聖書・Bible(新
共同
訳・聖書から)を
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引用:聖書 新共同訳:(c)日本聖書協会 Japan Bible Society , Tokyo 1987,1988から
◆洗礼者ヨハネ、教えを宣べる
1:神の子イエス・キリストの福音の 初め。
2:預言者イザヤの書にこう書いてあ る。「見よ、わたしはあなたより先に使者を遣わし、/あなたの道を準備させよう。
3:荒れ野で叫ぶ者の声がする。『主 の道を整え、/その道筋をまっすぐにせよ。』」そのとおり、
4:洗礼者ヨハネが荒れ野に現れて、 罪の赦しを得させるために悔い改めの洗礼を宣べ伝えた。
5:ユダヤの全地方とエルサレムの住 民は皆、ヨハネのもとに来て、罪を告白し、ヨルダン川で彼から洗礼を受けた。
6:ヨハネはらくだの毛衣を着、腰に 革の帯を締め、いなごと野蜜を食べていた。
7:彼はこう宣べ伝えた。「わたしよ りも優れた方が、後から来られる。わたしは、かがんでその方の履物のひもを解く値打ちもない。
8:わたしは水であなたたちに洗礼を 授けたが、その方は聖霊で洗礼をお授けになる。」
◆イエス、洗礼を受ける
9:そのころ、イエスはガリラヤのナ ザレから来て、ヨルダン川でヨハネから洗礼を受けられた。
10:水の中から上がるとすぐ、天が 裂けて“霊”が鳩のように御自分に降って来るのを、御覧になった。
11:すると、「あなたはわたしの愛 する子、わたしの心に適う者」という声が、天から聞こえた。
◆誘惑を受ける
12:それから、“霊”はイエスを荒 れ野に送り出した。
13:イエスは四十日間そこにとどま り、サタンから誘惑を受けられた。その間、野獣と一緒におられたが、天使たちが仕えていた。
◆ガリラヤで伝道を始める
14:ヨハネが捕らえられた後、イエ スはガリラヤへ行き、神の福音を宣べ伝えて、
15:「時は満ち、神の国は近づい た。悔い改めて福音を信じなさい」と言われた。
◆四人の漁師を弟子にする
16:イエスは、ガリラヤ湖のほとり を歩いておられたとき、シモンとシモンの兄弟アンデレが湖で網を打っているのを御覧になった。彼らは漁師 だった。
17:イエスは、「わたしについて来 なさい。人間をとる漁師にしよう」と言われた。
18:二人はすぐに網を捨てて従っ た。
19:また、少し進んで、ゼベダイの 子ヤコブとその兄弟ヨハネが、舟の中で網の手れをしているのを御覧になると、
20:すぐに彼らをお呼びになった。 この二人も父ゼベダイを雇い人たちと一緒に舟残して、イエスの後について行った。
◆汚れた霊に取りつかれた男をいやす
21:一行はカファルナウムに着い た。イエスは、安息日に会堂に入って教え始めらた。
22:人々はその教えに非常に驚い た。律法学者のようにではなく、権威ある者としてお教えになったからである。
23:そのとき、この会堂に汚れた霊 に取りつかれた男がいて叫んだ。
24:「ナザレのイエス、かまわない でくれ。我々を滅ぼしに来たのか。正体は分かっている。神の聖者だ。」
25:イエスが、「黙れ。この人から 出て行け」とお叱りになると、
26:汚れた霊はその人にけいれんを 起こさせ、大声をあげて出て行った。
27:人々は皆驚いて、論じ合った。 「これはいったいどういうことなのだ。権威ある新しい教えだ。この人が汚れた霊に命じると、その言うこと を聴く。」
28:イエスの評判は、たちまちガリ ラヤ地方の隅々にまで広まった。
◆多くの病人をいやす
29:すぐに、一行は会堂を出て、シ モンとアンデレの家に行った。ヤコブとヨハネも一緒であった。
30:シモンのしゅうとめが熱を出し て寝ていたので、人々は早速、彼女のことをイエスに話した。
31:イエスがそばに行き、手を取っ て起こされると、熱は去り、彼女は一同をもてなした。
32:夕方になって日が沈むと、人々 は、病人や悪霊に取りつかれた者を皆、イエスのもとに連れて来た。
33:町中の人が、戸口に集まった。
34:イエスは、いろいろな病気にか かっている大勢の人たちをいやし、また、多くの悪霊を追い出して、悪霊にものを言うことをお許しにならな かった。悪霊はイエスを知っていたからである。
◆巡回して宣教する
35:朝早くまだ暗いうちに、イエス は起きて、人里離れた所へ出て行き、そこで祈っておられた。
36:シモンとその仲間はイエスの後 を追い、
37:見つけると、「みんなが捜して います」と言った。
38:イエスは言われた。「近くのほ かの町や村へ行こう。そこでも、わたしは宣教する。そのためにわたしは出て来たのである。」
39:そして、ガリラヤ中の会堂に行 き、宣教し、悪霊を追い出された。
◆重い皮膚病を患っている人をいやす
40:さて、重い皮膚病を患っている 人が、イエスのところに来てひざまずいて願い、「御心ならば、わたしを清くすることがおできになります」 と言った。
41:イエスが深く憐れんで、手を差 し伸べてその人に触れ、「よろしい。清くなれ」と言われると、
42:たちまち重い皮膚病は去り、そ の人は清くなった。
43:イエスはすぐにその人を立ち去 らせようとし、厳しく注意して、
44:言われた。「だれにも、何も話 さないように気をつけなさい。ただ、行って祭司に体を見せ、モーセが定めたものを清めのために献げて、人 々に証明しなさい。」
45:しかし、彼はそこを立ち去る と、大いにこの出来事を人々に告げ、言い広め始めた。それで、イエスはもはや公然と町に入ることができず、 町の外の人のいない所におられた。それでも、人々は四方からイエスのところに集まって来た。
◆中風の人をいやす
1:数日後、イエスが再びカファルナ ウムに来られると、家におられることが知れ渡り、
2:大勢の人が集まったので、戸口の 辺りまですきまもないほどになった。イエスが御言葉を語っておられると、
3:四人の男が中風の人を運んで来 た。
4:しかし、群衆に阻まれて、イエス のもとに連れて行くことができなかったので、イエスがおられる辺りの屋根をはがして穴をあけ、病人の寝て いる床をつり降ろした。
5:イエスはその人たちの信仰を見 て、中風の人に、「子よ、あなたの罪は赦される」と言われた。
6:ところが、そこに律法学者が数人 座っていて、心の中であれこれと考えた。
7:「この人は、なぜこういうことを 口にするのか。神を冒涜している。神おひとりのほかに、いったいだれが、罪を赦すことができるだろう か。」
8:イエスは、彼らが心の中で考えて いることを、御自分の霊の力ですぐに知って言われた。「なぜ、そんな考えを心に抱くのか。
9:中風の人に『あなたの罪は赦され る』と言うのと、『起きて、床を担いで歩け』と言うのと、どちらが易しいか。
10:人の子が地上で罪を赦す権威を 持っていることを知らせよう。」そして、中風の人に言われた。
11:「わたしはあなたに言う。起き 上がり、床を担いで家に帰りなさい。」
12:その人は起き上がり、すぐに床 を担いで、皆の見ている前を出�ト行った。人々は皆驚き、「このようなことは、今まで見たことがない」と 言って、神を賛美した。
◆レビを弟子にする
13:イエスは、再び湖のほとりに出 て行かれた。群衆が皆そばに集まって来たので、イエスは教えられた。
14:そして通りがかりに、アルファ イの子レビが収税所に座っているのを見かけて、「わたしに従いなさい」と言われた。彼は立ち上がってイエ スに従った。
15:イエスがレビの家で食事の席に 着いておられたときのことである。多くの徴税人や罪人もイエスや弟子たちと同席していた。実に大勢の人が いて、イエスに従っていたのである。
16:ファリサイ派の律法学者は、イ エスが罪人や徴税人と一緒に食事をされるのを見て、弟子たちに、「どうして彼は徴税人や罪人と一緒に食事 をするのか」と言った。
17:イエスはこれを聞いて言われ た。「医者を必要とするのは、丈夫な人ではなく病人である。わたしが来たのは、正しい人を招くためではな く、罪人を招くためである。」
◆断食についての問答
18:ヨハネの弟子たちとファリサイ 派の人々は、断食していた。そこで、人々はイエスのところに来て言った。「ヨハネの弟子たちとファリサイ 派の弟子たちは断食しているのに、なぜ、あなたの弟子たちは断食しないのですか。」
19:イエスは言われた。「花婿が一 緒にいるのに、婚礼の客は断食できるだろうか。花婿が一緒にいるかぎり、断食はできない。
20:しかし、花婿が奪い取られる時 が来る。その日には、彼らは断食することになる。
21:だれも、織りたての布から布切 れを取って、古い服に継ぎを当てたりはしない。そんなことをすれば、新しい布切れが古い服を引き裂き、破 れはいっそうひどくなる。
22:また、だれも、新しいぶどう酒 を古い革袋に入れたりはしない。そんなことをすれば、ぶどう酒は革袋を破り、ぶどう酒も革袋もだめにな る。新しいぶどう酒は、新しい革袋に入れるものだ。」
◆安息日に麦の穂を摘む
23:ある安息日に、イエスが麦畑を 通って行かれると、弟子たちは歩きながら麦の穂を摘み始めた。
24:ファリサイ派の人々がイエス に、「御覧なさい。なぜ、彼らは安息日にしてはならないことをするのか」と言った。
25:イエスは言われた。「ダビデ が、自分も供の者たちも、食べ物がなくて空腹だったときに何をしたか、一度も読んだことがないのか。
26:アビアタルが大祭司であったと き、ダビデは神の家に入り、祭司のほかにはだれも食べてはならない供えのパンを食べ、一緒にいた者たちに も与えたではないか。」
27:そして更に言われた。「安息日 は、人のために定められた。人が安息日のためにあるのではない。
28:だから、人の子は安息日の主で もある。」
◆手の萎えた人をいやす
1:イエスはまた会堂にお入りになっ た。そこに片手の萎えた人がいた。
2:人々はイエスを訴えようと思っ て、安息日にこの人の病気をいやされるかどうか、注目していた。
3:イエスは手の萎えた人に、「真ん 中に立ちなさい」と言われた。
4:そして人々にこう言われた。「安 息日に律法で許されているのは、善を行うことか、悪を行うことか。命を救うことか、殺すことか。」彼らは 黙っていた。
5:そこで、イエスは怒って人々を見 回し、彼らのかたくなな心を悲しみながら、その人に、「手を伸ばしなさい」と言われた。伸ばすと、手は元 どおりになった。
6:ファリサイ派の人々は出て行き、 早速、ヘロデ派の人々と一緒に、どのようにしてイエスを殺そうかと相談し始めた。
◆湖の岸辺の群衆
7:イエスは弟子たちと共に湖の方へ 立ち去られた。ガリラヤから来たおびただしい群衆が従った。また、ユダヤ、
8:エルサレム、イドマヤ、ヨルダン 川の向こう側、ティルスやシドンの辺りからもおびただしい群衆が、イエスのしておられることを残らず聞い て、そばに集まって来た。
9:そこで、イエスは弟子たちに小舟 を用意してほしいと言われた。群衆に押しつぶされないためである。
10:イエスが多くの病人をいやされ たので、病気に悩む人たちが皆、イエスに触れようとして、そばに押し寄せたからであった。
11:汚れた霊どもは、イエスを見る とひれ伏して、「あなたは神の子だ」と叫んだ。
12:イエスは、自分のことを言いふ らさないようにと霊どもを厳しく戒められた。
◆十二人を選ぶ
13:イエスが山に登って、これと思 う人々を呼び寄せられると、彼らはそばに集まって来た。
14:そこで、十二人を任命し、使徒 と名付けられた。彼らを自分のそばに置くため、また、派遣して宣教させ、
15:悪霊を追い出す権能を持たせる ためであった。
16:こうして十二人を任命された。 シモンにはペトロという名を付けられた。
17:ゼベダイの子ヤコブとヤコブの 兄弟ヨハネ、この二人にはボアネルゲス、すなわち、「雷の子ら」という名を付けられた。
18:アンデレ、フィリポ、バルトロ マイ、マタイ、トマス、アルファイの子ヤコブ、タダイ、熱心党のシモン、
19:それに、イスカリオテのユダ。 このユダがイエスを裏切ったのである。
◆ベルゼブル論争
20:イエスが家に帰られると、群衆 がまた集まって来て、一同は食事をする暇もないほどであった。
21:身内の人たちはイエスのことを 聞いて取り押さえに来た。「あの男は気が変になっている」と言われていたからである。
22:エルサレムから下って来た律法 学者たちも、「あの男はベルゼブルに取りつかれている」と言い、また、「悪霊の頭の力で悪霊を追い出して いる」と言っていた。
23:そこで、イエスは彼らを呼び寄 せて、たとえを用いて語られた。「どうして、サタンがサタンを追い出せよう。
24:国が内輪で争えば、その国は成 り立たない。
25:家が内輪で争えば、その家は成 り立たない。
26:同じように、サタンが内輪もめ して争えば、立ち行かず、滅びてしまう。
27:また、まず強い人を縛り上げな ければ、だれも、その人の家に押し入って、家財道具を奪い取ることはできない。まず縛ってから、その家を 略奪するものだ。
28:はっきり言っておく。人の子ら が犯す罪やどんな冒涜の言葉も、すべて赦される。
29:しかし、聖霊を冒涜する者は永 遠に赦されず、永遠に罪の責めを負う。」
30:イエスがこう言われたのは、 「彼は汚れた霊に取りつかれている」と人々が言っていたからである。
◆イエスの母、兄弟
31:イエスの母と兄弟たちが来て外 に立ち、人をやってイエスを呼ばせた。
32:大勢の人が、イエスの周りに 座っていた。「御覧なさい。母上と兄弟姉妹がたが外であなたを捜しておられます」と知らされると、
33:イエスは、「わたしの母、わた しの兄弟とはだれか」と答え、
34:周りに座っている人々を見回し て言われた。「見なさい。ここにわたしの母、わたしの兄弟がいる。
35:神の御心を行う人こそ、わたし の兄弟、姉妹、また母なのだ。」
◆「種を蒔く人」のたとえ
1:イエスは、再び湖のほとりで教え 始められた。おびただしい群衆が、そばに集まって来た。そこで、イエスは舟に乗って腰を下ろし、湖の上に おられたが、群衆は皆、湖畔にいた。
2:イエスはたとえでいろいろと教え られ、その中で次のように言われた。
3:「よく聞きなさい。種を蒔く人が 種蒔きに出て行った。
4:蒔いている間に、ある種は道端に 落ち、鳥が来て食べてしまった。
5:ほかの種は、石だらけで土の少な い所に落ち、そこは土が浅いのですぐ芽を出した。
6:しかし、日が昇ると焼けて、根が ないために枯れてしまった。
7:ほかの種は茨の中に落ちた。する と茨が伸びて覆いふさいだので、実を結ばなかった。
8:また、ほかの種は良い土地に落 ち、芽生え、育って実を結び、あるものは三十倍、あるものは六十倍、あるものは百倍にもなった。」
9:そして、「聞く耳のある者は聞き なさい」と言われた。
◆たとえを用いて話す理由
10:イエスがひとりになられたと き、十二人と一緒にイエスの周りにいた人たちとがたとえについて尋ねた。
11:そこで、イエスは言われた。 「あなたがたには神の国の秘密が打ち明けられているが、外の人々には、すべてがたとえで示される。
12:それは、/『彼らが見るには見 るが、認めず、/聞くには聞くが、理解できず、/こうして、立ち帰って赦されることがない』/ようになる ためである。」
◆「種を蒔く人」のたとえの説明
13:また、イエスは言われた。「こ のたとえが分からないのか。では、どうしてほかのたとえが理解できるだろうか。
14:種を蒔く人は、神の言葉を蒔く のである。
15:道端のものとは、こういう人た ちである。そこに御言葉が蒔かれ、それを聞いても、すぐにサタンが来て、彼らに蒔かれた御言葉を奪い去 る。
16:石だらけの所に蒔かれるものと は、こういう人たちである。御言葉を聞くとすぐ喜んで受け入れるが、
17:自分には根がないので、しばら くは続いても、後で御言葉のために艱難や迫害が起こると、すぐにつまずいてしまう。
18:また、ほかの人たちは茨の中に 蒔かれるものである。この人たちは御言葉を聞くが、
19:この世の思い煩いや富の誘惑、 その他いろいろな欲望が心に入り込み、御言葉を覆いふさいで実らない。
20:良い土地に蒔かれたものとは、 御言葉を聞いて受け入れる人たちであり、ある者は三十倍、ある者は六十倍、ある者は百倍の実を結ぶのであ る。」
◆「ともし火」と「秤」のたとえ
21:また、イエスは言われた。「と もし火を持って来るのは、升の下や寝台の下に置くためだろうか。燭台の上に置くためではないか。
22:隠れているもので、あらわにな らないものはなく、秘められたもので、公にならないものはない。
23:聞く耳のある者は聞きなさ い。」
24:また、彼らに言われた。「何を 聞いているかに注意しなさい。あなたがたは自分の量る秤で量り与えられ、更にたくさん与えられる。
25:持っている人は更に与えられ、 持っていない人は持っているものまでも取り上げられる。」
◆「成長する種」のたとえ
26:また、イエスは言われた。「神 の国は次のようなものである。人が土に種を蒔いて、
27:夜昼、寝起きしているうちに、 種は芽を出して成長するが、どうしてそうなるのか、その人は知らない。
28:土はひとりでに実を結ばせるの であり、まず茎、次に穂、そしてその穂には豊かな実ができる。
29:実が熟すと、早速、鎌を入れ る。収穫の時が来たからである。」
◆「からし種」のたとえ
30:更に、イエスは言われた。「神 の国を何にたとえようか。どのようなたとえで示そうか。
31:それは、からし種のようなもの である。土に蒔くときには、地上のどんな種よりも小さいが、
32:蒔くと、成長してどんな野菜よ りも大きくなり、葉の陰に空の鳥が巣を作れるほど大きな枝を張る。」
◆たとえを用いて語る
33:イエスは、人々の聞く力に応じ て、このように多くのたとえで御言葉を語られた。
34:たとえを用いずに語ることはな かったが、御自分の弟子たちにはひそかにすべてを説明された。
◆突風を静める
35:その日の夕方になって、イエス は、「向こう岸に渡ろう」と弟子たちに言われた。
36:そこで、弟子たちは群衆を後に 残し、イエスを舟に乗せたまま漕ぎ出した。ほかの舟も一緒であった。
37:激しい突風が起こり、舟は波を かぶって、水浸しになるほどであった。
38:しかし、イエスは艫の方で枕を して眠っておられた。弟子たちはイ
エスを起こして、「先生、わたしたち がおぼれてもかまわないのですか」と言った。
39:イエスは起き上がって、風を叱 り、湖に、「黙れ。静まれ」と言われた。すると、風はやみ、すっかり凪になった。
40:イエスは言われた。「なぜ怖が るのか。まだ信じないのか。」
41:弟子たちは非常に恐れて、 「いったい、この方はどなたなのだろう。風や湖さえも従うではないか」と互いに言った。
◆悪霊に取りつかれたゲラサの人をいやす
1:一行は、湖の向こう岸にあるゲラ サ人の地方に着いた。
2:イエスが舟から上がられるとすぐ に、汚れた霊に取りつかれた人が墓場からやって来た。
3:この人は墓場を住まいとしてお り、もはやだれも、鎖を用いてさえつなぎとめておくことはできなかった。
4:これまでにも度々足枷や鎖で縛ら れたが、鎖は引きちぎり足枷は砕いてしまい、だれも彼を縛っておくことはできなかったのである。
5:彼は昼も夜も墓場や山で叫んだ り、石で自分を打ちたたいたりしていた。
6:イエスを遠くから見ると、走り 寄ってひれ伏し、
7:大声で叫んだ。「いと高き神の子 イエス、かまわないでくれ。後生だから、苦しめないでほしい。」
8:イエスが、「汚れた霊、この人か ら出て行け」と言われたからである。
9:そこで、イエスが、「名は何とい うのか」とお尋ねになると、「名はレギオン。大勢だから」と言った。
10:そして、自分たちをこの地方か ら追い出さないようにと、イエスにしきりに願った。
11:ところで、その辺りの山で豚の 大群がえさをあさっていた。
12:汚れた霊どもはイエスに、「豚 の中に送り込み、乗り移らせてくれ」と願った。
13:イエスがお許しになったので、 汚れた霊どもは出て、豚の中に入った。すると、二千匹ほどの豚の群れが崖を下って湖になだれ込み、湖の中 で次々とおぼれ死んだ。
14:豚飼いたちは逃げ出し、町や村 にこのことを知らせた。人々は何が起こったのかと見に来た。
15:彼らはイエスのところに来る と、レギオンに取りつかれていた人が服を着、正気になって座っているのを見て、恐ろしくなった。
16:成り行きを見ていた人たちは、 悪霊に取りつかれた人の身に起こったことと豚のことを人々に語った。
17:そこで、人々はイエスにその地 方から出て行ってもらいたいと言いだした。
18:イエスが舟に乗られると、悪霊 に取りつかれていた人が、一緒に行きたいと願った。
19:イエスはそれを許さないで、こ う言われた。「自分の家に帰りなさい。そして身内の人に、主があなたを憐れみ、あなたにしてくださったこ とをことごとく知らせなさい。」
20:その人は立ち去り、イエスが自 分にしてくださったことをことごとくデカポリス地方に言い広め始めた。人々は皆驚いた。
◆ヤイロの娘とイエスの服に触れる女
21:イエスが舟に乗って再び向こう 岸に渡られると、大勢の群衆がそばに集まって来た。イエスは湖のほとりにおられた。
22:会堂長の一人でヤイロという名 の人が来て、イエスを見ると足もとにひれ伏して、
23:しきりに願った。「わたしの幼 い娘が死にそうです。どうか、おいでになっ手を置いてやってください。そうすれば、娘は助かり、生きるで しょう。」
24:そこで、イエスはヤイロと一緒 に出かけて行かれた。大勢の群衆も、イエス従い、押し迫って来た。
25:さて、ここに十二年間も出血の 止まらない女がいた。
26:多くの医者にかかって、ひどく 苦しめられ、全財産を使い果たしても何の役も立たず、ますます悪くなるだけであった。
27:イエスのことを聞いて、群衆の 中に紛れ込み、後ろからイエスの服に触れた。
28:「この方の服にでも触れればい やしていただける」と思ったからである。
29:すると、すぐ出血が全く止まっ て病気がいやされたことを体に感じた。
30:イエスは、自分の内から力が出 て行ったことに気づいて、群衆の中で振り返り、「わたしの服に触れたのはだれか」と言われた。
31:そこで、弟子たちは言った。 「群衆があなたに押し迫っているのがお分かりでしょう。それなのに、『だれがわたしに触れたのか』とおっ しゃるのですか。」
32:しかし、イエスは、触れた者を 見つけようと、辺りを見回しておられた。
33:女は自分の身に起こったことを 知って恐ろしくなり、震えながら進み出てひれ伏し、すべてをありのまま話した。
34:イエスは言われた。「娘よ、あ なたの信仰があなたを救った。安心して行きなさい。もうその病気にかからず、元気に暮らしなさい。」
35:イエスがまだ話しておられると きに、会堂長の家から人々が来て言った。「お嬢さんは亡くなりました。もう、先生を煩わす�ノは及ば
ないでしょう。」
36:イエスはその話をそばで聞い て、「恐れることはない。ただ信じなさい」と会堂長に言われた。
37:そして、ペトロ、ヤコブ、また ヤコブの兄弟ヨハネのほかは、だれもついて来ることをお許しにならなかった。
38:一行は会堂長の家に着いた。イ エスは人々が大声で泣きわめいて騒いでいるのを見て、
39:家の中に入り、人々に言われ た。「なぜ、泣き騒ぐのか。子供は死んだのではない。眠っているのだ。」
40:人々はイエスをあざ笑った。し かし、イエスは皆を外に出し、子供の両親と三人の弟子だけを連れて、子供のいる所へ入って行かれた。
41:そして、子供の手を取って、 「タリタ、クム」と言われた。これは、「少女よ、わたしはあなたに言う。起きなさい」という意味である。
42:少女はすぐに起き上がって、歩 きだした。もう十二歳になっていたからである。それを見るや、人々は驚きのあまり我を忘れた。
43:イエスはこのことをだれにも知 らせないようにと厳しく命じ、また、食べ物を少女に与えるようにと言われた。
◆ナザレで受け入れられない
1:イエスはそこを去って故郷にお帰 りになったが、弟子たちも従った。
2:安息日になったので、イエスは会 堂で教え始められた。多くの人々はそれを聞いて、驚いて言った。「この人は、このようなことをどこから得 たのだろう。この人が授かった知恵と、その手で行われるこのような奇跡はいったい何か。
3:この人は、大工ではないか。マリ アの息子で、ヤコブ、ヨセ、ユダ、シモンの兄弟ではないか。姉妹たちは、ここで我々と一緒に住んでいるで はないか。」このように、人々はイエスにつまずいた。
4:イエスは、「預言者が敬われない のは、自分の故郷、親戚や家族の間だけである」と言われた。
5:そこでは、ごくわずかの病人に手 を置いていやされただけで、そのほかは何も奇跡を行うことがおできにならなかった。
6:そして、人々の不信仰に驚かれ た。
◆十二人を派遣する
:それから、イエスは付近の村を巡り 歩いてお教えになった。
7:そして、十二人を呼び寄せ、二人 ずつ組にして遣わすことにされた。その際、汚れた霊に対する権能を授け、
8:旅には杖一本のほか何も持たず、 パンも、袋も、また帯の中に金も持たず、
9:ただ履物は履くように、そして 「下着は二枚着てはならない」と命じられた。
10:また、こうも言われた。「どこ でも、ある家に入ったら、その土地から旅立つときまで、その家にとどまりなさい。
11:しかし、あなたがたを迎え入れ ず、あなたがたに耳を傾けようともしない所があったら、そこを出ていくとき、彼らへの証しとして足の裏の 埃を払い落としなさい。」
12:十二人は出かけて行って、悔い 改めさせるために宣教した。
13:そして、多くの悪霊を追い出 し、油を塗って多くの病人をいやした。
◆洗礼者ヨハネ、殺される
14:イエスの名が知れ渡ったので、 ヘロデ王の耳にも入った。人々は言っていた。「洗礼者ヨハネが死者の中から生き返ったのだ。だから、奇跡 を行う力が彼に働いている。」
15:そのほかにも、「彼はエリヤ だ」と言う人もいれば、「昔の預言者のような預言者だ」と言う人もいた。
16:ところが、ヘロデはこれを聞い て、「わたしが首をはねたあのヨハネが、生き返ったのだ」と言った。
17:実は、ヘロデは、自分の兄弟 フィリポの妻ヘロディアと結婚しており、そのことで人をやってヨハネを捕らえさせ、牢につないでいた。
18:ヨハネが、「自分の兄弟の妻と 結婚することは、律法で許されていない」とヘロデに言ったからである。
19:そこで、ヘロディアはヨハネを 恨み、彼を殺そうと思っていたが、できないでいた。
20:なぜなら、ヘロデが、ヨハネは 正しい聖なる人であることを知って、彼を恐れ、保/護し、また、その教えを聞いて非常に当惑しながらも、 なお喜んで耳を傾けていたからである。
21:ところが、良い機会が訪れた。 ヘロデが、自分の誕生日の祝いに高官や将校、ガリラヤの有力者などを招いて宴会を催すと、
22:ヘロディアの娘が入って来て踊 りをおどり、ヘロデとその客を喜ばせた。そこで、王は少女に、「欲しいものがあれば何でも言いなさい。お 前にやろう」と言い、
23:更に、「お前が願うなら、この 国の半分でもやろう」と固く誓ったのである。
24:少女が座を外して、母親に、 「何を願いましょうか」と言うと、母親は、「洗礼者ヨハネの首を」と言った。
25:早速、少女は大急ぎで王のとこ ろに行き、「今すぐに洗礼者ヨハネの首を盆に載せて、いただきとうございます」と願った。
26:王は非常に心を痛めたが、誓っ たことではあるし、また客の手前、少女の願いを退けたくなかった。
27:そこで、王は衛兵を遣わし、ヨ ハネの首を持って来るようにと命じた。衛兵は出て行き、牢の中でヨハネの首をはね、
28:盆に載せて持って来て少女に渡 し、少女はそれを母親に渡した。
29:ヨハネの弟子たちはこのことを 聞き、やって来て、遺体を引き取り、墓に納めた。
◆五千人に食べ物を与える
30:さて、使徒たちはイエスのとこ ろに集まって来て、自分たちが行ったことや教えたことを残らず報告した。
31:イエスは、「さあ、あなたがた だけで人里離れた所へ行って、しばらく休むがよい」と言われた。出入りする人が多くて、食事をする暇もな かったからである。
32:そこで、一同は舟に乗って、自 分たちだけで人里離れた所へ行った。
33:ところが、多くの人々は彼らが 出かけて行くのを見て、それと気づき、すべての町からそこへ一斉に駆けつけ、彼らより先に着いた。
34:イエスは舟から上がり、大勢の 群衆を見て、飼い主のいない羊のような有様を深く憐れみ、いろいろと教え始められた。
35:そのうち、時もだいぶたったの で、弟子たちがイエスのそばに来て言った。「ここは人里離れた所で、時間もだいぶたちました。
36:人々を解散させてください。そ うすれば、自分で周りの里や村へ、何か食べ物を買いに行くでしょう。」
37:これに対してイエスは、「あな たがたが彼らに食べ物を与えなさい」とお答えになった。弟子たちは、「わたしたちが二百デナリオンものパ ンを買って来て、みんなに食べさせるのですか」と言った。
38:イエスは言われた。「パンは幾 つあるのか。見て来なさい。」弟子たちは確かめて来て、言った。「五つあります。それに魚が二匹です。」
39:そこで、イエスは弟子たちに、 皆を組に分けて、青草の上に座らせるようにお命じになった。
40:人々は、百人、五十人ずつまと まって腰を下ろした。
41:イエスは五つのパンと二匹の魚 を取り、天を仰いで賛美の祈りを唱え、パンを裂いて、弟子たちに渡しては配らせ、二匹の魚も皆に分配され た。
42:すべての人が食べて満腹した。
43:そして、パンの屑と魚の残りを 集めると、十二の籠にいっぱいになった。
44:パンを食べた人は男が五千人で あった。
◆湖の上を歩く
45:それからすぐ、イエスは弟子た ちを強いて舟に乗せ、向こう岸のベトサイダへ先に行かせ、その間に御自分は群衆を解散させられた。
46:群衆と別れてから、祈るために 山へ行かれた。
47:夕方になると、舟は湖の真ん中 に出ていたが、イエスだけは陸地におられた。
48:ところが、逆風のために弟子た ちが漕ぎ悩んでいるのを見て、夜が明けるころ、湖の上を歩いて弟子たちのところに行き、そばを通り過ぎよ うとされた。
49:弟子たちは、イエスが湖上を歩 いておられるのを見て、幽霊だと思い、大声で叫んだ。
50:皆はイエスを見ておびえたので ある。しかし、イエスはすぐ彼らと話し始めて、「安心しなさい。わたしだ。恐れることはない」と言われ た。
51:イエスが舟に乗り込まれると、 風は静まり、弟子たちは心の中で非常に驚いた。
52:パンの出来事を理解せず、心が 鈍くなっていたからである。
◆ゲネサレトで病人をいやす
53:こうして、一行は湖を渡り、ゲ ネサレトという土地に着いて舟をつないだ。
54:一行が舟から上がると、すぐに 人々はイエスと知って、
55:その地方をくまなく走り回り、 どこでもイエスがおられると聞けば、そこへ病人を床に乗せて運び始めた。
56:村でも町でも里でも、イエスが 入って行かれると、病人を広場に置き、せめてその服のすそにでも触れさせてほしいと願った。触れた者は皆 いやされた。
◆昔の人の言い伝え
1:ファリサイ派の人々と数人の律法 学者たちが、エルサレムから来て、イエスのもとに集まった。
2:そして、イエスの弟子たちの中に 汚れた手、つまり洗わない手で食事をする者がいるのを見た。
3:――ファリサイ派の人々をはじめ ユダヤ人は皆、昔の人の言い伝えを固く守って、念入りに手を洗ってからでないと食事をせず、
4:また、市場から帰ったときには、 身を清めてからでないと食事をしない。そのほか、杯、鉢、銅の器や寝台を洗うことなど、昔から受け継いで 固く守っていることがたくさんある。――
5:そこで、ファリサイ派の人々と律 法学者たちが尋ねた。「なぜ、あなたの弟子たちは昔の人の言い伝えに従って歩まず、汚れた手で食事をする のですか。」
6:イエスは言われた。「イザヤは、 あなたたちのような偽善者のことを見事に預言したものだ。彼はこう書いている。『この民は口先ではわたし を敬うが、/その心はわたしから遠く離れている。
7:人間の戒めを教えとしておしえ、 /むなしくわたしをあがめている。』
8:あなたたちは神の掟を捨てて、人 間の言い伝えを固く守っている。」
9:更に、イエスは言われた。「あな たたちは自分の言い伝えを大事にして、よくも神の掟をないがしろにしたものである。
10:モーセは、『父と母を敬え』と 言い、『父または母をののしる者は死刑に処せられるべきである』とも言っている。
11:それなのに、あなたたちは言っ ている。『もし、だれかが父または母に対して、「あなたに差し上げるべきものは、何でもコルバン、つまり 神への供え物です」と言えば、
12:その人はもはや父または母に対 して何もしないで済むのだ』と。
13:こうして、あなたたちは、受け 継いだ言い伝えで神の言葉を無にしている。また、これと同じようなことをたくさん行っている。」
14:それから、イエスは再び群衆を 呼び寄せて言われた。「皆、わたしの言うことを聞いて悟りなさい。
15:外から人の体に入るもので人を 汚すことができるものは何もなく、人の中から出て来るものが、人を汚すのである。」
16>:聞く耳のある者は聞き なさい。
(底本に節が欠けている個所の異 本による訳文)
17:イエスが群衆と別れて家に入ら れると、弟子たちはこのたとえについて尋ねた。
18:イエスは言われた。「あなたが たも、そんなに物分かりが悪いのか。
すべて外から人の体に入るものは、人 を汚すことができないことが
分からないのか。
19:それは人の心の中に入るのでは なく、腹の中に入り、そして外に出
される。こうして、すべての食べ物は 清められる。」
20:更に、次のように言われた。 「人から出て来るものこそ、人を汚す。
21:中から、つまり人間の心から、 悪い思いが出て来るからである。み
だらな行い、盗み、殺意、
22:姦淫、貪欲、悪意、詐欺、好 色、ねたみ、悪口、傲慢、無分別など、
23:これらの悪はみな中から出て来 て、人を汚すのである。」
◆シリア・フェニキアの女の信仰
24:イエスはそこを立ち去って、 ティルスの地方に行かれた。ある家に入り、だれにも知られたくないと思っておられたが、人々に気づかれてし まった。
25:汚れた霊に取りつかれた幼い娘 を持つ女が、すぐにイエスのことを聞きつけ、来てその足もとにひれ伏した。
26:女はギリシア人でシリア・フェ ニキアの生まれであったが、娘から悪霊を追い出してくださいと頼んだ。
27:イエスは言われた。「まず、子 供たちに十分食べさせなければならない。子供たちのパンを取って、小犬にやってはいけない。」
28:ところが、女は答えて言った。 「主よ、しかし、食卓の下の小犬も、子供のパン屑はいただきます。」
29:そこで、イエスは言われた。 「それほど言うなら、よろしい。家に帰りなさい。悪霊はあなたの娘からもう出てしまった。」
30:女が家に帰ってみると、その子 は床の上に寝ており、悪霊は出てしまっていた。
◆耳が聞こえず舌の回らない人をいや す
31:それからまた、イエスはティル スの地方を去り、シドンを経てデカポリス地方を通り抜け、ガリラヤ湖へやって来られた。
32:人々は耳が聞こえず舌の回らな い人を連れて来て、その上に手を置いてくださるようにと願った。
33:そこで、イエスはこの人だけを 群衆の中から連れ出し、指をその両耳に差し入れ、それから唾をつけてその舌に触れられた。
34:そして、天を仰いで深く息をつ き、その人に向かって、「エッファタ」と言われた。これは、「開け」という意味である。
35:すると、たちまち耳が開き、舌 のもつれが解け、はっきり話すことができるようになった。
36:イエスは人々に、だれにもこの ことを話してはいけない、と口止めをされた。しかし、イエスが口止めをされればされるほど、人々はかえっ てますます言い広めた。
37:そして、すっかり驚いて言っ た。「この方のなさったことはすべて、すばらしい。耳の聞こえない人を聞こえるようにし、口の利けない人を 話せるようにしてくださる。」
◆四千人に食べ物を与える
1:そのころ、また群衆が大勢いて、 何も食べる物がなかったので、イエスは弟子たちを呼び寄せて言われた。
2:「群衆がかわいそうだ。もう三日 もわたしと一緒にいるのに、食べ物がない。
3:空腹のまま家に帰らせると、途中 で疲れきってしまうだろう。中には遠くから来ている者もいる。」
4:弟子たちは答えた。「こんな人里 離れた所で、いったいどこからパンを手に入れて、これだけの人に十分食べさせることができるでし
ょうか。」
5:イエスが「パンは幾つあるか」と お尋ねになると、弟子たちは、「七つあります」と言った。
6:そこで、イエスは地面に座るよう に群衆に命じ、七つのパンを取り、感謝の祈りを唱えてこれを裂き、人々に配るようにと弟子たちにお渡しに なった。弟子たちは群衆に配った。
7:また、小さい魚が少しあったの で、賛美の祈りを唱えて、それも配るようにと言われた。
8:人々は食べて満腹したが、残った パンの屑を集めると、七籠になった。
9:およそ四千人の人がいた。イエス は彼らを解散させられた。
10:それからすぐに、弟子たちと共 に舟に乗って、ダルマヌタの地方に行かれた。
◆人々はしるしを欲しがる
11:ファリサイ派の人々が来て、イ エスを試そうとして、天からのしるしを求め、議論をしかけた。
12:イエスは、心の中で深く嘆いて 言われた。「どうして、今の時代の者たちはしるしを欲しがるのだろう。はっきり言っておく。今の時代の者 たちには、決してしるしは与えられない。」
13:そして、彼らをそのままにし て、また舟に乗って向こう岸へ行かれた。
◆ファリサイ派の人々とヘロデのパン 種
14:弟子たちはパンを持って来るの を忘れ、舟の中には一つのパンしか持ち合わせていなかった。
15:そのとき、イエスは、「ファリ サイ派の人々のパン種とヘロデのパン種によく気をつけなさい」と戒められた。
16:弟子たちは、これは自分たちが パンを持っていないからなのだ、と論じ合っていた。
17:イエスはそれに気づいて言われ た。「なぜ、パンを持っていないことで議論するのか。まだ、分からないのか。悟らないのか。心がかたくな になっているのか。
18:目があっても見えないのか。耳 があっても聞こえないのか。覚えていないのか。
19:わたしが五千人に五つのパンを 裂いたとき、集めたパンの屑でいっぱいになった籠は、幾つあったか。」弟子たちは、「十二です」と言っ た。
20:「七つのパンを四千人に裂いた ときには、集めたパンの屑でいっぱいになった籠は、幾つあったか。」「七つです」と言うと、
21:イエスは、「まだ悟らないの か」と言われた。
◆ベトサイダで盲人をいやす
22:一行はベトサイダに着いた。人 々が一人の盲人をイエスのところに連れて来て、触れていただきたいと願った。
23:イエスは盲人の手を取って、村 の外に連れ出し、その目に唾をつけ、両手をその人の上に置いて、「何か見えるか」とお尋ねになった。
24:すると、盲人は見えるように なって、言った。「人が見えます。木のようですが、歩いているのが分かります。」
25:そこで、イエスがもう一度両手 をその目に当てられると、よく見えてきていやされ、何でもはっきり見えるようになった。
26:イエスは、「この村に入っては いけない」と言って、その人を家に帰された。
◆ペトロ、信仰を言い表す
27:イエスは、弟子たちとフィリ ポ・カイサリア地方の方々の村にお出かけになった。その途中、弟子たちに、「人々は、わたしのことを何者だ と言っているか」と言われた。
28:弟子たちは言った。「『洗礼者 ヨハネだ』と言っています。ほかに、『エリヤだ』と言う人も、『預言者の一人だ』と言う人もいます。」
29:そこでイエスがお尋ねになっ た。「それでは、あなたがたはわたしを何者だと言うのか。」ペトロが答えた。「あなたは、メシアです。」
30:するとイエスは、御自分のこと をだれにも話さないようにと弟子たちを戒められた。
◆イエス、死と復活を予告する
31:それからイエスは、人の子は必 ず多くの苦しみを受け、長老、祭司長、律法学者たちから排斥されて殺され、三日の後に復活することになっ ている、と弟子たちに教え始められた。
32:しかも、そのことをはっきりと お話しになった。すると、ペトロはイエスをわきへお連れして、いさめ始めた。
33:イエスは振り返って、弟子たち を見ながら、ペトロを叱って言われた。「サタン、引き下がれ。あなたは神のことを思わず、人間のことを 思っている。」
34:それから、群衆を弟子たちと共 に呼び寄せて言われた。「わたしの後に従いたい者は、自分を捨て、自分の十字架を背負って、わたしに従い なさい。
35:自分の命を救いたいと思う者 は、それを失うが、わたしのため、また福音のために命を失う者は、それを救うのである。
36:人は、たとえ全世界を手に入れ ても、自分の命を失ったら、何の得があろうか。
37:自分の命を買い戻すのに、どん な代価を支払えようか。
38:神に背いたこの罪深い時代に、 わたしとわたしの言葉を恥じる者は、人の子もまた、父の栄光に輝いて聖なる天使たちと共に来るときに、そ の者を恥じる。」
1:また、イエスは言われた。「はっ きり言っておく。ここに一緒にいる人々の中には、神の国が力にあふれて現れるのを見るまでは、決して死な ない者がいる。」
◆イエスの姿が変わる
2:六日の後、イエスは、ただペト ロ、ヤコブ、ヨハネだけを連れて、高い山に登られた。イエスの姿が彼らの目の前で変わり、
3:服は真っ白に輝き、この世のどん なさらし職人の腕も及ばぬほど白くなった。
4:エリヤがモーセと共に現れて、イ エスと語り合っていた。
5:ペトロが口をはさんでイエスに 言った。「先生、わたしたちがここにいるのは、すばらしいことです。仮小屋を三つ建てましょう。一つはあな たのため、一つはモーセのため、もう一つはエリヤのためです。」
6:ペトロは、どう言えばよいのか、 分からなかった。弟子たちは非常に恐れていたのである。
7:すると、雲が現れて彼らを覆い、 雲の中から声がした。「これはわたしの愛する子。これに聞け。」
8:弟子たちは急いで辺りを見回した が、もはやだれも見えず、ただイエスだけが彼らと一緒におられた。
9:一同が山を下りるとき、イエス は、「人の子が死者の中から復活するまでは、今見たことをだれにも話してはいけない」と弟子たちに命じられ た。
10:彼らはこの言葉を心に留めて、 死者の中から復活するとはどういうことかと論じ合った。
11:そして、イエスに、「なぜ、律 法学者は、まずエリヤが来るはずだと言っているのでしょうか」と尋ねた。
12:イエスは言われた。「確かに、 まずエリヤが来て、すべてを元どおりにする。それなら、人の子は苦しみを重ね、辱めを受けると聖書に書い てあるのはなぜか。
13:しかし、言っておく。エリヤは 来たが、彼について聖書に書いてあるように、人々は好きなようにあしらったのである。」
◆汚れた霊に取りつかれた子をいやす
14:一同がほかの弟子たちのところ に来てみると、彼らは大勢の群衆に取り囲まれて、律法学者たちと議論していた。
15:群衆は皆、イエスを見つけて非 常に驚き、駆け寄って来て挨拶した。
16:イエスが、「何を議論している のか」とお尋ねになると、
17:群衆の中のある者が答えた。 「先生、息子をおそばに連れて参りました。この子は霊に取りつかれて、ものが言えません。
18:霊がこの子に取りつくと、所か まわず地面に引き倒すのです。すると、この子は口から泡を出し、歯ぎしりして体をこわばらせてしまいま す。この霊を追い出してくださるようにお弟子たちに申しましたが、できませんでした。」
19:イエスはお答えになった。「な んと信仰のない時代なのか。いつまでわたしはあなたがたと共にいられようか。いつまで、あなたがたに我慢 しなければならないのか。その子をわたしのところに連れて来なさい。」
20:人々は息子をイエスのところに 連れて来た。霊は、イエスを見ると、すぐにその子を引きつけさせた。その子は地面に倒れ、転び回って泡を 吹いた。
21:イエスは父親に、「このように なったのは、いつごろからか」とお尋ねになった。父親は言った。「幼い時からです。
22:霊は息子を殺そうとして、もう 何度も火の中や水の中に投げ込みました。おできになるなら、わたしどもを憐れんでお助けください。」
23:イエスは言われた。「『できれ ば』と言うか。信じる者には何でもできる。」
24:その子の父親はすぐに叫んだ。 「信じます。信仰のないわたしをお助けください。」
25:イエスは、群衆が走り寄って来 るのを見ると、汚れた霊をお叱りになった。「ものも言わせず、耳も聞こえさせない霊、わたしの命令だ。こ の子から出て行け。二度とこの子の中に入るな。」
26:すると、霊は叫び声をあげ、ひ どく引きつけさせて出て行った。その子は死んだようになったので、多くの者が、「死んでしまった」と言っ た。
27:しかし、イエスが手を取って起 こされると、立ち上がった。
28:イエスが家の中に入られると、 弟子たちはひそかに、「なぜ、わたしたちはあの霊を追い出せなかったのでしょうか」と尋ねた。
29:イエスは、「この種のものは、 祈りによらなければ決して追い出すことはできないのだ」と言われた。
◆再び自分の死と復活を予告する
30:一行はそこを去って、ガリラヤ を通って行った。しかし、イエスは人に気づかれるのを好まれなかった。
31:それは弟子たちに、「人の子 は、人々の手に引き渡され、殺される。殺されて三日の後に復活する」と言っておられたからである。
32:弟子たちはこの言葉が分からな かったが、怖くて尋ねられなかった。
◆いちばん偉い者
33:一行はカファルナウムに来た。 家に着いてから、イエスは弟子たちに、「途中で何を議論していたのか」とお尋ねになった。
34:彼らは黙っていた。途中でだれ がいちばん偉いかと議論し合っていたからである。
35:イエスが座り、十二人を呼び寄 せて言われた。「いちばん先になりたい者は、すべての人の後になり、すべての人に仕える者になりなさ い。」
36:そして、一人の子供の手を取っ て彼らの真ん中に立たせ、抱き上げ
て言われた。
37:「わたしの名のためにこのよう な子供の一人を受け入れる者は、わたしを受け入れるのである。わたしを受け入れる者は、わたしではなく て、わたしをお遣わしになった方を受け入れるのである。」
◆逆らわない者は味方
38:ヨハネがイエスに言った。「先 生、お名前を使って悪霊を追い出している者を見ましたが、わたしたちに従わないので、やめさせようとしま した。」
39:イエスは言われた。「やめさせ てはならない。わたしの名を使って奇跡を行い、そのすぐ後で、わたしの悪口は言えまい。
40:わたしたちに逆らわない者は、 わたしたちの味方なのである。
41:はっきり言っておく。キリスト の弟子だという理由で、あなたがたに一杯の水を飲ませてくれる者は、必ずその報いを受ける。」
◆罪への誘惑
42:「わたしを信じるこれらの小さ な者の一人をつまずかせる者は、大きな石臼を首に懸けられて、海に投げ込まれてしまう�がはるかによい。
43:もし片方の手があなたをつまず かせるなら、切り捨ててしまいなさい。両手がそろったまま地獄の消えない火の中に落ちるよりは、片手に なっても命にあずかる方がよい。
44>:地獄では蛆が尽きるこ とも、火が消えることもない。
(底本に節が欠けている個所の異 本による訳文)
45:もし片方の足があなたをつまず かせるなら、切り捨ててしまいなさい。両足がそろったままで地獄に投げ込まれるよりは、片足になっても命 にあずかる方がよい。
46>:地獄では蛆が尽きるこ とも、火が消えることもない。
(底本に節が欠けている個所の異 本による訳文)
47:もし片方の目があなたをつまず かせるなら、えぐり出しなさい。両方の目がそろったまま地獄に投げ込まれるよりは、一つの目になっても神 の国に入る方がよい。
48:地獄では蛆が尽きることも、火 が消えることもない。
49:人は皆、火で塩味を付けられ る。
50:塩は良いものである。だが、塩 に塩気がなくなれば、あなたがたは何によって塩に味を付けるのか。自分自身の内に塩を持ちなさい。そし て、互いに平和に過ごしなさい。」
◆離縁について教える
1:イエスはそこを立ち去って、ユダ ヤ地方とヨルダン川の向こう側に行かれた。群衆がまた集まって来たので、イエスは再びいつものように教え ておられた。
2:ファリサイ派の人々が近寄って、 「夫が妻を離縁することは、律法に適っているでしょうか」と尋ねた。イエスを試そうとしたのである。
3:イエスは、「モーセはあなたたち に何と命じたか」と問い返された。
4:彼らは、「モーセは、離縁状を書 いて離縁することを許しました」と言った。
5:イエスは言われた。「あなたたち の心が頑固なので、このような掟をモーセは書いたのだ。
6:しかし、天地創造の初めから、神 は人を男と女とにお造りになった。
7:それゆえ、人は父母を離れてその 妻と結ばれ、
8:二人は一体となる。だから二人は もはや別々ではなく、一体である。
9:従って、神が結び合わせてくだ さったものを、人は離してはならない。」
10:家に戻ってから、弟子たちがま たこのことについて尋ねた。
11:イエスは言われた。「妻を離縁 して他の女を妻にする者は、妻に対して姦通の罪を犯すことになる。
12:夫を離縁して他の男を夫にする 者も、姦通の罪を犯すことになる。」
◆子供を祝福する
13:イエスに触れていただくため に、人々が子供たちを連れて来た。弟子たちはこの人々を叱った。
14:しかし、イエスはこれを見て憤 り、弟子たちに言われた。「子供たちをわたしのところに来させなさい。妨げてはならない。神の国はこのよ うな者たちのものである。
15:はっきり言っておく。子供のよ うに神の国を受け入れる人でなければ、決してそこに入ることはできない。」
16:そして、子供たちを抱き上げ、 手を置いて祝福された。
◆金持ちの男
17:イエスが旅に出ようとされる と、ある人が走り寄って、ひざまずいて尋ねた。「善い先生、永遠の命を受け継ぐには、何をすればよいでしょ うか。」
18:イエスは言われた。「なぜ、わ たしを『善い』と言うのか。神おひとりのほかに、善い者はだれもいない。
19:『殺すな、姦淫するな、盗む な、偽証するな、奪い取るな、父母を敬え』という掟をあなたは知っているはずだ。」
20:すると彼は、「先生、そういう ことはみな、子供の時から守ってきました」と言った。
21:イエスは彼を見つめ、慈しんで 言われた。「あなたに欠けているものが一つある。行って持っている物を売り払い、貧しい人々に施しなさ い。そうすれば、天に富を積むことになる。それから、わたしに従いなさい。」
22:その人はこの言葉に気を落と し、悲しみながら立ち去った。たくさんの財産を持っていたからである。
23:イエスは弟子たちを見回して言 われた。「財産のある者が神の国に入るのは、なんと難しいことか。」
24:弟子たちはこの言葉を聞いて驚 いた。イエスは更に言葉を続けられた。「子たちよ、神の国に入るのは、なんと難しいことか。
25:金持ちが神の国に入るよりも、 らくだが針の穴を通る方がまだ易しい。」
26:弟子たちはますます驚いて、 「それでは、だれが救われるのだろう
か」と互いに言った。
27:イエスは彼らを見つめて言われ た。「人間にできることではないが、神にはできる。神は何でもできるからだ。」
28:ペトロがイエスに、「このとお り、わたしたちは何もかも捨ててあなたに従って参りました」と言いだした。
29:イエスは言われた。「はっきり 言っておく。わたしのためまた福音のために、家、兄弟、姉妹、母、父、子供、畑を捨てた者はだれでも、
30:今この世で、迫害も受けるが、 家、兄弟、姉妹、母、子供、畑も百倍受け、後の世では永遠の命を受ける。
31:しかし、先にいる多くの者が後 になり、後にいる多くの者が先になる。」
◆イエス、三度自分の死と復活を予告 する
32:一行がエルサレムへ上って行く 途中、イエスは先頭に立って進んで行かれた。それを見て、弟子たちは驚き、従う者たちは恐れた。イエスは 再び十二人を呼び寄せて、自分の身に起ころうとしていることを話し始められた。
33:「今、わたしたちはエルサレム へ上って行く。人の子は祭司長たちや律法学者たちに引き渡される。彼らは死刑を宣告して異邦人に引き渡 す。
34:異邦人は人の子を侮辱し、唾を かけ、鞭打ったうえで殺す。そして、人の子は三日の後に復活する。」
◆ヤコブとヨハネの願い
35:ゼベダイの子ヤコブとヨハネが 進み出て、イエスに言った。「先生、お願いすることをかなえていただきたいのですが。」
36:イエスが、「何をしてほしいの か」と言われると、
37:二人は言った。「栄光をお受け になるとき、わたしどもの一人をあなたの右に、もう一人を左に座らせてください。」
38:イエスは言われた。「あなたが たは、自分が何を願っているか、分かっていない。このわたしが飲む杯を飲み、このわたしが受ける洗礼を受 けることができるか。」
39:彼らが、「できます」と言う と、イエスは言われた。「確かに、あなたがたはわたしが飲む杯を飲み、わたしが受ける洗礼を受けることにな る。
40:しかし、わたしの右や左にだれ が座るかは、わたしの決めることではない。それは、定められた人々に許されるのだ。」
41:ほかの十人の者はこれを聞い て、ヤコブとヨハネのことで腹を立て始めた。
42:そこで、イエスは一同を呼び寄 せて言われた。「あなたがたも知っているように、異邦人の間では、支配者と見なされている人々が民を支配 し、偉い人たちが権力を振るっている。
43:しかし、あなたがたの間では、 そうではない。あなたがたの中で偉くなりたい者は、皆に仕える者になり、
44:いちばん上になりたい者は、す べての人の僕になりなさい。
45:人の子は仕えられるためではな く仕えるために、また、多くの人の身代金として自分の命を献げるために来たのである。」
◆盲人バルティマイをいやす
46:一行はエリコの町に着いた。イ エスが弟子たちや大勢の群衆と一緒に、エリコを出て行こうとされたとき、ティマイの子で、バルティマイと いう盲人の物乞いが道端に座っていた。
47:ナザレのイエス