよい」と言った。彼は答えた。「王様、この夢があなたの敵に、その解釈があなたを憎む者にふりかかりますように。
17:御覧になったその木、すなわち、成長してたくましくなり、天に届くほどの高さになり、地の果てからも見え、
18:葉は美しく茂り、実は豊かに実ってすべてを養うに足り、その木陰に野の獣は宿り、その枝に空の鳥は巣を作る、
19:その木はあなた御自身です。あなたは成長してたくましくなり、あなたの威力は大きくなって天にも届くほどになり、あなたの支配は地の果 てにまで及んでいます。
20:また、王様は聖なる見張りの天使が天から降って来るのを御覧になりました。天使はこう言いました。この木を切り倒して滅ぼせ。ただし、 切り株と根を地中に残し、これに鉄と青銅の鎖をかけて野の草の中に置け。天の露にぬれるにまかせ、獣と共に野の草を食らわせ、七つの時を過ごさせよ、と。
21:さて、王様、それを解釈いたしましょう。これはいと高き神の命令で、わたしの主君、王様に起こることです。
22:あなたは人間の社会から追放されて野の獣と共に住み、牛のように草を食べ、天の露にぬれ、こうして七つの時を過ごすでしょう。そうし て、あなたはついに、いと高き神こそが人間の王国を支配し、その御旨のままにそれをだれにでも与えられるのだということを悟るでしょう。
23:その木の切り株と根を残すように命じられているので、天こそまことの支配者であると悟れば、王国はあなたに返されます。
24:王様、どうぞわたしの忠告をお受けになり、罪を悔いて施しを行い、悪を改めて貧しい人に恵みをお与えになってください。そうすれば、引 き続き繁栄されるでしょう。」
25:このことはすべて、ネブカドネツァル王の上に起こった。
26:十二か月が過ぎたころのことである。王はバビロンの王宮の屋上を散歩しながら、
27:こう言った。「なんとバビロンは偉大ではないか。これこそ、このわたしが都として建て、わたしの権力の偉大さ、わたしの威光の尊さを示 すものだ。」
28:まだ言い終わらぬうちに、天から声が響いた。「ネブカドネツァル王よ、お前に告げる。王国はお前を離れた。
29:お前は人間の社会から追放されて、野の獣と共に住み、牛のように草を食らい、七つの時を過ごすのだ。そうしてお前はついに、いと高き神 こそが人間の王国を支配する者で、神は御旨のままにそれをだれにでも与えるのだということを悟るであろう。」
30:この言葉は直ちにネブカドネツァルの身に起こった。彼は人間の社会から追放され、牛のように草を食らい、その体は天の露にぬれ、その毛 は鷲の羽のように、つめは鳥のつめのように生え伸びた。
31:その時が過ぎて、わたしネブカドネツァルは目を上げて天を仰ぐと、理性が戻って来た。わたしはいと高き神をたたえ、永遠に生きるお方を ほめたたえた。その支配は永遠に続き/その国は代々に及ぶ。
32:すべて地に住む者は無に等しい。天の軍勢をも地に住む者をも御旨のままにされる。その手を押さえて/何をするのかと言いうる者はだれも いない。
33:言い終わると、理性がわたしに戻った。栄光と輝きは再びわたしに与えられて、王国の威光となった。貴族や側近もわたしのもとに戻って来 た。こうしてわたしは王国に復帰し、わたしの威光は増し加わった。
34:それゆえ、わたしネブカドネツァルは天の王をほめたたえ、あがめ、賛美する。その御業はまこと、その道は正しく、驕る者を倒される。
 
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ダニエル書  第5章

◆壁に字を書く指の幻

1:ベルシャツァル王は千人の貴族を招いて大宴会を開き、みんなで酒を飲んでいた。
2:宴も進んだころ、ベルシャツァルは、その父ネブカドネツァルがエルサレムの神殿から奪って来た金銀の祭具を持って来るように命じた。王や 貴族、後宮の女たちがそれで酒を飲もうというのである。
3:そこで、エルサレムの神殿から奪って来た金銀の祭具が運び込まれ、王や貴族、後宮の女たちがそれで酒を飲み始めた。
4:こうして酒を飲みながら、彼らは金や銀、青銅、鉄、木や石などで造った神々をほめたたえた。
5:その時、人の手の指が現れて、ともし火に照らされている王宮の白い壁に文字を書き始めた。王は書き進むその手先を見た。
6:王は恐怖にかられて顔色が変わり、腰が抜け、膝が震えた。
7:王は大声をあげ、祈祷師、賢者、星占い師などを連れて来させ、これらバビロンの知者にこう言った。「この字を読み、解釈をしてくれる者に は、紫の衣を着せ、金の鎖を首にかけて、王国を治める者のうちの第三の位を与えよう。」
8:宮廷の知者たちは皆、集まって来たが、だれもその字を読むことができず、解釈もできなかった。
9:ベルシャツァル王はいよいよ恐怖にかられて顔色が変わり、貴族も皆途方に暮れた。
10:王や貴族が話しているのを聞いた王妃は、宴会場に来てこう言った。「王様がとこしえまでも生き永らえられますように。そんなに心配した り顔色を変えたりなさらないでくださいませ。
11:お国には、聖なる神の霊を宿している人が一人おります。父王様の代に、その人はすばらしい才能、神々のような知恵を示したものでござい ます。お父上のネブカドネツァル王様は、この人を占い師、祈祷師、賢者、星占い師などの長にしておられました。
12:この人には特別な霊の力があって、知識と才能に富み、夢の解釈、謎解き、難問の説明などがよくできるのでございます。ダニエルという者 で、父王様はベルテシャツァルと呼んでいらっしゃいました。このダニエルをお召しになれば、その字の解釈をしてくれることでございましょう。」
13:そこで、ダニエルが王の前に召し出された。王は彼に言った。「父王がユダから捕らえ帰ったユダヤ人の捕囚の一人、ダニエルというのはお 前か。
14:聞くところによると、お前は神々の霊を宿していて、すばらしい才能と特別な知恵を持っているそうだ。
15:賢者や祈祷師を連れて来させてこの文字を読ませ、解釈させようとしたのだが、彼らにはそれができなかった。
16:お前はいろいろと解釈をしたり難問を解いたりする力を持つと聞いた。もしこの文字を読み、その意味を説明してくれたなら、お前に紫の衣 を着せ、金の鎖を首にかけて、王国を治める者のうち第三の位を与えよう。」
17:ダニエルは王に答えた。「贈り物など不要でございます。報酬はだれか他の者にお与えください。しかし、王様のためにその文字を読み、解 釈をいたしましょう。
18:王様、いと高き神は、あなたの父ネブカドネツァル王に王国と権勢と威光をお与えになりました。
19:その権勢を見て、諸国、諸族、諸言語の人々はすべて、恐れおののいたのです。父王様は思うままに殺し、思うままに生かし、思うままに栄 誉を与え、思うままに没落させました。
20:しかし、父王様は傲慢になり、頑に尊大にふるまったので、王位を追われ、栄光は奪われました。
21:父王様は人間の社会から追放され、心は野の獣のようになり、野生のろばと共に住み、牛のように草を食らい、天から降る露にその身をぬら し、ついに悟ったのは、いと高き神こそが人間の王国を支配し、その御旨のままに王を立てられるのだということでした。
22:さて、ベルシャツァル王よ、あなたはその王子で、これらのことをよくご存じでありながら、なお、へりくだろうとはなさらなかった。
23:天の主に逆らって、その神殿の祭具を持ち出させ、あなた御自身も、貴族も、後宮の女たちも皆、それで飲みながら、金や銀、青銅、鉄、木 や石で造った神々、見ることも聞くこともできず、何も知らないその神々を、ほめたたえておられます。だが、あなたの命と行動の一切を手中に握っておられる 神を畏れ敬おうとはなさらない。
24:そのために神は、あの手を遣わして文字を書かせたのです。
25:さて、書かれた文字はこうです。メネ、メネ、テケル、そして、パルシン。
26:意味はこうです。メネは数えるということで、すなわち、神はあなたの治世を数えて、それを終わらせられたのです。
27:テケルは量を計ることで、すなわち、あなたは秤にかけられ、不足と見られました。
28:パルシンは分けるということで、すなわち、あなたの王国は二分されて、メディアとペルシアに与えられるのです。」
29:これを聞いたベルシャツァルは、ダニエルに紫の衣を着せ、金の鎖をその首にかけるように命じ、王国を治める者のうち第三の位を彼に与え るという布告を出した。
30:その同じ夜、カルデア人の王ベルシャツァルは殺された。

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ダニエル書  第6章


◆獅子の洞窟に投げ込まれたダニエル
1:さて、王国を継いだのは、メディア人ダレイオスであった。彼は既ハ に六十二歳であった。
2:ダレイオスは、王国に百二十人の総督を置いて全国を治めさせるこハ とにし、
3:また、王に損失がないようにするため、これらの総督から報告を受ハ ける大臣を三人、その上に置いた。ダニエルはそのひとりであった。
4:ダニエルには優れた霊が宿っていたので、他の大臣や総督のすべてハ に傑出していた。王は彼に王国全体を治めさせようとした。
5:大臣や総督は、政務に関してダニエルを陥れようと口実を探した。ハ しかし、ダニエルは政務に忠実で、何の汚点も怠慢もなく、彼らはハ 訴え出る口実を見つけることができなかった。
6:それで彼らは、「ダニエルを陥れるには、その信じている神の法にハ 関してなんらかの言いがかりをつけるほかはあるまい」と話し合い、
7:王のもとに集まってこう言った。「ダレイオス王様がとこしえまでハ も生き永らえられますように。
8:王国の大臣、執政官、総督、地方長官、側近ら一同相談いたしましハ て、王様に次のような、勅令による禁止事項をお定めいただこうとハ いうことになりました。すなわち、向こう三十日間、王様を差し置ハ いて他の人間や神に願い事をする者は、だれであれ獅子の洞窟に投ハ げ込まれる、と。
9:王様、どうぞこの禁令を出し、その書面に御署名ください。そうすハ れば、これはメディアとペルシアの法律として変更不可能なものとハ なり、廃止することはできなくなります。」
10:ダレイオス王は、その書面に署名して禁令を発布した。
11:ダニエルは王が禁令に署名したことを知っていたが、家に帰るといハ つものとおり二階の部屋に上がり、エルサレムに向かって開かれたハ 窓際にひざまずき、日に三度の祈りと賛美を自分の神にささげた。
12:役人たちはやって来て、ダニエルがその神に祈り求/めているのをハ 見届け、
13:王の前に進み出、禁令を引き合いに出してこう言った。「王様、向ハ こう三十日間、王様を差し置いて他の人間や神に願い事をする者がハ あれば、獅子の洞窟に投げ込まれるという勅令に署名をなさったのハ ではございませんか。」王は答えた。「そのとおりだ。メディアとハ ペルシアの法律は廃棄されることはない。」
14:彼らは王に言った。「王様、ユダヤからの捕囚の一人ダニエルは、ハ あなたさまをも、署名なさったその禁令をも無視して、日に三度祈ハ りをささげています。」
15:王はこれを聞いてたいそう悩み、なんとかダニエルを助ける方法はハ ないものかと心を砕き、救おうとして日の暮れるまで努力した。
16:役人たちは王のもとに来て言った。「王様、ご存じのとおり、メデハ ィアとペルシアの法律によれば、王による勅令や禁令は一切変更しハ てはならないことになっております。」
17:それで王は命令を下し、ダニエルは獅子の洞窟に投げ込まれることハ になって引き出された。王は彼に言った。「お前がいつも拝んでいハ る神がお前を救ってくださるように。」
18:一つの石が洞窟の入り口に置かれ、王は自分の印と貴族たちの印でハ 封をし、ダニエルに対する処置に変更がないようにした。
19:王は宮殿に帰ったが、その夜は食を断ち、側女も近寄らせず、眠れハ ずに過ごし、
20:夜が明けるやいなや、急いで獅子の洞窟へ行った。
21:洞窟に近づくと、王は不安に満ちた声をあげて、ダニエルに呼びかハ けた。「ダニエル、ダニエル、生ける神の僕よ、お前がいつも拝んハ でいる神は、獅子からお前を救い出す力があったか。」
22:ダニエルは王に答えた。「王様がとこしえまでも生き永らえられまハ すように。
23:神様が天使を送って獅子の口を閉ざしてくださいましたので、わたハ しはなんの危害も受けませんでした。神様に対するわたしの無実がハ 認められたのです。そして王様、あなたさまに対しても、背いたこハ とはございません。」
24:王はたいそう喜んで、ダニエルを洞窟から引き出すように命じた。ハ ダニエルは引き出されたが、その身に何の害も受けていなかった。ハ 神を信頼していたからである。
25:王は命令を下して、ダニエルを陥れようとした者たちを引き出させ、ハ 妻子もろとも獅子の洞窟に投げ込ませた。穴の底にも達しないうちハ に、獅子は彼らに飛びかかり、骨までもかみ砕いた。
26:ダレイオス王は、全地に住む諸国、諸族、諸言語の人々に、次のよハ うに書き送った。「いっそうの繁栄を願って挨拶を送る。
27:わたしは以下のとおりに定める。この王国全域において、すべてのハ 民はダニエルの神を恐れかしこまなければならない。この神は生けハ る神、世々にいまし/その主権は滅びることなく、その支配は永遠。
28:この神は救い主、助け主。天にも地にも、不思議な御業を行い/ダハ ニエルを獅子の力から救われた。」
29:こうしてダニエルは、ダレイオスとぺルシアのキュロスの治世を通ハ して活躍した。

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ダニエル書  第7章

◆四頭の獣の幻
ハ1:バビロンの王ベルシャツァルの治世元年のことである。ダニエルは、 眠っているとき頭に幻が浮かび、一つの夢を見た。彼はその夢を記 録することにし、次のように書き起こした。
ハ2:ある夜、わたしは幻を見た。見よ、天の四方から風が起こって、大 海を波立たせた。
ハ3:すると、その海から四頭の大きな獣が現れた。それぞれ形が異なり、
ハ4:第一のものは獅子のようであったが、鷲の翼が生えていた。見てい ると、翼は引き抜かれ、地面から起き上がらされて人間のようにそ の足で立ち、人間の心が与えられた。
ハ5:第二の獣は熊のようで、横ざまに寝て、三本の肋骨を口にくわえて いた。これに向かって、「立て、多くの肉を食らえ」という声がし た。
ハ6:次に見えたのはまた別の獣で、豹のようであった。背には鳥の翼が 四つあり、頭も四つあって、権力がこの獣に与えられた。
ハ7:この夜の幻で更に続けて見たものは、第四の獣で、ものすごく、恐 ろしく、非常に強く、巨大な鉄の歯を持ち、食らい、かみ砕き、残 りを足で踏みにじった。他の獣と異なって、これには十本の角があ った。
ハ8:その角を眺めていると、もう一本の小さな角が生えてきて、先の角 のうち三本はそのために引き抜かれてしまった。この小さな角には 人間のように目があり、また、口もあって尊大なことを語っていた。
ハ9:なお見ていると、/王座が据えられ/「日の老いたる者」がそこに 座した。その衣は雪のように白く/その白髪は清らかな羊の毛のよ うであった。その王座は燃える炎/その車輪は燃える火
10:その前から火の川が流れ出ていた。幾千人が御前に仕え/幾万人が 御前に立った。裁き主は席に着き/巻物が繰り広げられた。
11:さて、その間にもこの角は尊大なことを語り続けていたが、ついに その獣は殺され、死体は破壊されて燃え盛る火に投げ込まれた。
12:他の獣は権力を奪われたが、それぞれの定めの時まで生かしておか れた。
13:夜の幻をなお見ていると、/見よ、「人の子」のような者が天の雲 に乗り/「日の老いたる者」の前に来て、そのもとに進み
14:権威、威光、王権を受けた。諸国、諸族、諸言語の民は皆、彼に仕 え/彼の支配はとこしえに続き/その統治は滅びることがない。
15:わたしダニエルは大いに憂い、頭に浮かんだこの幻に悩まされた。
16:そこに立っている人の一人に近づいてこれらのことの意味を尋ねる と、彼はそれを説明し、解釈してくれた。
17:「これら四頭の大きな獣は、地上に起ころうとする四人の王である。
18:しかし、いと高き者の聖者らが王権を受け、王国をとこしえに治め るであろう。」
19:更にわたしは、第四の獣について知りたいと思った。これは他の獣 と異なって、非常に恐ろしく、鉄の歯と青銅のつめをもち、食らい、 かみ砕き、残りを足で踏みにじったものである。
20:その頭には十本の角があり、更に一本の角が生え出たので、十本の 角のうち三本が抜け落ちた。その角には目があり、また、口もあっ て尊大なことを語った。これは、他の角よりも大きく見えた。
21:見ていると、この角は聖者らと闘って勝ったが、
22:やがて、「日の老いたる者」が進み出て裁きを行い、いと高き者の 聖者らが勝ち、時が来て王権を受けたのである。
23:さて、その人はこう言った。「第四の獣は地上に興る第四の国/こ れはすべての国に異なり/全地を食らい尽くし、踏みにじり、打ち 砕く。
24:十の角はこの国に立つ十人の王/そのあとにもう一人の王が立つ。 彼は十人の王と異なり、三人の王を倒す。
25:彼はいと高き方に敵対して語り/いと高き方の聖者らを悩ます。彼 は時と法を変えようとたくらむ。聖者らは彼の手に渡され/一時期、 二時期、半時期がたつ。
26:やがて裁きの座が開かれ/彼はその権威を奪われ/滅ぼされ、絶や されて終わる。
27:天下の全王国の王権、権威、支配の力は/いと高き方の聖なる民に 与えられ/その国はとこしえに続き/支配者はすべて、彼らに仕え、 彼らに従う。」
28:ここでその言葉は終わった。わたしダニエルは大層恐れ悩み、顔色 も変わるほどであった。しかし、わたしはその言葉を心に留めた。
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ダニエル書  第8章

◆定めの七十週
ハ1:ダレイオスの治世第一年のことである。ダレイオスはメディア出身 で、クセルクセスの子であり、カルデア人の国を治めていた。
ハ2:さて、わたしダニエルは文書を読んでいて、エルサレムの荒廃の時 が終わるまでには、主が預言者エレミヤに告げられたように七十年 という年数のあることを悟った。
ハ3:わたしは主なる神を仰いで断食し、粗布をまとい、灰をかぶって祈 りをささげ、嘆願した。
ハ4:わたしは主なる神に祈り、罪を告白してこう言った。「主よ、畏る べき偉大な神よ、主を愛しその戒めに従う者には契約を守って慈し みを施される神よ、
ハ5:わたしたちは罪を犯し悪行を重ね、背き逆らって、あなたの戒めと 裁きから離れ去りました。
ハ6:あなたの僕である預言者たちが、御名によってわたしたちの王、指 導者、父祖、そして地の民のすべてに語ったのに、それに聞き従い ませんでした。
ハ7:主よ、あなたは正しくいます。わたしたちユダの者、エルサレムの 住民、すなわち、あなたに背いた罪のために全世界に散らされて、 遠くにまた近くに住むイスラエルの民すべてが、今日のように恥を 被っているのは当然なのです。
ハ8:主よ、恥を被るのはわたしたちであり、その王、指導者、父祖なの です。あなたに対して罪を犯したのですから。
ハ9:憐れみと赦しは主である神のもの。わたしたちは神に背きました。
10:あなたの僕である預言者たちを通して与えられた、律法に従って歩 むようにという主なる神の声に聞き従いませんでした。
11:イスラエルはすべて、あなたの律法を無視し、御声に耳を傾けませ んでした。ですから、神の僕モーセの律法に記されている誓いの呪 いが、わたしたちの上にふりかかってきたのです。あなたに対して 罪を犯したからにほかなりません。
12:わたしたちにも、わたしたちを治めた指導者にも告げられていた主 の御言葉は成就し、恐ろしい災難が襲いました。エルサレムに下さ れたこの災難ほど恐ろしいものは、いまだ天下に起こったことはあ り/ませんでした。
13:モーセの律法に記されているこの恐ろしい災難は、紛れもなくわた したちを襲いました。それでもなお、わたしたちは罪を離れて主な る神の怒りをなだめることをせず、またあなたのまことに目覚める こともできませんでした。
14:主はその悪を見張っておられ、それをわたしたちの上に下されまし た。わたしたちの主なる神のなさることはすべて正しく、それに対 して、わたしたちは御声に聞き従いませんでした。
15:わたしたちの神である主よ、強い御手をもって民をエジプトから導 き出し、今日に至る名声を得られた神よ、わたしたちは罪を犯し、 逆らいました。
16:主よ、常に変わらぬ恵みの御業をもってあなたの都、聖なる山エル サレムからあなたの怒りと憤りを翻してください。わたしたちの罪 と父祖の悪行のために、エルサレムもあなたの民も、近隣の民すべ てから嘲られています。
17:わたしたちの神よ、僕の祈りと嘆願に耳を傾けて、荒廃した聖所に 主御自身のために御顔の光を輝かしてください。
18:神よ、耳を傾けて聞いてください。目を開いて、わたしたちの荒廃 と、御名をもって呼ばれる都の荒廃とを御覧ください。わたしたち が正しいからではなく、あなたの深い憐れみのゆえに、伏して嘆願 の祈りをささげます。
19:主よ、聞いてください。主よ、お赦しください。主よ、耳を傾けて、 お計らいください。わたしの神よ、御自身のために、救いを遅らせ ないでください。あなたの都、あなたの民は、御名をもって呼ばれ ているのですから。」
20:こうしてなお訴え、祈り、わたし自身とわたしの民イスラエルの罪 を告白し、わたしの神の聖なる山について、主なるわたしの神に嘆 願し続けた。
21:こうして訴え祈っていると、先の幻で見た者、すなわちガブリエル が飛んで来て近づき、わたしに触れた。それは夕べの献げ物のころ のことであった。
22:彼は、わたしに理解させようとしてこう言った。「ダニエルよ、お 前を目覚めさせるために来た。
23:お前が嘆き祈り始めた時、御言葉が出されたので、それを告げに来 た。お前は愛されている者なのだ。この御言葉を悟り、この幻を理 解せよ。
24:お前の民と聖なる都に対して/七十週が定められている。それが過 ぎると逆らいは終わり/罪は封じられ、不義は償われる。とこしえ の正義が到来し/幻と預言は封じられ/最も聖なる者に油が注がれ る。
25:これを知り、目覚めよ。エルサレム復興と再建についての/御言葉 が出されてから/油注がれた君の到来まで/七週あり、また、六十 二週あって/危機のうちに広場と堀は再建される。
26:その六十二週のあと油注がれた者は/不当に断たれ/都と聖所は/ 次に来る指導者の民によって荒らされる。その終わりには洪水があ り/終わりまで戦いが続き/荒廃は避けられない。
27:彼は一週の間、多くの者と同盟を固め/半週でいけにえと献げ物を 廃止する。憎むべきものの翼の上に荒廃をもたらすものが座す。そ してついに、定められた破滅が荒廃の上に注がれる。」

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ダニエル書  第9章

◆定めの七十週

1:ダレイオスの治世第一年のことである。ダレイオスはメディア出身で、クセルクセスの子であり、カルデア人の国を治めていた。
2:さて、わたしダニエルは文書を読んでいて、エルサレムの荒廃の時が終わるまでには、主が預言者エレミヤに告げられたように七十年という年数のあることを悟った。
3:わたしは主なる神を仰いで断食し、粗布をまとい、灰をかぶって祈りをささげ、嘆願した。
4:わたしは主なる神に祈り、罪を告白してこう言った。「主よ、畏るべき偉大な神よ、主を愛しその戒めに従う者には契約を守って慈しみを施される神よ、
5:わたしたちは罪を犯し悪行を重ね、背き逆らって、あなたの戒めと裁きから離れ去りました。
6:あなたの僕である預言者たちが、御名によってわたしたちの王、指導者、父祖、そして地の民のすべてに語ったのに、それに聞き従いませんでした。
7:主よ、あなたは正しくいます。わたしたちユダの者、エルサレムの住民、すなわち、あなたに背いた罪のために全世界に散らされて、遠くにまた近くに住むイスラエルの民すべてが、今日のように恥を被っているのは当然なのです。
8:主よ、恥を被るのはわたしたちであり、その王、指導者、父祖なのです。あなたに対して罪を犯したのですから。
9:憐れみと赦しは主である神のもの。わたしたちは神に背きました。
10:あなたの僕である預言者たちを通して与えられた、律法に従って歩むようにという主なる神の声に聞き従いませんでした。
11:イスラエルはすべて、あなたの律法を無視し、御声に耳を傾けませんでした。ですから、神の僕モーセの律法に記されている誓いの呪いが、わたしたちの上にふりかかってきたのです。あなたに対して罪を犯したからにほかなりません。
12:わたしたちにも、わたしたちを治めた指導者にも告げられていた主の御言葉は成就し、恐ろしい災難が襲いました。エルサレムに下されたこの災難ほど恐ろしいものは、いまだ天下に起こったことはあり/ませんでした。
13:モーセの律法に記されているこの恐ろしい災難は、紛れもなくわたしたちを襲いました。それでもなお、わたしたちは罪を離れて主なる神の怒りをなだめることをせず、またあなたのまことに目覚めることもできませんでした。
14:主はその悪を見張っておられ、それをわたしたちの上に下されました。わたしたちの主なる神のなさることはすべて正しく、それに対して、わたしたちは御声に聞き従いませんでした。
15:わたしたちの神である主よ、強い御手をもって民をエジプトから導き出し、今日に至る名声を得られた神よ、わたしたちは罪を犯し、逆らいました。
16:主よ、常に変わらぬ恵みの御業をもってあなたの都、聖なる山エルサレムからあなたの怒りと憤りを翻してください。わたしたちの罪と父祖の悪行のために、エルサレムもあなたの民も、近隣の民すべてから嘲られています。
17:わたしたちの神よ、僕の祈りと嘆願に耳を傾けて、荒廃した聖所に主御自身のために御顔の光を輝かしてください。
18:神よ、耳を傾けて聞いてください。目を開いて、わたしたちの荒廃と、御名をもって呼ばれる都の荒廃とを御覧ください。わたしたちが正しいからではなく、あなたの深い憐れみのゆえに、伏して嘆願の祈りをささげます。
19:主よ、聞いてください。主よ、お赦しください。主よ、耳を傾けて、お計らいください。わたしの神よ、御自身のために、救いを遅らせないでください。あなたの都、あなたの民は、御名をもって呼ばれているのですから。」
20:こうしてなお訴え、祈り、わたし自身とわたしの民イスラエルの罪を告白し、わたしの神の聖なる山について、主なるわたしの神に嘆願し続けた。
21:こうして訴え祈っていると、先の幻で見た者、すなわちガブリエルが飛んで来て近づき、わたしに触れた。それは夕べの献げ物のころのことであった。
22:彼は、わたしに理解させようとしてこう言った。「ダニエルよ、お前を目覚めさせるために来た。
23:お前が嘆き祈り始めた時、御言葉が出されたので、それを告げに来た。お前は愛されている者なのだ。この御言葉を悟り、この幻を理解せよ。
24:お前の民と聖なる都に対して/七十週が定められている。それが過ぎると逆らいは終わり/罪は封じられ、不義は償われる。とこしえの正義が到来し/幻と預言は封じられ/最も聖なる者に油が注がれる。
25:これを知り、目覚めよ。エルサレム復興と再建についての/御言葉が出されてから/油注がれた君の到来まで/七週あり、また、六十二週あって/危機のうちに広場と堀は再建される。
26:その六十二週のあと油注がれた者は/不当に断たれ/都と聖所は/次に来る指導者の民によって荒らされる。その終わりには洪水があり/終わりまで戦いが続き/荒廃は避けられない。
27:彼は一週の間、多くの者と同盟を固め/半週でいけにえと献げ物を廃止する。憎むべきものの翼の上に荒廃をもたらすものが座す。そしてついに、定められた破滅が荒廃の上に注がれる。」

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ダニエル書  第10章

1:ペルシアの王キュロスの治世第三年のことである。ベルテシャツァルと呼ばれるダニエルに一つの言葉が啓示された。この言葉は真実であり、理解するのは非常に困難であったが、幻のうちに、ダニエルに説明が与えられた。

2:そのころわたしダニエルは、三週間にわたる嘆きの祈りをしていた。
3:その三週間は、一切の美食を遠ざけ、肉も酒も口にせず、体には香油も塗らなかった。
4:一月二十四日のこと、チグリスという大河の岸にわたしはいた。
5:目を上げて眺めると、見よ、一人の人が麻の衣を着、純金の帯を腰に締めて立っていた。
6:体は宝石のようで、顔は稲妻のよう、目は松明の炎のようで、腕と足は磨かれた青銅のよう、話す声は大群衆の声のようであった。
7:この幻を見たのはわたしダニエルひとりであって、共にいた人々は何も見なかったのだが、強い恐怖に襲われて逃げ出し、隠れてしまった。
8:わたしはひとり残ってその壮大な幻を眺めていたが、力が抜けていき、姿は変わり果てて打ちのめされ、気力を失ってしまった。
9:その人の話す声が聞こえてきたが、わたしは聞きながら意識を失い、地に倒れた。
10:突然、一つの手がわたしに触れて引き起こしたので、わたしは手と膝をついた。
11:彼はこう言った。「愛されている者ダニエルよ、わたしがお前に語ろうとする言葉をよく理解せよ、そして、立ち上がれ。
わたしはこうしてお前のところに遣わされて来たのだ。」
こう話しかけられて、わたしは震えながら立ち上がった。
12:彼は言葉を継いだ。「ダニエルよ、恐れることはない。神の前に心を尽くして苦行し、 神意を知ろうとし始めたその最初の日から、お前の言葉は聞き入れられており、お前の言葉のためにわたしは来た。
13:ペルシア王国の天使長が二十一日間わたしに抵抗したが、大天使長のひとりミカエルが助け/に来てくれたので、わたしはペルシアの王たちのところにいる必要がなくなった。
14:それで、お前の民に将来起こるであろうことを知らせるために来たのだ。この幻はその時に関するものだ。」
15:こう言われてわたしは顔を地に伏せ、言葉を失った。
16:すると見よ、人の子のような姿の者がわたしの唇に触れたので、わたしは口を開き、前に立つその姿に話しかけた。
「主よ、この幻のためにわたしは大層苦しみ、力を失いました。
17:どうして主の僕であるわたしのような者が、主のようなお方と話すことなどできましょうか。力はうせ、息も止まらんばかりです。」
18:人のようなその姿は、再びわたしに触れて力づけてくれた。
19:彼は言った。「恐れることはない。愛されている者よ。平和を取り戻し、しっかりしなさい。」こう言われて、わたしは力を取り戻し、こう答えた。「主よ、お話しください。わたしは力が出てきました。」
20:彼は言った。「なぜお前のところに来たか、分かったであろう。 今、わたしはペルシアの天使長と闘うために帰る。わたしが去るとすぐギリシアの天使長が現れるであろう。
21:しかし、真理の書に記されていることをお前に教えよう。お前たちの天使長ミカエルのほかに、これらに対してわたしを助ける者はないのだ。
 

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ダニエル書  第11章
1:彼はわたしを支え、力づけてくれる。
2:さて、お前に真理を告げよう。見よ、ペルシアになお三人の王が立つ。
次に、第四の王はだれにもまさって富み栄え、富の力をもってすべての者を動員し、ギリシア王国に挑戦する。
3:そこに、勇壮な王が起こり、大いに支配し、ほしいままに行動する。
4:その支配が確立するやいなや、この王国は砕かれて、天の四方向に分割される。
彼の子孫はこれを継がず、だれも彼のような支配力を持つ者はない。
この王国は根こそぎにされ、子孫以外の支配者たちに帰する。
5:このうち、南の王となった者は強くなるが、将軍の一人が王をしのぐ権力を取り、大いに支配する。
6:何年か後、二国は和睦し、南の王の娘は北の王に嫁ぎ、両国の友好を図る。だが、彼女は十分な支持を得ず、その子孫も力を持たない。
やがて、彼女も、供の者も、彼女の子らも、その支持者らも裏切られる。
7:だが、彼女の実家から一つの芽が出て支配の座に着き、北の王の城塞に攻め入ってこれを破り、勝利を得る。
8:彼は戦利品として、鋳物の神像や金銀の財宝をエジプトに運び去る。その後何年か、北の王に対して手を出さない。
9:北の王は南の王国に向かって行くが、自分の国に引き揚げる。
10:その子らは奮い立って進軍し、洪水/のような一進一退の後、敵の城塞に攻め寄せる。
11:南の王は激怒して出陣し、北の王と戦う。北の王は大軍を集めて立ち向かうが、彼らは敵の手に陥る。
12:この大軍を捕らえて南の王は大いに高ぶり、幾万人もの兵を殺すが、決定的に勝つことはできない。
13:北の王は再び前回にまさる大軍を集め、数年の後に強力な軍隊の軍備を整えて進軍する。
14:その時には、多くの者が南の王に対して立ち上がる。お前の民の中からも、暴力に頼る者らが幻を成就させようとして立ち上がるが、失敗する。
15:北の王は進軍し、堡塁を築き、砦に守られた町を占領する。南の王はこれに抵抗する力を持たず、えり抜きの軍勢も立ち向かうことができない。
16:敵は意のままに行動し、対抗する者はない。あの『麗しの地』に彼は支配を確立し、 一切をその手に収める。
17:彼は南の王国全体を支配しようと望み、和睦を図り、娘を与え、それによってこの国を滅ぼそうとするが、娘の力は続かず、役に立たない。
18:次に、彼は島々に目を向け、その多くを占領するが、ある軍人が彼の悪行にとどめを刺し、その悪行に報いる。
19:この軍人は自国の城塞に帰るが、そこで失墜し、倒れて消えうせる。
20:彼に代わって立つ者は、王国の栄光のためにと、税を取る者を巡回させる。しかし、幾日もたたないうちに、怒りにも戦いにも遭わずに滅び去る。
21:代わって立つ者は卑しむべき者で、王としての名誉は与えられず、平穏な時期に現れ、甘言を用いて王権を取る。
22:洪水のような勢力も彼によって押し流され、打ち破られ、契約の君も破られる。
23:この王は、僅かの腹心と共に悪計を用いて多くの者と同盟を結び、勢力を増し、強大になって行く。
24:平穏な時期に彼は最も豊かな地方を侵略し、先祖のだれもしたことのないようなことを行い、戦利品や財宝を分配する。
また、諸方の砦に対して計略を練るが、それは一時期のことである。
25:やがて彼は力と勇気を奮い起こし、南の王に対して大軍を整える。南の王も非常に強大な軍勢をもってこれと戦うが、計略にかかり、 勝つことができない。
26:すなわち、南の王の禄を食む者ら自身が彼を打ち破る。その軍勢は押し流され、多くの者が傷つき倒れる。
27:これら二人の王は、互いに悪意を抱きながら一つの食卓を囲み、虚言を語り合う。しかし、何事も成功しない。まだ終わりの時ではないからである。
28:北の王は莫大な富を獲得して自国に引き揚げる。聖なる契約に逆らう思いを抱いて、 ほしいままにふるまい、自国に帰る。
29:時が来て、彼は再び南に攻め入るが、これは最初でも最後でもない。
30:キティムの船隊が攻めるので、彼は力を失う。彼は再び聖なる契約に対し、怒りを燃やして行動し、また聖なる契/約を離れる者があることに気づく。
31:彼は軍隊を派遣して、砦すなわち聖所を汚し、日ごとの供え物を廃止し、憎むべき荒廃をもたらすものを立てる。
32:契約に逆らう者を甘言によって棄教させるが、自分の神を知る民は確固として行動する。
33:民の目覚めた人々は多くの者を導くが、ある期間、剣にかかり、火刑に処され、捕らわれ、略奪されて倒される。
34:こうして倒れるこの人々を助ける者は少なく、多くの者は彼らにくみするが、実は不誠実である。
35:これらの指導者の何人かが倒されるのは、終わりの時に備えて練り清められ、純白にされるためである。まだ時は来ていない。
36:あの王はほしいままにふるまい、いよいよ驕り高ぶって、どのような神よりも自分を高い者と考える。
すべての神にまさる神に向かって恐るべきことを口にし、怒りの時が終わるまで栄え続ける。定められたことは実現されねばならないからである。
37:先祖の神々を無視し、女たちの慕う神をも、そして他のどのような神をも尊ばず、自分を何者にもまさって偉大であると思う。
38:代わりに、先祖の知らなかった神、すなわち砦の神をあがめ、金銀、宝石、宝物でこれを飾り立てる。
39:強固な砦の数々を異国の神に頼って攻め、気に入った者には栄誉を与えて多くの者を支配させ、封土を与える。
40:終わりの時に至って、南の王は彼に戦いを挑む。それに対して北の王は、戦車、騎兵、大船隊をもって、嵐のように押し寄せ、
各国に攻め入り、洪水のように通過して行く。
41:あの『麗しの地』もこうして侵略され、多くの者が倒れる。アンモンの選ばれた者、エドム、モアブはその手を免れる。
42:彼は国から国へと手を伸ばし、エジプトもその手を免れえない。
43:エジプトの隠された宝、金銀、宝物はすべて彼の支配するところとなり、リビアとクシュは彼の進むところに従う。
44:次いで、東と北からの知らせに危険を感じ、多くの者を滅ぼし絶やそうと、大いに激昂して進軍する。
45:海とあの『麗しの地』の聖なる山との間に天幕を張って、王の宿営とする。しかし、ついに彼の終わりの時が来るが、助ける者はない。

ダニエル書  第12章1−13
 
1:その時、大天使長ミカエルが立つ。彼はお前の民の子らを守護する。
その時まで、苦難が続く/国が始まって以来、かつてなかったほどの苦難が。
 しかし、その時には救われるであろう/お前の民、あの書に記された人々は。
2:多くの者が地の塵の中の眠りから目覚める。ある者は永遠の生命に入り/
 ある者は永久に続く恥と憎悪の的となる。
3:目覚めた人々は大空の光のように輝き/多くの者の救いとなった人々は/
 とこしえに星と輝く。
4:ダニエルよ、終わりの時が来るまで、お前はこれらのことを秘め、
 この書を封じておきなさい。多くの者が動揺するであろう。そして、知識は増す。」
5:わたしダニエルは、なお眺め続けていると、見よ、更に二人の人が、
 川の両岸に一人ずつ立っているのが見えた。
6:その一人が、川の流れの上に立つ、あの麻の衣を着た人に向かって、
「これらの驚くべきことはいつまで続くのでしょうか」と尋ねた。
7:すると、川の流れの上に立つ、あの麻の衣を着た人が、左右の手を天に差し伸べ、
 永遠に生きるお方によってこう誓うのが聞こえた。
「一時期、二時期、そして半時期たって、聖なる民の力が全く打ち砕かれると、
 これらの事はすべて成就する。」
8:こう聞いてもわたしには理解できなかったので、尋ねた。
 「主よ、これらのことの終わりはどうなるのでしょうか。」
9:彼は答えた。「ダニエルよ、もう行きなさい。
 終わりの時までこれらの事は秘められ、封じられている。
10:多くの者は清められ、白くされ、練られる。逆らう者はなお逆らう。
逆らう者はだれも悟らないが、目覚めた人々は悟る。
11:日ごとの供え物が廃止され、憎むべき荒廃をもたらすものが立てられてから、
 千二百九十日が定められている。
12:待ち望んで千三百三十五日に至る者は、まことに幸いである。
13:終わりまでお前の道を行き、憩いに入りなさい。時の終わりにあたり、
 お前に定められている運命に従って、お前は立ち上がるであろう。」
  
 
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